34 勇者パーティとの決闘
前回のあらすじ
ウィンディーネを討伐&仲間にしたシドであったが、そこに勇者パーティが乱入して波乱の予感。
俺の前に現れたのは――勇者パーティだった。
青髪の美丈夫――勇者シルヴァン。
茶髪の大男――重騎士ガーレン。
オレンジ髪の美少女――魔術師リリアム。
褐色肌の無口な少女――アサシン、ルゥルゥ。
「あんたらの目的はこのドロップアイテムか?」
「なんだよ、分かってんじゃねェか。早くそれを寄越せよ。オレ達の獲物を横取りしやがってよ!」
ダンジョンコアと共に出現した、ウィンディーネのドロップアイテムを凝視する。
液体の入った小瓶の様だが、勇者パーティがそこまでして欲しがるアイテムとは果たして――
――【名前】ウィンディーネの涙
――【効果】使用者のあらゆる傷、病を回復させる。
「(なるほどな、確かに強力なアイテムだ)」
まぁ――ウィンディーネの影霊を手に入れた俺にとっては意味のない代物だ。
ウィンディーネに回復魔法を使わせればいいのだから。
だからといって――クズ野郎共に渡すつもりはサラサラないが。
よく見れば、重騎士ガーレンの右腕に包帯が吊るされている。
どうやらガーレンの傷を治すためにこの薬が必要らしい。
「いくらなら譲ってくれるだろうか?」
勇者シルヴァンが問う。
シルヴァンは王族だ、法外な金額を吹っ掛けても払ってくれるだろう。
「悪いがいくら積まれてもこの薬を売る気はねェな。あんたらだってそうだろう?」
「つべこべ言わずに渡せっつてんだろッ! シカイ族が調子こいてんじゃねェぞッ!」
「そうそう❤ 頭の悪いシカイ族でも、痛い目見るより、お金で解決する方が良いってことは理解できるよね~❤」
「金には困ってないもんでね……そうだな、冒険者協会の真ん中で、かつてシカイ族の奴隷を見捨てたことを告白するなら、譲ってやってもいい」
「心当たりがないな。何を言っているのか理解できないが、君が交渉に応じる気がないというのは分かった――ならば、こちらにも考えがある」
シルヴァンが剣を抜く。
続いてガーレンも、左腕で長剣を抜いた。
以前使っていた大剣ではない。
あの腕では大剣を持つのは無理だろう。
「ちょっと、力づくでいくの? コイツ、ソロでA級ダンジョンクリアしてるんですけど?」
「ビビッてんのかリリアム? どうせここのボスは回復魔法しか使えない精霊型の魔物だろ? 大したことねェよ」
いや全くそんなことはなかったぞ。
めちゃくちゃ手下召喚してきたし、攻撃魔法も高威力だったし。
タンクが片腕を負傷している今の勇者パーティでウィンディーネが倒せていたとは到底思えない。
「ルゥルゥ、君もナイフを抜け」
「…………」
無言のまま、アサシンのルゥルゥも得物を抜いた。
『シド、どうする? 傍観者はどこにもおらぬ、復讐を果たすには絶好の機会と見えるが?』
「(そうだな……確かにエカルラートのいう通りだ)」
俺も長剣の柄に手をかける。
一触即発の雰囲気――そこで、玄室の扉が開いた。
「なんだ――随分と剣呑な雰囲気だな」
更に新手の冒険者が入室する。
そこにいたのは――
「…………人類最強」
「アルムガルド・エルドラド……ッ!?」
黒檀色のフルメイルで全身を武装し、甲冑を含めれば身の丈2メートルを超す巨躯。
背負っている人が扱うにはあまりにも大きな大剣は、もはや鋼の板と言うべきか。
現存している唯一のS級冒険者――アルムガルド・エルドラド。
「ふむ……1番乗りだと思っていたのだが、どうやら3着か。こんなことなら鎧は置いてくるべきだったかな」
目撃者の登場に、勇者パーティに冷や汗が流れる。
「既に攻略済みであれば長居は無用――と言いたいところだが、見過ごせない雰囲気だな。もしや勇者パーティは、他の冒険者から手柄を略奪しようとしているのか?」
「アルムガルド氏、勘違いして貰っては困る。これはこの国の伝統に則った正統な決闘だよ」
嘘つけ。
力づくで奪いに来てただろ。
面の皮が厚すぎる……!
「それは事実か? シド・ラノルス」
人類最強が問いかける。
「ああ、事実だ」
折角なのでのっかることにする。
ガチの殺し合いだろうと、決闘であろうと、負けるつもりはないのだから。
俺は理を見通す眼で全員のステータスを確認する。
名前:シルヴァン・レングナード
クラス:勇者
レベル:55
HP:860/1045
MP:830/935
筋力:165
防御:160
速力:155
器用:145
魔力:160
運値:170
名前:ガーレン・ヴォルフ
クラス:重騎士
レベル:56
HP:400/1340
MP:130/440
筋力:175
防御:225
速力:105
器用:110
魔力:78
運値:135
名前:リリアム・モース
クラス:魔術師
レベル:30
HP:350/360
MP:480/840
筋力:42
防御:40
速力:45
器用:70
魔力:120
運値:95
名前:ルゥルゥ・ジンジャー
クラス:アサシン
レベル:45
HP:810/810
MP:720/720
筋力:135
防御:90
速力:185
器用:175
魔力:68
運値:135
名前:アルムガルド・エルドラド
クラス:剣聖
レベル:179
HP:5370/5370
MP:4180/4480
筋力:805
防御:700
速力:715
器用:660
魔力:350
運値:590
そしてこれが現在の俺のステータス。
名前:シド・ラノルス
クラス:影霊術師
レベル:80
HP:1600/1600
MP:1245/1760
筋力:280
防御:240
速力:305
器用:320
魔力:200
運値:170
もはや勇者パーティは俺の敵ではない。
やろうと思えば瞬殺出来る能力差が、俺と奴らの間にある。
だが――人類最強。
コイツには勝てる気がしない。
エカルラートとヴァナルガンドを含めた総力戦を仕掛ければ勝てるかもしれないが、俺にはアルムガルドを殺す理由がない。
むしろアルムガルドは、俺が冒険者協会でガーレンに絡まれていた時、仲介に入ってくれた善人だ。
俺は善人ではないが、理由もなく善人を殺すような極悪人でもない。
悪人ではあるかもしれないが……。
それに人類最強を失うのは冒険者業界にとってあまりにも痛手。
アルムガルドに救われた人間は数多く、これからも多くの人間を救うのだろう。
故に――今この場で復讐を執行するのは無しだ。
「コイツらの言うように、これは決闘で間違いない」
「そうか。では貴殿が勝利した場合は、勇者パーティに何を要求するのだ?」
「じゃあ――さっきも言ったが、冒険者協会でかつてシカイ族を使い捨てにしたことを謝罪して貰おう」
「だからオレ達はんなことしてねェつってんだろうがッ!」
「いや――構わない。どうせ勝つのはボク達だ。その条件を飲もう」
「では僭越ながら、ワタシが立会人を務めさせて貰おう。双方文句はないな?」
「勿論。あんたは冒険者の中で最も信用出来る人物だ」
「こちらも構わない」
「承知した。では双方――用意――始めッ!」
アルムガルドの掛け声と共に、戦火が切られた。
この場では殺さない。
だが――屈辱的な敗北を味わわせてやるから覚悟しろ。




