24 懐かしの場所と小さなシスター
トンッ――と瓦礫の山の上に着地する。
俺が瓦礫の下敷きになり、自分自身の肉体に【死霊操術】を発動させた場所だ。
ここから最奥部までの道のりは今も覚えている。
「ネズミ達――様子はどうだ?」
聖教会を尾行させている影霊ネズミと視界共有する。
「何やら慌ただしいな。視界しか共有できないから何を喋っているのか分かんねェ……」
指揮を取っているであろう金髪の女聖騎士が、部下達に指示を出したかと思うと、聖騎士達は6人ごとのチームにバラけて四方へ散っていく様子が伺える。
「下層に続く階段を探すために手分けしているのか? それにしては女が鬼気迫る雰囲気なのが気がかりだが」
とりあえず遠隔でネズミ達に指示を出し、バラけた聖騎士団それぞれに最低1匹の監視を付ける。
「妙だな……シスター服のガキがいない。尾行漏れがあったか?」
聖騎士達の動向をチェックしながらダンジョンを進んでいると――
「きゃあああああああッッ!!」
――少女の叫び声が回廊に響いた。
この声――聞き覚えがある。
馬車で出会ったシスターの声だ。
「ッ! なぜこんな下層に!?」
声のした方へ疾走すると、回廊の先に声の主を発見する。
『グオオオオオオッッッッ!!』
シスターの少女は尻もちをついて長い金髪の毛先が地面に広がっており、その向かいには棍棒を振り下ろす直前の赤肌のオークの姿。
――疾ッ!
地面を蹴りあげ、一足飛びで少女と赤肌のオークの間に割り込み――左腕で攻撃を受ける。
『グオオオオオオッッッッ!?!?』
右腕で長剣を抜いて首を刎ねれば、赤肌のオークは後ろ向きに倒れて絶命した。
この赤い肌――オークの上位種であるレッドオークだな。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございますっ! あっ! あなたは先日のシカイ族の方!」
「また縁があったな」
少女は俺の手を借りながら立ち上がると、深々と頭を下げる。
「危ないところを助けて頂きまして、まことにありがとうございます。あなたは命の恩人です」
「気にするな。焼き菓子の礼だ」
「そんな! お菓子1つとではつり合いが取れません! あっ、腕から血が出ています! 私を守るために怪我を……!」
レッドオークとの間に割り込んだとき、オークの攻撃で左腕で受け止めた時の傷だ。
「心配はいらん。すぐに治る――」
「私、回復魔法は得意なんです。【ヒール】」
少女は俺の左腕に手を伸ばすと回復魔法を発動、そして――
――グツグツグツグツ……バシュッ!!
「がッ!?」
――左腕が爆ぜる。
――HP840/1000
「えッ!? な、なんでッ!?」
少女同様に俺も驚きが隠せない。
『シド、おぬしは既に妾と同じアンデッド。回復魔法は逆に毒となる』
「(確かにアンデッド系の魔物に回復魔法をかけるとダメージを与えることが出来るが、まさか俺の身体もそうなっていたとはな……)」
不死身の肉体の意外な弱点が露見する。
「どうして……私、確かに回復魔法を……!? 間違えて攻撃魔法を出してしまったなんてことは……!?」
「落ち着け、俺は平気だ。そんな泣きそうな顔をすんな」
残った方の腕で少女の頭を撫でて落ち着かせる。
その間に弾けた腕は再生する。
「こ、今度はなくなった腕が……ッ!?」
「あー、ちょっとした特異体質で回復魔法を浴びると逆にダメージを食らうんだ。その代わり、身体の傷は勝手に治っていく――この通りな。だから俺に回復魔法は必要ない」
「そ、それってまるで……ア、アン――」
失言だと気付いた少女はアンデッド――と言い切る前に、両手で自分の口を抑える。
「気にすんな。アンデッドみてェなもんだ。不気味か?」
「い、いえ……あなたが命の恩人であることに変わりはありません。むしろあなたの体質のことを知らず、逆にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした!」
少女は拒絶するどころか、先ほど爆ぜた方の腕に小さな両手を添える。
恐らく――拒絶していないことに対する気持ちを行動で表しているのだろう。
本当に珍しいシスターだ。
「それで、お前はこんな所に1人でなにやってんだ? ここがS級ダンジョンの最下層だって分かってるのか?」
「さ、最下層!? そ、それは存じ上げませんでした」
話を聞くに、最初は仲間と一緒にいたのだが、転移トラップにかかって1人だけ別の場所に飛ばされてしまったらしい。
孤立した所をレッドオークに見つかり殺されそうになっていた所を、悲鳴を聞きつけてきた俺に助けられた――ということらしい。
「なるほどな。そもそもなんで聖教会はS級ダンジョンに来たんだ?」
「えっ!? そ、それは……」
少女は言いにくそうに口をまごまごとさせる。
けれどレッドオークに命を救われたことと、回復魔法で腕を吹き飛ばした負い目もあり――ここへ来た目的をゆっくりと話し始めた。
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