151 大切な隣人達へ
前回のあらすじ
影霊と化したかつての同胞、ヨハンナ、シーナ、カイネと戦闘を続けるフロウ。
ヨハンナが展開した結界術によりフロウは回復魔法を封じられるものの、それでも突破の糸口を探すべく奮闘を続けるのであった。
フロウは現状を再分析する。
「(ヨハンナ様が私を閉じ込める同時に得意技を封じ、シーナ様がヨハンナ様を守護し、カイネ様が私を叩く――10年前、シドさんを倒すために我々がとった作戦と酷似していますね)」
1人でも手こずる猛者を3人同時に相手すると同時に、こちらの特技さえ封じてくる。
しかし――10年前同じ状況下に陥ったシドは、この困難を乗り切って見せた。
であれば――自分が尻込みしてどうすると、フロウは発破をかける。
『…………ッ!』
――キィン!
カイネが再び《朽ち移し《ラストトゥラスト》》を振りかざす。
聖属性が付与され腐敗の耐性がある錫杖であったが、だんだんと錆に浸食されていく。
そこでフロウは起死回生の一手を打つ。
――ザクッ!
『…………ッ!?』
あろうことかフロウは、自らの手の平で鋸鉈の鋸歯を受け止めた。
皮膚に食い込む細かい刃。
同時に裂傷した皮膚が爛れ、腐敗していく。
だが――捕まえた。
フロウはもう片方の手に持った錫杖の先端を――カイネの喉元に突きつけた。
「【聖月斬刃】」
――斬ッ!!
錫杖の先端から放たれる、聖なる斬撃が――カイネの体を襲う!
『…………ッ!?!?』
カイネは吹き飛び、地面の上を数度バウンドしながら転がっていく。
「はぁ……はぁ……!」
肉を切らせて骨を断つ一撃。
フロウの手の平から広がった腐敗は、肘の辺りまで浸食して、滑らかな肌が痛々しく爛れてしまったが――聖月斬刃をゼロ距離で叩き込めたのを思えば、軽い代償だろう。
しかし――
「……流石です、カイネ様」
――影霊はかなりのダメージを喰らったにも関わらず、それでも立ち上がり武器を構えた。
「カイネ様の何度倒れても立ち上がる不屈の心、常に全身を蝕む腐敗の痛みに耐え忍ぶ逆境の精神――お見逸れします。その背中は私にとって憧れであり――あなたのような強い心を持ちたいと思いながら、今日まで修行を続けて参りました。今、こうして私がここに立っているのは、他でもないカイネ様のお陰の他ありません」
聖なる斬撃を喰らいながらも立ちふさがるカイネの目を見ながら、フロウは告げた。
次いでフロウは、その奥にいるシーナに目線を移す。
「親を亡くした私にとって、シーナ様は親のようであると同時に姉のような存在でありました。時に優しく、時に厳しく――あなたのお陰で私は聖職者として、そして指揮官としての振舞い方を覚えることが出来ました。シーナ様なくして、私が聖火隊をまとめあげることは叶わなかったでしょう。こうしてまた、お礼を申し上げることが出来る機会に感謝の念が堪えません」
『…………』
シーナは答えない。
影霊となり自我を失ったシーナは、亡き師の忘れ形見であろうと、容赦なくその凶刃を向ける。
それでもフロウは、生前のシーナを相手するような優しい目で語りかけた。
「そしてヨハンナ様」
最後にフロウは結界の最奥にいるヨハンナに目を向ける。
「ヨハンナ様に《聖痕之壱》と《慈愛の聖女》の肩書を託された時、私はその重責に押しつぶされそうになりました。ですが同時にあなたは、私の背中をそっと押して下さいました。これは生き残ってしまった私に責任を押し付けたのではなく、私になら出来ると信じて下さったのだと――今なら理解できます。そして今こうして、聖火隊を作り上げ、ソブラを討ち王都を奪還する寸前まで来ることが出来ました。今の私は、ヨハンナ様の期待に応えることが出来ておりますでしょうか? もし出来ているとしたら、至極光栄でございます」
かつての敬愛する恩師に、育ての親に、尊敬する同胞に――こうしてまた出会えたことに謝辞を述べながら、影に魂を捕えられた同志を解放すべく、フロウは錫杖を鳴らす。
そして――宣言する。
「私は《聖痕之壱》にして《慈愛の聖女》――フローレンス・キューティクル。乙女の果実を剣の贄に、聖女の祈りを天秤に掲げ――親愛なる隣人を祓殺します」




