31 勇者パーティの様子
今回は久々の勇者パーティ再登場です。
――一方。
――第二王子シルヴァンを筆頭とする勇者パーティ。
「はァ!? 治せねェってどういうことだッ! 金ならいくらでも出すっつってんだろッ!」
「あなたの傷は負傷後かなりの時間が経っており、既に回復魔法では治せません。私が未熟なばかりに……大変申し訳ございません」
「謝罪はいい! だったら治せる坊主を連れてこいっつってんだよッ!」
勇者パーティ一行は王都中央区にある聖教会の総本山――通称大聖堂に足を運んでいた。
その一室で怒鳴り声を上げるのは、王宮騎士団から出向している重騎士ガーレン。
彼の右腕は包帯に巻かれていた。
荷物持ちのシドを失った後、シドなしでダンジョンに潜った結果、不覚を取りポイズンゴブリンの攻撃を受けてしまった。
その時ガーレンはただのゴブリンの攻撃と思って治療を後回しにしていたが、数日後に腕に違和感を覚え、気付いた時には激しい激痛に悩まされ、剣は愚かナイフすら握れない状態になっていた。
「ちょっと~❤ あんた《慈愛の聖女》の娘なんでしょ~❤ これくらいの傷ちゃちゃっと治しちゃってよ~❤」
聖教会に所属している勇者パーティの魔術師リリアムは、古巣である大聖堂の聖職者ならガーレンの傷を治せるかもしれないと助言。
王子であるシルヴァンの権力を使って大聖堂の門を叩いたのであった――が、そこでもガーレンの傷の治療は出来ないと言われる始末であった。
彼らに頭を下げるのは、先日S級ダンジョン【緋宵月】にてシド・ラノルスと共闘したシスター――フローレンス・キューティクル。
あの《慈愛の聖女》の娘であればなんとかしてくれるかもしれないと指名されたフローレンスであったが、未だ修行中の身である彼女には荷が重い依頼であった。
「クソがッ! ゴブリン如きの毒で俺の腕を切るなんて末代までの恥だろうがッ! ありえねェ!」
「彼の傷を医者に見せたところ、ここまで毒が進行した場合、切断しなければ命に関わると言われてしまった。彼は勇者パーティになくてはならない存在だ。聖教会が保有している聖遺物であれば、彼の傷も治せると聞き及んでいる。どうかお願いできないだろうか?」
「で、殿下っ! どうか頭をあげてください! いっぱしのシスター如きに恐れ多いです!」
「では聖遺物の管理を行っている枢機卿団にお取次ぎ願いたい」
「い、いかに殿下の頼みと言えど、聖遺物を易々と使うわけには……」
「お前じゃ話になんねェから偉い奴連れてこいっつってんだよッ! 話の分からねェ奴だな! オレは無能な奴を見てるとイライラすんだよボケカスがッ!」
「ガーレン言い過ぎだ。彼女が怯えている」
重騎士ガーレンは以前までは荷物持ちのシドを虐げることでストレスを発散させていた。
しかしシドはもうおらず、生来の短気で自分の感情を制御できないガーレンは誰かに怒りをぶつけなければ気が済まなかった。
「も、申し訳……ございません……っ」
フローレンスはガーレンの怒声で萎縮し、目尻に溜まった涙が今にも零れ落ちそうになっていた。
「殿下御一行――彼女はまだ修行中の身、こちら側に失礼があったと存じますが、何卒ご容赦くださいませ」
「シ、シーナ様!」
「あっ❤ シーナさん❤ 久しぶりで~す❤」
大聖堂の応接室に、背の高い女聖騎士が入室する。
長い金髪をポニーテールにした女聖騎士――シーナ・アイテールの姿を見て、フローレンスとリリアムは声をあげる。
ちなみにアサシンのルゥルゥも同席しているが、アサシンよろしく影を薄くして一言も言葉を発さずに部屋の隅に立っていた。
「久しいなリリアム、息災そうでなによりだ」
「元気で~す❤」
リリアムは《聖痕の騎士団》に席を連ねる聖騎士であり、シーナとも顔なじみであった。
「失礼ですが、あなたは?」
勇者シルヴァンが尋ねる。
「《聖痕の騎士団》の第三席――《聖痕之参》、シーナ・アイテールと申します。そこのシスター、フローレンスの教育係をしております。この度は我々の不手際で殿下御一行にご迷惑おかけしたこと、深く謝罪いたします」
「いや、気にしなくていい。こちらこそうちのガーレンが失礼した。普段は頼れる奴なのだが、腕を負傷して精神的に参っているんだ。許してくれ」
シルヴァンはフォローを入れるも、ガーレンの言葉遣いが乱暴なのは五体満足の時からである。
「してシーナ殿――どうやら普通の回復魔法ではガーレンの腕を治すことは叶わないらしい。そこで大聖堂が保有する聖遺物の力をお借りしたいのだが、聖遺物の管理を行っている枢機卿団に取り次いでは頂けないだろうか?」
「申し訳ございません。聖遺物は聖教会にとって非常に貴重で尊重される過去の聖人達の遺物。例え殿下の頼みと言えども、そう易々持ち出せるものではございません」
「ボクの父――国王陛下の言葉でもか?」
「恐れながら、その通りに存じます」
聖教会は国教に定められていることもあり、王国内では強大な権力を持ち、時に王宮よりも力を持つことさえある。
伝統と格式を重視する聖教会にとって、例え王族の頼みと言えども、聖遺物を使用することは到底許可できない事なのである。
S級ダンジョン【緋宵月】の真紅の吸血姫を討伐する際には、《聖痕の騎士団》の頭目――オズワルド・ワイデンライヒがいくつかの聖遺物を持ち出した前例がある。
だが、それさえも枢機卿団による幾重もの会議の末に、ようやく許可が降りた程であった。
「しかしながら1つ、殿下のお役に立つであろう情報がございます」
「ほぅ……なんだそれは?」
「先日新たに出現したA級ダンジョン【藍蘭湖】――冒険者協会の調べによると、そこのボスはウィンディーネとのことです」
「ウィンディーネ……確か大型の精霊型の魔物で、回復魔法に長けているそうだな」
「仰る通りでございます。そしてダンジョンボスを討伐した際には、ボスに縁のあるアイテムをドロップするのは冒険者にとっては周知の事実かと存じます」
「なるほど……つまりA級ダンジョン【藍蘭湖】をクリアすれば、ガーレンの腕を治す魔道具が手に入る可能性があるという訳だな――その情報を得られただけでもここに来たかいがあった。礼を言う」
勇者パーティ一行は大聖堂を後にする。
向かうは件のA級ダンジョン【藍蘭湖】。
奇しくも――シド・ラノルスが奴隷の少女を救うために向かっている場所と同じであった。
ガーレンの傷は12話でゴブリンに負った時のものです。
そもそもなんでこの勇者パーティヒーラーがいないんだよ……




