141 エカルラート復活
リュシフィールのスキル《竜咆》によって強制スタン状態にさせられるシド一行。
回避も防御も出来ない無防備なシドに、リュシフィールの渾身のドラゴンブレスが打ち込まれるのだが――10年前に聖杭によって心臓を貫かれたはずのエカルラートが、ドラゴンブレスを防いだのであった。
「10年ぶりじゃなシド――ま、お主の影の中で、お主の声はずっと聞こえておったのじゃがなァ」
「エカルラート!?」
10年振りだろうと、その姿を忘れるはずがない。
俺が影霊操術に覚醒した時から、常に隣にい続けた相棒。
「鬼忌操血術――《血壁硝》」
エカルラートは前面に半球状の赤い壁を展開しており、触れたものを消滅させる熱光線を受け止めていた。
ドームをよく見ると、糸のようなついており、それがエカルラートの手首と繋がっている。
あれは……血で作った膜なのか?
「血で作った防壁で攻撃を受け止め、防壁が削られると同時に不死の力で血を再生し続けておる」
『グルルルルルルルッ!!』
リュシフィールの光線が止む。
タイタンでさえ葬る光線を受けきったのか。
エカルラートもまた血の防壁を解除すると、2体の五大魔公は睨み合った。
10年前――エカルラートはソブラが操った聖騎士が放った【始僧の聖杭】に貫かれた。
だが――死にはしなかった。
彼女は聖杭に貫かれた直後、喉から忌緋月と自分の舌先を俺に託した。
その切り落とした舌先を10年間少しづつ再生し続け、エカルラートは復活したのだ。
俺はかつて切り落とされた右腕から完全再生したことがある。
それと同じことを舌先で行ったのだろう。
だが【始僧の聖杭】で不死能力を奪われたが故、復活するのに長い時間を必要としていた。
俺は日夜、エカルラートの肉片に自分の血を注ぎ続け、自分の影の中に保管し続けた。
そうした日々の積み重ねで、少しずつエカルラートの不死性が再構築され、こうして復活を果たしたのであろう。
「悪いのゥシド――ミノタウロスの時は瞬殺してやれたのじゃが、流石にコイツは無理そうじゃ」
「んな無茶振りしねェよ――だが、力を貸してくれ」
「無論――そのつもりじゃ!」
エカルラートは赤く彩られた爪で己の手首を切り裂くと、吹き出した大量の血を空気中にばら撒く。
普通の人間であれば失血死してしまう量の血液が、空中で粘土のように形を変え、固まり、無数の槍のような姿になった。
「鬼忌操血術――《射血鋲》!」
『ギギャアアアアアアッ!?』
――ドスドスドスドスッッ!!
無数の血の槍が、一直線にリュシフィールへと飛来していく。
リュシフィールは熱光線を放ったばかりで迎撃が出来ない。
殆どの血槍は黒鱗に弾かれるも、飛膜に命中した一本が、リュシフィールの翼に穴を空ける!
――ズシイイイイイインッッ!!
滞空出来なくなったリュシフィールが、土煙を上げながら落下した。
「お前そのスキルなんだよ初めて見たぞ!?」
「鬼忌操血術――自分の血を自在に操るスキルじゃ。妾はMPを血に変換するスキルも持っており、MP変換した血は魔力由来故、時間が経過すれば消滅するからその血を飲んでも不死になることはない――これが本来の妾の戦い方じゃ」
「10年越しに明かされる衝撃の新事実なんだが……」
いつも飯食いながら文句を垂れ、戦闘中も俺の影の中で解説しかしない奴だったが、リュシフィールやヴァナルガンドと同格の五大魔公であることを見せつけられる。
「エカルラート様!?」
「おお! もしやリンか!? シドとは影を通して精神がリンクしていたから、意識がない間もなんとなく事情を把握しておったが、随分と美人になったのゥ――妾程ではないが!」
「恐れ入ります」
「同窓会は後で開く! 積もる話があるのは分かるが今はコイツを優先しろ!!」
『ギャオオオオオオオオオンッッ!!』
翼に穴を空けられたリュシフィールが、怒声を上げながら俺とエカルラート方面に突撃してくる。
俺とエカルラートはそれぞれ左右にサイドステップをして回避する。
「いくぞエカルラート!」
「まかせよ! コイツの動きはお主の影の中で予習済みじゃ!」
リュシフィールの突撃を回避したことで、左右から挟みこむ形になった。
エカルラートは赤爪を鉤爪のように伸ばし、更に己の血を付与する。
「鬼忌血操術――《血闘掌》」
肉片だった状態でも意識は残っており、影を通して俺の思考を読み取る能力も健在だったようで、エカルラートとの連携は想像以上にスムーズに進む。
「ほれほれほれほれ!! 飛べない竜はトカゲと変わらんのゥ! 凝り固まった体をほぐすのに丁度良いわい!」
――斬! 斬! 斬!
エカルラートの五指から繰り出される爪撃が、リュシフィールの鱗に次々と傷を付けていく。
鱗に斬撃が蓄積していき――ついにリュシフィールの鱗が剥がれ、血が噴き出した。
リンが片目を潰し、エカルラートが翼に穴を空けたことも幸いし、リュシフィールはエカルラートの俊敏な動きに追いてこれず、完全に翻弄されている。
「これなら――勝てるかもしれねェ!」
勝機を見出した俺は、リュシフィールの相手をエカルラートと影霊に任せ、吹き飛ばされたヴァナルガンドの方へ駆ける。
「ヴァナルガンド――動けない所悪いが胃袋漁るぞ」
『グルル……』
ヴァナルガンドの体内に保管していたMPポーションを一気飲みしてMPを癒すと、本日3回目であるタイタンを再召喚する。
「タイタン、エカルラートと共に時間を稼げ! リン! もう1度タイタンにアイスエンチャントを!」
「御意に――《アイスエンチャント》!」
氷塊のガントレットを身に着けたタイタンが、エカルラートに加勢する。
「シド! 妾や影霊に任せきりでお主は高見の見物か? 随分と偉くなったもんじゃな!」
「抜かせ。影霊にだけ働かせる程腑抜けてねェよ。もう少し時間を稼いでくれ、俺は――――影門を開く」
「カカッ! そうでなければのゥ!」
影門。
影霊操術が唯一使える攻撃スキルであり、最終奥義。
手持ちの影霊を生贄に捧げることで、超威力の攻撃を繰り出すスキル。
生贄にした影霊は再召喚出来なくなり、戦力が低下するので乱用を控えていたが――エカルラートが復活した今こそ、切り札を使う絶好のタイミングと言えよう。
最強の攻撃スキルの名を――唱える。
「《影門・卍髏の剣》」




