23 聖教会再び
前回のあらすじ
影霊デュラハンによる剣術修行を完遂したシドは、エカルラートから再びS級ダンジョン【緋宵月】へ行くことを提案される。
エカルラートの思惑に従い、シドは因縁の場所に再度足を踏み入れるのであった。
――デュラハン師匠による剣術修行を完遂した翌日。
エカルラートの助言に従い、ダークホースに乗ってS級ダンジョン【緋宵月】へ向かっていた。
『よもやよもや――妾の巣穴に先客がおるのゥ』
「あの記章……聖教会の奴らか」
ダンジョンの入口には剣呑な空気を纏わせた聖教会の聖騎士がたむろしており、その数は20人以上、30人以下といった具合だ。
「……しばらく様子を見よう」
ダークホースを影に収納して身を隠す。
半身だけ乗り出して聖教会の様子を覗き込むと、見知った顔を発見。
「総員覚悟の準備はいいな! これより突入する!」
「「「「了解しましたッッッッ!!!!」」」」
指揮を取っているのは先日――B級ダンジョン【黒首塚】へ向かう時に利用した乗り合い馬車で出会った女聖騎士だ。
今日も長い金髪をポニーテールに結んで、白い鎧を纏っている。
同様に、馬車で焼き菓子を差し出してきた見習いシスターの少女もいた。
こちらも先日と同じ白いシスター服といった恰好。
「聖教会もS級ダンジョンの攻略を目論んでいたのか……?」
準備が整ったようで、女聖騎士を先頭に聖教会の集団はダンジョンの中へ潜っていく。
『先を越される恐れがあるな。シド、妾達も後に続くぞ』
最後尾を歩く聖騎士がダンジョンに入ったのを確認してから、気配を消しながら俺もダンジョンに潜る。
「……誰もいないし、行軍の音も聞こえない。やはりワープ装置を使ったか」
5階層ごとに存在するフロアボスを倒すことで、ダンジョンの入口とを繋ぐワープ装置が解放される。
奴らの目的が俺と同じ最奥部なら、間違いなく地下20層へ向かっただろう。
ミノタウロスを倒した際に使用できるようになったワープ装置だ。
「ワープ装置起動。地下20層まで」
ワープ装置を操作し20階層までワープ。
「……かすかに鎧がこすれる音が聞こえる。やはり奴らも最奥部へ行くつもりか――影霊顕現」
『『『『チューチュー』』』』
俺は影の中から10匹のネズミ影霊を召喚する。
購入した屋敷の先住民たちだ。
掃除の際に大量に駆除し、何かに利用できるかもしれないと【影霊操術】していたが、意外と早く出番が来たな。
「聖教会の奴らをバレないように尾行しろ」
『『『『チューチュー』』』』
ネズミ影霊は素早い身のこなしで聖教会の後を追っていく。
『それで、おぬしはどうするつもりじゃ?』
「奴らより先に最奥部へたどり着くさ。このダンジョンの構造は、俺は誰よりも詳しいからな」
ワープ装置のある玄室の中央に目を向ける。
そこには影霊ミノタウロスがまだ生身の肉体を持っていた時に、床に空けた大穴がまだ残っていた。
懐かしいな……あの時は勇者シルヴァンに足を斬られて、ミノタウロスから逃げるのに必死だった……。
「この穴は最下層へ続く直通ショートカットだ。これを使えば奴らより早く最奥部にたどり着ける」
ロングコートの裾をなびかせながら、迷いなく大穴に飛び込んだ。
***
――一方。
S級ダンジョン【緋宵月】を探索する聖騎士団。
「はああああッ! 【セイントスラッシュ】ッ!」
――斬ッ!
先頭を歩く捜索隊の隊長――金色の長髪をポニーテールに結んだ美女――シーナ・アイテールは前方に出現したオークを、光属性魔法を纏わせた剣で一刀に両断する。
「ふんッ! たわいもない」
「凄い……あんな大きなオークを一撃で……!」
シーナの剣捌きに感嘆の声を上げるのは、シスター服の少女フローレンス・キューティクル。
「シーナ様、お怪我はありませんか?」
「フロウか。心配には及ばん」
「私は回復魔法でサポートすることしか出来ないので、回復が必要な時はいつでも仰ってください!」
「ああ、その際は頼りにしているぞフロウ」
シーナは剣に付着したオークの血と脂を拭って納刀し、再び歩を進める。
すると――カチリ。
足元から嫌な音が鳴る。
シーナはダンジョンの罠をを踏みぬいてしまい、足元に魔法陣が出現する。
「しまったッ――転移トラップかッ! フロウ! 今すぐ私から離れろッ!」
「シーナ様危ないですッ!」
フローレンスは咄嗟に、全力でシーナにタックルして魔法陣の外へ弾き飛ばす。
勢い余って地面に倒れたフローレンスの身体は未だ――魔法陣の中。
「フロウ!!」
シーナは急いでフローレンスに手を伸ばす。
しかしその手が届く直前、転移魔法陣が発動。
フローレンスは姿を消し、伸ばした手は空を切った。
「フロウッッ!!」
行き場のなくなった手で拳を握り、自分のミスで部下を失った怒りを地面にぶつける。
「総員作戦中断! 失踪したフローレンス・キューティクルを捜索する! 必ず見つけだすぞ!」
S級ダンジョン下層。
シーナの叫び声が木霊した。




