153 燦々たる斬撃
前回のあらすじ
シドとソブラは王城上空で激闘を繰り広げる。
シドが優位を取っていたが、ソブラがリュシフィールの背に〝楔〟のようなものを打ち込んだことで、リュシフィールの体に異変が生じるのであった。
投げ出された俺は、リュシフィールが光の帯に完全に包み込まれて動けなったのを確認する。
空中に浮く巨大な球体のように、帯でリュシフィールが完全に拘束された。
「竜縛の鎖――竜種のみを縛る魔道具さ。それを10本打ち込んだ――竜の王も流石に10本も打ち込まれたら効くみたいだね」
――ちッ!
リュシフィールが捕まった……!
「ククルカンの権能は創造――ドラゴンを捕縛する貴重で強力な魔道具だって、無限に作成可能なのさ」
既にソブラは尾撃のダメージを回復させており、ワイバーンのような影霊の背にのって俺に接近していた。
――キィン!
ソブラはワイバーンの背を蹴って俺に肉薄。
長剣で斬りかかってくる。
負けじと俺も、空中で迎撃する。
「俺の大切な仲間を、随分とブサイクな檻に閉じ込めてくれたな」
「あれは僕へのプレゼントだろう? だったらラッピングして貰わないとね」
「自分へのプレゼントを自分でラッピングすんじゃねェよ。自分の誕生日パーティを自分で開くタイプの人間か?」
「無論――毎年参加者はルゥしかいないんだけどね!」
「ウチは毎年リンが準備してくれるぜ!」
――斬!
――斬!
――斬斬斬ッ!
――斬斬斬ッ!
共に落下しながら、俺とソブラは剣戟を繰り返す。
打ち込み、打ち込まれ、弾き、弾かれ、より速く、より重い斬撃の応酬を続ける。
『キシャアアアアアアアアアッッ!!』
「邪魔すんじゃねェ畜生が」
落下を続け、王城と同じ高さまで落下してきた時、待ち構えていたククルカンが飛びついてくるが――
『キシャッッッッ!?!?』
『ゴラアアアアアアアッッ!!』
――巨人型の影霊、タイタンを召喚する。
タイタンはククルカンの胴を両腕で掴むと、思いっきり引っ張る。
これでタイタンが押さえこんでいる間、ククルカンの相手はしなくても済む。
「なんだ? そんなに僕と2人ッきりで戦いたいのかい!?」
――斬斬斬ッ!
――斬斬斬ッ!
紙一重で避け、紙一重で斬られ、斬られたそばから再生し、互いに血しぶきを撒き散らしながら、それでも剣戟を止めることはしなかった。
「無駄無駄! いくら刻んでも、今の僕は君と同じエカルラートの血による最上位の不死性を持っているのだから!」
ソブラの振るう長剣により、俺の長剣が弾かれ、手中から離れる。
「知ってるよ――だから――不死対策も抜かりねェ!」
――斬ッ!
「なッ!?」
俺の繰り出した袈裟斬りが――ソブラを引き裂いた。
そしてその傷は塞がることなく、止まらない出血がソブラに断続的な激痛を与える。
「傷が……塞がらない……!?」
「《宝剣・バルムンク》――不死を殺す剣だ!」
勇者パーティの勇者シルヴァンから強奪した、王家に伝わる宝剣。
これならソブラを確実に殺せる。
超接近戦に持ち込み、確実に命中させるため、今まではヴァナルガンドの体内に収納していたのだ。
「でもそれってさ――シドにも効くんだよね?」
――斬ッ!
「がッ!?」
右腕に激痛。
見れば、いつの間にかソブラの手中には、俺が手にしているバルムンクと全く同じデザインの剣が握られていた。
それが――俺の両腕を肘の部分で切断し、バルムンクと共に落下していく。
「言っただろう? ククルカンの権能は創造だ――バルムンクの複製など容易い。そしてククルカンは無限にバルムンクを複製できる。対して君はどうだい? 虎の子は君の手から、否――手ごと離れてしまったじゃないか――ハハハッ!」
「知らねぇのか? バルムンクで斬られた場所が再生しなくなるんじゃなくて――バルムンクで斬られたら30分間――不死性が剥ぎ取られるんだよ」
――斬ッ!
