158 ククルカンの開き
前回のあらすじ
ソブラに追い詰められ絶体絶命のシド。
しかし影霊フランシスと合流したフロウが、地上から放った遠距離回復魔法でもってソブラを打ち抜く。
フロウの作った隙を利用し、シドは忌緋月にチャージした【影門・卍髏の剣】を、あろうことか飲み込んだのであった。
それにより、卍髏の剣として放出するはずのエネルギーを体内に巡らせることに成功したシドは、一瞬でソブラの右腕を切り落とし反転攻勢の宣言をするのであった。
「俺自身が――――影になることだ」
力が漲る。
溢れんばかりのエネルギーが体内を渦巻き、巡り、活力が満ちていた。
立ち上がれないほどに背骨が損傷していたにも関わらず、問題なく体が動く。
イメージとしては、影が鎧のように全身に纏わりつき、筋肉や骨の代わりに、影が俺の体を支えている感じだ。
――影
今までずっとすぐそばにいて、操っていて、触れていたもの。
けれども、飲み込んだのは初めてだった。
「まるで影霊みてェになってるな」
影門・卍髏の剣で溜め込んだ影を、俺は体内に取り込んだ。
影霊操術は、忌緋月に卍髏の剣を使い、5つに切り落とされた創造神の四肢と頭部――五大魔公を飲み込むことで、自分自身もまた創造神と同等の次元の存在に進化することが出来る。
俺はそれと同じ方法で、1万体の影霊を体内に取り込んだ。
1万体の影霊のエネルギー。
それが人間1人の肉体に圧縮された訳であり――その力がどれだけのものであるかは、語るまでもないだろう。
「シド――貴様、忌緋月を使ったな!? 僕が神へと昇華するための鍵を!?」
肩口から切り落とされた右腕を押さえながら、ソブラが吠える。
その喚き声を、余裕を持って受け流しながら、俺は改めて自分の体を確認した。
五指の先端が、ロングコートの襟が、靴のつま先が、視界の上部にちらつく前髪の毛先が――肉体の端に位置する部位が、まるで陽炎のように揺らぎ、闇色に染まっている。
まさに――もし俺が影霊化したら、こうなるであろう形に、作り替わっていた。
滞空しているのも、影霊化の恩恵だろう。
五大魔公を取り込むことで、それぞれの権能が使えるようになるのであれば、浮遊能力のある精霊型の影霊を取り込めば、滞空出来るようになるもの納得がいく。
「さて――現状の把握も済んだし――そろそろ始めるか、最終ラウンドを」
切り落としたソブラの右腕は現在俺の手の内にある。
未だその腕に握られている、《宝剣・バルムンク》の複製品を強奪する。
俺が影霊化して、ソブラを圧倒する力を手に入れたとしても、不死を殺す能力は持っていないからな。
腕の方は不要なので捨てた。
すると――浸食されるように、バルムンクにも俺の影が纏わりつき、黒炎の如く刀身が揺らめく。
「これでテメェを殺す準備が整った」
「ほざけ! 雑兵の力をいくら取り込んだ所で、誤差の範囲に過ぎない!」
ソブラは一瞬で大量の影霊を召喚する。
それらが一斉に俺を包囲し、四方八方から飛び掛かり俺を拘束する。
まるで圧死を試みるように。
「死にぞこないがッ! その腹を搔っ捌いて忌緋月を返してもらうぞ!」
「(元々お前のじゃねェだろ……)」
大量の影霊で俺を空中で拘束したソブラは、次に俺の頭上に大型の精霊型の影霊を召喚した。
全身が業火で燃えている、火属性の精霊。
格としては水属性の大型精霊であるウィンディーネと同格と思われる。
「イフリート――フレアプロミネンス!」
『――――ッ!!』
その精霊型の影霊は、真下――つまり俺の頭上に上級の火属性魔法を放つ。
太い火柱が降り注ぎ、拘束している影霊諸共、焼き尽くすかのような大魔法――だが。
――――斬ッ!
『――――ッッッッ!?!?』
「なッ!? 無傷……ッ!? あり得ない、今のシドはバルムンクにより不死性を失っているはずだ!?」
「テメェのいう通りだ。でも――ステータスの差がありすぎて、そもそもダメージが入っていないとすれば?」
俺を焼き焦がそうとしたイフリートと呼ばれていた精霊型の影霊が、一刀両断になり――消滅する。
あれだけの規模と威力を持った大魔法――雑兵であれば一撃で1000体の影霊を焼き殺すことが出来たであろう。
だが総合戦闘力1000の影霊を1000体殺すのと、1000×1000――総合戦闘力100万の影霊1体を殺すのでは勝手は変わってくる。
今の俺は1万体の影霊の力が、1人の人間に詰まっている訳であり、あの程度の攻撃魔法でダメージが入る訳がない。
「だったら――ククルカンッッ!!」
『キシャアアアアアアアアアッッッッ!!!!』
「ん?」
背後から五大魔公の1体――白大蛇が跳躍して俺を丸呑みしようとしてくる。
足止めを頼んでいたタイタンは負けて消滅したのであろう。
しかし――今の俺にとっちゃ、さっきの精霊型の影霊も、五大魔公も――誤差の範囲だ。
――突ッ!!
