28 魔刀(ちょっとベタベタしてる)
今回は前半は三人称、後半の一人称視点となってます
「フロウ!! ここにいたのかッ!!」
「シーナ様! ご無事だったのですねっ!」
「バカもの! それはこっちのセリフだ!」
S級ダンジョン【緋宵月】の最深部。
古い神殿のような玄室に、聖教会の騎士――シーナ・アイテールが飛び込んでくる。
そこにいるシスター服の少女の姿を見て、シーナはフローレンスを強く抱きしめた。
「フロウを失ったら、お前の母君に……フランシス様に申し訳が立たない……良かった、生きていて……」
「シーナ様、ご心配おかけしました……ぐ、ぐるぢッ!?」
シーナはオズワルド・ワイデンライヒ枢機卿の捜索中、転移トラップを踏んでしまった所、フローレンスが身代わりになることで逃れることが出来た。
シーナは即座にフローレンスを捜索すべく、部下に指示を出し、シーナもまた最も危険なエリアから捜索を開始した。
すなわち最深部。
シーナは道中のS級ダンジョンの深層を全力疾走し、すれ違う魔物を切り伏せながら最深部へ向かったのであった。
結果――シーナの最悪な予感は的中。
最深部の玄室にフローレンスを発見するも、傷一つない状態の彼女を見てシーナは安堵の涙を流すのであった。
「おお……こちらはもしやワイデンライヒ卿か――くッ! やはり既に亡くなっておられたか。しかし真紅の吸血姫はいずこに?」
シーナは周囲を見渡すも、ダンジョンボスである真紅の吸血姫の姿はどこにもない。
「恐らくですが、ワイデンライヒ卿は命を賭して真紅の吸血姫を討伐されたのかと存じます。私がこうして生きていられるのも、ワイデンライヒ卿のおかげという事になりますね」
「流石はワイデンライヒ卿。貴殿は最後の最後まで、聖者として勤めを果たしたのですね……」
シーナとフローレンスはオズワルド・ワイデンライヒの遺体と、彼が所持していた聖遺物の回収を済ますと、散り散りとなった部下達と合流すべく玄室を後にする。
「…………シド・ラノルス様」
フローレンスは玄室から出る前に振り返り、ぽつりと――共に死線を潜り抜けた黒髪の青年の名前を呟いた。
「どうしたフロウ」
「いえ、なんでもございません!」
***
――無人となった玄室。
床が闇色に変色して次元の裂け目が出現すると、巨大な狼が這い出す。
パカ――と巨大な顎が開くと、俺――シド・ラノルスはヴァナルガンドの口内から外に出た。
「行ったか」
『一時はどうなるかと思ったが、よもや妾の力なしにヴァナルガンドを倒すとは思いもせんかったわ――カハハ』
ヴァナルガンドを討伐した後、【死霊操術】を発動しヴァナルガンドの使役に成功した。
エカルラート曰く、コイツの能力を十全に使うには【影霊操術】よりも肉体を所持している【死霊操術】の方が都合が良いらしい。
強力な自己治癒能力を持っており、腐る心配もないらしい。
『まさかあの女聖騎士、単身でダンジョン最下層まで降りてくるとはのゥ、只者ではないと思っておったが、想像以上の実力者じゃな』
ヴァナルガンドを使役してすぐ、玄室に誰かが入ってくる気配を感じ、ヴァナルガンドの時空を行き来する能力を使って異空間に身を隠し――今に至る。
『更に面白いのはあの小娘、シドのこともヴァナルガンドのことも一言も女聖騎士に漏らさなかったのゥ。都合がいい事ではあるが』
「そうだな」
フロウとは共に死線を潜り抜けた間柄。
それもあって絆を感じずにはいられないし、彼女も同じことを思ってくれていたのか、俺達のことを上司に口外しなかった。
「あいつなら本当に……シカイ族の差別意識を取り払ってくれる聖職者になってくれるかも、しれねェな」
そんな事を思うのであった。
「んで――こいつがヴァナルガンドか」
『グルルル』
巨狼の顎をなでる。
先ほどまでの凶暴さが嘘のように大人しくなっている。
「ヴァナルガンドの能力は大きく分けて2つ――1つはマーキングした場所を距離の制限なく自由に行き来することが出来る異空間移動能力――もう1つはあらゆる物を呑みくだし、体内で保管する異空間収納能力じゃ」
フロウの上司から身を隠すために、ヴァナルガンドの口の中に入り、異空間で身を潜めていたが、それがその異空間能力なのだろう。
「俺の影の中に収納できるのは影霊とお前のみだからな。あらゆるものを収納できるヴァナルガンドの能力は非常に便利だな」
よく武器を壊してしまうが、ヴァナルガンドの中に武器のストックを入れておくことも出来るし、ダンジョン内で集めた魔石もかさばらずに所持することが出来る。
そして一度訪れた場所であれば距離に関わらずに移動する能力。
これもチート級の能力と言える。
更にヴァナルガンドを倒したことで、尋常ではない量の経験値を獲得し、一気にレベルが78にまで上がった。
強力な影霊達。
不死の肉体。
勇者パーティを圧倒するまでに鍛えたレベル及びステータス。
デュラハン師匠に鍛えて貰った剣術。
「ようやく、復讐の準備が揃ったな」
「クカカ――ついに始めるのか?」
「ああ、今に見てろよ……クソ野郎共……」
勇者シルヴァン。
重騎士ガーレン。
魔術師リリアム。
アサシンルゥルゥ。
奴らの顔を思い出し、ついに復讐出来ると思うと、凄惨な笑みを浮かべずにはいられなかった。
「ああ、あとこれ返すわ。サンキューな」
戦闘も終わったのでエカルラートから借りていた刀を返す。
「おお――《魔刀・忌緋月》じゃな。気に入ったのならおぬしが持っててもよいぞ。これは切れ味が良すぎて空間さえも切り裂く故、ヴァナルガンドの中には入れられんがのゥ。妾がしていたようにごくっと喉の奥にしまっとけ」
「できるかそんな事! それに嫌だよお前の唾液でべとべとしてるしちょっと臭いし……ほら、くんくん」
「臭くはない! こら! だから匂いを嗅ぐな!!」