「ぐあッ!?!?」
ソブラに逆袈裟の斬撃が叩きこまれる。
「なぜ!? バルムンクで両腕を切り落としたはずだ……!?」
ソブラの不敵な笑みが、驚愕に変わる。
「なんだ……その腕は……!?」
ソブラに切り落とされた俺の腕――その右腕には鋼鉄の義手が装着され、同時に召喚したデュラハンの長剣が、ソブラを逆袈裟に切り裂いたのであった。
これは魔導義手と呼ばれる魔力によって、本物の腕のように自在に動かすことが出来る義手。
勇者パーティの重騎士シルヴァンから強奪したものだ。
「そして――これで終わりだ!」
――斬ッ!
「ぐはッ!?!?」
胴に×字の斬撃が叩きこまれ、怯んで身動きが取れていないソブラの首を、二の太刀で切り落とした。
――ソブラ HP0
視界の端に現れたウィンドウが、ソブラのHPが0になったことを告げる。
そしてバルムンクに斬られ不死性を剥ぎ取られたソブラの体が再生することはない。
『キェェェェェ!!』
落下する俺は、真下に飛んできたグリフォンに着地する。
対するソブラは首と胴が切り離され、そのまま城下へ落ちていく。
「俺の勝ちだ……!」
首が斬り落とされたソブラの顔を拝んでやると、絶望に染まっているだろうという予測に反し――笑っていた。
――ゾワリ。
背筋が粟立つ。
なんだこの悪寒は……?
確実にバルムンクの一撃を入れ、奴の不死性を剥ぎ取ってから首を刎ねたのに。
ウィンドウでHPが0になったことも確認した。
なのに、なぜ――あの生首は笑っている?
そして、なぜ奴の気配がなくならない?
――ボンッ!
その疑問に答えるように――自由落下し続けるソブラの死体が、煙となって消滅した。
「なにッ!?」
あの消え方――見覚えがある。
「アサシンのスキル――【分身】だよ」
頭上から――不快な声が降り注ぐ。
「ソブラ!?」
グリフォンに騎乗しながら空を仰ぐと――そこには先ほど首を落としたはずのソブラが、五体満足でワイバーン影霊の背に乗っていた。
「僕は【分身】の効力を閉じ込められた魔刻印石を飲んでいてね、今まで君が相手していたのは偽物だったんだ。ごめんね」
――魔刻印石。
スキルが閉じ込められた石で、飲み込むことでそのスキルを習得できる魔道具だ。
リンの付与魔法も、魔刻印石の恩恵によるもの。
「いつから……分身だったんだ……?」
玉座の間でソブラと再会した時に見たステータスに違和感はなかった。
スキル構成も見たが、分身のスキルなど持っていなかったはず。
可能性があるとすれば――リュシフィールの尾撃で吹き飛んだ時。
あの後ソブラは分身の魔刻印石を飲み込みスキルを習得し、分身体を使って空中の剣戟を繰り広げたということか……?
全ては――俺を油断させるために。
結果俺は両腕を切り落とされた。
対してソブラは無傷。
だが――本当に危惧すべきことは、他にあった。
「てめぇ……何してやがる……!?」
太陽を背にしたソブラ――その背後には、影色の門が顕現していた。
その門からは魂状と化した影霊だったもので溢れかえっており、ソブラの掲げる長剣に纏わりついている。
――あれは影霊操術の最終奥義。
「影門・卍髏の剣」
目を開けているにも関わらず――視界で黒で塗りつぶされる。
頭上から降り注ぐ、影の亡者――負の熱量を膨大に溜め込んだ、最悪の斬撃が振り落とされた。
――【スキル】影門・卍髏の剣
――【消費MP】0(保有している影霊を任意の数消費することで発動)
――【効果】
①影霊をエネルギーに変換して放出する攻撃スキル。
②消費した影霊の累計総合戦闘力によって威力が上がる。
③消費した影霊は完全に消滅し再召喚出来なくなる。
勇者パーティの遺物を使うシドを地獄で見守るシルヴァン達。
シルヴァン「シド! ボク達の力を使え!」
リリアム「これが――アタシ達の!」
ガーレン「友情の力だあああああ!」




