18 聖騎士とシスターの様子
今回はこの前馬車の中で相乗りした2人の聖職者にフォーカスを当てた三人称視点です。
――E級ダンジョン【緑鳥林】。
――地下1階層。
「【聖月斬刃】!」
シスター服を着た金髪の美少女が聖属性魔法を発動させる。
少女の手から放たれた光の斬撃が、妖精型の魔物――グリーンシルフへ飛来するも、直撃することなく脇の壁に着弾。
『プルルルルルルルッッ!!』
グリーンシルフは反撃の体当たりを繰り出す。
「きゃっ!?」
「フロー、目を閉じるなッ!」
――斬ッ!
グリーンシルフがシスターに衝突する前に、間に割り込んだ金髪の聖騎士が長剣で魔物を斬り払った。
「も、申し訳ございません、シーナ様」
「やれやれ――E級ダンジョン程度の魔物に手こずる様では先が思いやられるな……」
「ううぅ……」
純白のシスターの名前はフローレンス・キューティクル。
聖教会の自警組織、聖騎士の見習いだ。
対する白い鎧を纏い、長い金髪をポニーテールにくくった美女はシーナ・アイテール。
フローレンスの教育係に任命されたベテラン聖騎士だ。
先ほどシド・ラノルスがダンジョンの巡回馬車で乗り合わせた2人組である。
2人はフローレンスのレベル上げ&戦闘訓練を、E級ダンジョン【緑鳥林】で行っているのであった。
「先ほどから集中出来ていない様に見えるがどうした? E級とはいえダンジョンの中だ、緊張感を持て」
「申し訳ございませんシーナ様……その、先ほどのシカイ族の冒険者の方が気がかりで」
「言わんとすることは分かる。奴隷でないシカイ族が何かよからぬ事をしでかすかが心配なのだろう。私も同じ気持ちだ」
「いえ! そうではなく! 彼はソロ冒険者のようでした。1人でダンジョンに潜るのはパーティで潜るのと比べて危険度が跳ね上がります。彼のことが心配で」
「穢れた血であるシカイ族とパーティを組む物好きなどこの国にはいない、ソロで活動せざる得ないのは当たり前だ。出来ればダンジョンで野垂れ死んでくれれば好都合なのだが」
「シーナ様! どうしてそこまでシカイ族を嫌うのですか!? 普段のあなたはもっとお優しい方のはずです!」
「枢機卿団はシカイ族を異端とみなした。であれば奴らは我ら騎士団にとって排除すべき魔物と同じだ。民衆の批難もあり現在は表立った迫害は行われていないが、聖教会にとってシカイ族が駆除対象であることは変わらない」
「シカイ族も同じ人間です! 神は平等に人類を愛して下さいます!」
「その言葉、私以外の者に言うなよ。シカイ族は人間ではない――聖教会がそう定めた以上、奴らを人間扱いすればフローもまた異端とみなされる」
「…………ッ!! そんなのおかしいですッ!!」
「はぁ……頑固な所は母親譲りか……」
納得のいかない部下を諭すように――もしくは、駄々を捏ねる妹をあやすように、シーナは昔話を始める。
「私は10年前、お前の母親――フランシス・キューティクル様の指揮の元シカイ族の討伐を行った」
その後に「まぁ、フランシス様は最後までシカイ族の里への攻撃を反対していたが……」と付け加えた。
「奴らもただで殺される程従順ではない。武器を持って我ら聖教会に立ち向かった。今でも覚えている、私が参加したのはシカイ族の1つ、ラノルス氏族との戦いだ」
「……ラノルス氏族?」
「シカイ族は仲間が死ぬと、その死体を操って戦線に復帰させ、最後は爆弾を巻き付けて自爆させる戦法を取る残虐な奴らだった。死後安らかに眠ることも許されず、天に還るはずの魂を弄ばれ、最後は自爆させられる――そのことを奴らは疑問にも思っていない。その時私は理解した――ああ、奴らは人間ではないのだ……と」
「…………」
「シカイ族が同族の死体を乱雑に弄ぶ分には構わん。だがそれが善良な市民だったら? 奴らに操られた穢れた魂は天の門をくぐることは出来ない。我らは主の導きに従い、善良な信徒を天の国へと導く義務がある。そのためにシカイ族は根絶やしにせねばならんのだ」
「…………聖典のどこに、シカイ族に操られた死者は天の国へ行けないと書かれているのですか? それは枢機卿団が、その方が都合がいいからと――」
「フロウ! それ以上言うな!」
「ひっ!?」
聖教会に籍を置くものとして、絶対に口にしてはいけないことを言おうとしたフローレンスを怒鳴るシーナ。
「いいか。さっきも言ったが、こういうことは絶対に他の者に対して言うな。私はシカイ族との戦いで命を落とした前の母親――フランシス様よりお前のことを頼まれたのだ。お前を立派な聖職者に育てる義務が私にはある。さぁ、訓練の再会だ。魔物を探すぞ!」
有無を言わさぬ気迫で話を終わらせるシーナ。
「…………はい」
フローレンスは代々僧籍を置く聖職者の家系。
彼女もまた深い信仰を持ち聖典をこよなく愛する敬虔な信者だが、それでも聖教会の運営そのものに疑問を抱かずにはいられなかった。
「あの方……無事だと良いのですが」
シーナに釘を刺されたにも関わらず、フローレンスは手作りの焼き菓子を「うまい、ありがとな」と言ってくれた、黒髪の青年のことが、頭から離れなかった。