『キシャッ!?!?』
ククルカンの鋭利な牙に噛みつかれるよりも早く、ククルカンの下顎にバルムンクを突き刺す。
夕焼けに照らされた影法師のように、バルムンクの刀身に纏わりついた影が伸びて膨張し、そのままククルカンの舌に突き出し、更に上顎まで貫通する。
ククルカンは口を影で縫い付けにされて、苦しそうに喘ぐ。
『ギャ……ギャガ……ッ!?』
次いで――俺は自分の背中から影を勢いよく噴射した。
――斬ッ!
それが推力となり、まるで目打ちされたウナギやウツボの腹を開くように、ククルカンの大木のように太く長い胴が捌かれていき――やがて尾の先端まで到達する。
『キシャアアアアアアアアアッッッッ!?!?』
ククルカンは断末魔の悲鳴をあげながら、二股になった哀れな姿で地上に落下。
ビチビチと――数秒間地上で野垂れ打ち回った末、動かなくなった。
「馬鹿な……五大魔公がたった一撃で……!?」
「さて――これでもうテメェの主力はほぼ潰したと判断していいか?」
バルムンクの切っ先をソブラに向ける。
その切っ先は影を纏いゆらゆらと蠢いており、陽炎越しに見る光景のように、悔しそうに眉根を寄せるソブラの顔を、更に歪めた。
「分身でステータスが半分になっていた僕と互角の剣術技能しかない君が――この僕に勝てるとでも!?」
「試してみようぜ!」
――合ッ!!
影を噴き出し推進力にしてソブラに突撃する。
ソブラも再生した右腕に、予め複製しておいたバルムンクを持って迎え撃つ。
――斬ッ!
――斬斬斬ッ!!
「早い……ッ!?」
ソブラの体が無数の刀傷に見舞われる。
そして――その傷が再生することはない。
10合、20合と――剣を重ねる度、ソブラの体にだけ傷が増えていく。
先ほどの紙一重で躱し、紙一重で掠りといった攻防とは打って代わり、影霊化した現在、剣戟対決は俺が一方的に蹂躙する結果となった。
パワー、スピード、反射神経――その全てがソブラを圧倒し、暴力的なステータス差がソブラを追い詰める。
――斬ッ!
100合を超える剣戟の末――ソブラの胴部に深い一撃を叩きこんだ。
「ぜぇ……ガハッ!?」
ソブラは叩き斬られた勢いを利用して俺から距離を取ると、空中でワイバーン型の影霊を召喚して着地する。
その体は無数の刀傷で血まみれになっており、内臓まで到達した俺の刃によって吐血し、口元まで赤く汚れていた。
「そろそろ諦めたらどうだ?」
「ふざけるな! かただか1万体程度の影霊を取り込んだ程度で得意になるなよ――だったら、それ以上の影霊を贄に捧げた卍髏の剣を叩きこむだけだ!」
ソブラは全身から血を噴き出しながらも、気丈に立ち上がる。
そして背後に黒い門を出現させた。
「1万体の影霊で作った鎧を破るために、1万体以上の影霊で作った矛を用意する――確かにその理論は正しい――だがよ? 今のテメェに、果たしてそれだけの影霊が残っているかな?」
「…………は?」
ソブラの背後に出現した影門。
しかしそこから――魂状の影霊が溢れることはなかった。
門は沈黙を貫き、ソブラの得物が闇を纏うことはない。
使い切ったのだ。
手持ちの影霊を。
「ど、どういうことだ!?」
「よもやよもやよなぁ――つまりはこういうことじゃ!」
――斬ッ!!
「がッ!?」
ソブラの足元の影が揺らめく。
その次の瞬間――ソブラの影から飛び出したのは、長い黄金の髪をなびかせた、赤眼の美女。
真紅の吸血姫――エカルラートの鋭利に伸びた五爪が、ソブラを切り裂いた。
圧倒的な力を持つ敵を倒すために、前触れなく超パワーに覚醒する展開はよくないと思っているのですが、忌緋月の特性と《影門・卍髏の剣》の特性は前々から既に開示していた情報なので、伏線アリだと個人的に認識しているので個人的には「むしろ良い伏線回収だ……」と思ってます。
作者はセーフだと思っていても、読者の方々が納得いかない展開でしたら、申し訳ない限りですが……orz
その時はコメントにて苦情下さい……腹を切ってお詫びします。




