22 楽しい剣術修行
前回のあらすじ
夢のマイホームを――――購入
1人と1匹(吸血鬼)で住むにはいささか広すぎる屋敷での生活から一週間が経過。
俺は毎日ダンジョンに潜りレベル上げと魔石集めを行い、すっからかんになった所持金は300万Gまで貯まった。
これだけあれば1人で生活する分には困らないだろう。
おかげでレベルも随分とあがり、レベル37から45までアップ。
デュラハンのいた【黒首塚】ダンジョンを攻略する前のステータスと比較するとこんな感じになる。
名前:シド・ラノルス
クラス:影霊術師
レベル:37→45
HP:740→900
MP:810→1120
筋力:130→157
防御:115→135
速力:141→170
器用:147→180
魔力:92→110
運値:75→95
スキル:【死霊操術】【影霊操術】
状態:【不死】
総合戦闘力2700→3100
ステータスは既にA級冒険者の域に達している。
総合戦闘力を見るにゴブリンロードと同等の強さといった感じだ。
更に不死の肉体であることを考慮すれば、勇者パーティの面子とは1VS1であれば敗北はありえない強さと言えよう。
そう、これだけの強さがあれば、大抵の魔物に敗北はありえない――――と見せかけて。
『――――ッッ!』
「ぐわあああああッ!?」
――斬ッ!
俺は影霊デュラハンの斬撃で、袈裟斬りにされて吹き飛ばされる。
「ふーむ……これで1対8じゃのゥ」
愛馬のダークホースを寝取ったことにより、デュラハンが謀反を起こした訳ではない。
剣術の修行を付けて貰っているのである。
「くそッ! デュラハン師匠、もう1度だ!」
『――――』
新しく買い直した長剣を構え直し、デュラハン師匠と剣を重ねる。
俺は肉体こそ無敵かつ、高ランク冒険者のステータスを所持しているものの、戦闘スキルは未だ素人。
不死の肉体をいかした泥臭い戦い方で今まで乗り切っていたが、このままでは良くないと思っていた。
ゴブリンロードは喉奥に腕を突っ込み窒息させてから下顎で引きちぎって倒し、デュラハンは刺し違える覚悟で落馬させ弱点を一突きと――不死でなければその前に死んでいる暴挙だ。
そこで俺は、最も剣術に優れている手持ちの影霊に修行を付けて貰おうと考えた。
ゴブリンロードもミノタウロスも筋力に物を言わせて巨大な武器を振り回しているだけなので、デュラハンを師匠に据えたのであった。
「あむあむっ――最近のリンゴは甘いのゥ。魔石の加工技術が農業にも恩恵をもたらしていると見える、よい世の中になったものじゃ」
「ちッ! 人が苦労してるのに呑気なモンだぜッ!」
――キィン! キィン!
エカルラートは屋敷の庭に設置されているベンチに横になってリンゴを丸かじりしていた。
ひじ掛けに頭を乗せ、長い脚を屈ませ、反対側のひじ掛けに膝をひっかけている。
エカルラートは【死霊操術】された状態なので食事する必要はないが、最近は味覚を刺激させる娯楽のためだけに食事をしている。
特に果実や菓子がお気に入りで、甘いものが好物なのだろう。
……俺が稼いだ金なんだけどな。
『――――ッッ!!』
「ぐええええええッ!?」
再び敗北。
屋敷の庭に俺の血がまき散らされる。
俺は不死だし、デュラハンも影霊で死なないため、お互い真剣である。
汚れた血は影霊に掃除させているのだが、たまに掃除出来ていない箇所があり、近隣住民からの幽霊屋敷疑惑が強くなっている。
「本日の戦歴は1対9か。最終目標は10回やって10回勝てるようになる、じゃったかのゥ? この様子では達成できるのはいつになることやら――あむあむっ」
――喧嘩殺法のような泥臭い戦い方は禁止。
――デュラハンの弱点である首の奥を狙うのも禁止。
――単純な剣術のみで倒す。
というのが俺の作ったルールだ。
そうしないとすぐ絡め手とか使ってしまい修行にならないからな……。
「シド、本日の修行も終わったようじゃし、食料を買いにいくぞ。リンゴがなくなった」
「へいへい」
翌日以降も毎日朝6時に起床。
ダークホースに乗ってダンジョンへ向かい、魔石集めとレベル上げ。
夕方に帰宅してデュラハン師匠と修行。
それを毎日続ける。
全ては勇者パーティへの復讐のため。
どれだけデュラハン師匠にボコボコにされても、奴らの顔を思い出せばいくらでも立ち上がれる。
この痛みは勇者パーティの奴らに振るわれていた、意味のない理不尽な暴力とは違う。
俺の血となり肉となり、苦痛に喘ぐたびに強くなるのを実感している。
ステータスでも戦闘技能でも圧倒的に上回り、奴らには俺が今まで味わってきた屈辱と、死んだ方がマシだと思える程の恥辱を与えるまで――どんな努力も惜しまない。
それだけをモチベーションにして――――1週間後。
「おらああああああッッッッ!!!!」
『――――ッ!?!?』
――カーンッ!
俺が繰り出した斬撃が、デュラハン師匠の肩に叩きこまれる。
師匠は負けを認めるように片膝をついた。
「よもやよもや――これほどの短期間で、剣術のみでデュラハンを圧倒するとは、驚きよのゥ」
本日の戦歴――10勝0敗。
剣の達人であるデュラハンに完勝した。
「はぁ、はぁ……へッ、どんなもんだ」
「これなら、そろそろヴァナルガンドを回収しに行ってもよい頃合いかのゥ」
「ヴァナルガンド? なんだそれは?」
「シド、明日は妾の里帰りに付き合ってもらうぞ」
「どういうことだ?」
「妾がいたダンジョン――S級ダンジョン【緋宵月】を完全攻略する」
エカルラートは、発達した犬歯でリンゴを丸かじりしながらそう言った。




