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【完結】最強クラス【影霊術師(シャドウネクロマンサー)】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する  作者: なすび
【第3章】In the abyssal depths of the boundless SHADOW

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131 復讐の連鎖断ち切る聖女の懇祈

「はぁッ……はぁッ……!」


 転移先は王都の外だった。

 街道から少しズレた草原の上で、フロウは膝をついて息を整えている。


 俺を庇いカイネの【聖砂の錆塵】を受け止めたことで、防壁魔法を発動していたにも関わらず、指先から肘の辺りまで爛れてしまっていた。


「ヒール」


 フロウは回復魔法をかけることで、急速に元の白い綺麗な肌に戻っていく。


 この類いの傷を治すのは慣れているかのような手際の良さ。

 それだけ沢山の傷を作り、強くなってきたのだろう。


 これまでのフロウを見れば分かる。

 俺が数多の修羅場を潜り抜けてここまで強くなったように、フロウもまた、数々の修羅場を乗り越えて強くなったのだと。


 ステータスだけではない、技能も。

 そして――自らの心臓を贄とする【始僧の聖杭】を使ってまで、俺を倒そうとした、その覚悟までもが――かつての弱々しかった少女の面影はもはやない。


「なぜ……俺を助けた?」


 回復魔法で完全に腕の怪我が回復し、フロウの息が整ったタイミングで問いかけた。


「……分かりません。気付いたら、体が動いてました」


「俺達は敵同士で、ついさっきまで殺しあっていたんだぞ」


「ではなぜ、大聖堂から脱出する際、私も一緒に転移させてくれたのですか? 私を放置して1人で逃げることも出来たのに」


「それは…………体が、勝手に」


「ふふっ……同じ理由ですね」


 フロウは可笑しそうに笑う。

 なに笑ってんだ――と言い返そうとした、その時だった。






「ご主人様ッ!!」




 ――――幻聴が聞こえた。




 あまりにもリアルな幻聴。

 リンとエカルラートを失った俺の精神はぶっ壊れ、リンのことを求めるがあまりに、脳が錯覚を起こしたのだと思った。


「リンッ!?!?」


 幻聴の次は幻痛か?

 胴部に軽い衝撃が走る。

 子供の高い体温が、血の巡っていない冷めた肉体にじんわりと熱を与える。

 死んだはずのリンが俺の胸元に飛び込んできて抱きしめられた。


 幻じゃ……ないのか?


 その姿、感触、熱が――確かに現実であることを教えてくれた。


 本当に……リンなのか……?


「ご主人様ッ! 良かったッ! 生きてたッ!」


「バカ野郎……それはこっちのセリフだ……ッ!」


 リンの小さな体をそっと抱き返す。

 その時、指先が濡れる感触がした。

 メイド服の脇腹の辺りが、血で濡れていた。


 そうだ――アニスは俺を結界のある場所まで誘導するために、リンを誘拐し、脇腹に短剣を突き刺した。


 その時の傷か!


「リン、急いで傷の治療を――」


 そもそも、どうしてリンが生きている?

 リンの死体はヴァナルガンドの中に回収したし、リンの死体は服を着ていなかった。

 にも関わらずリンはメイド服を着ている。


 じゃあ俺が見た死体は……?


「その必要はありません。そちらの方(フロウ)が私の傷を癒し、ここまで連れてきてくださったのです」


「フロウが……?」


 混乱する俺に、リンはこれまでの経緯を説明した。


 リン曰く――聖痕之陸アニスに誘致されたものも、返り討ちにして俺のもとに駆け付けたこと。

 そこで俺の死体を発見したが、その死体は偽物で本物の俺は大聖堂へ向かったとフロウに告げられたこと。

 フロウはリンの傷を治し、転移魔法で共に王都まで戻ってきた――とのことだった。


 俺もリンも、お互いが死んだと勘違いしていた――ってことか。


「だがなぜ、フロウがリンの傷を……」


「シドさん――あなたに、お伝えしたいことがあります」


 リンの傷が既に塞がっていることで安堵すると、タイミングを見計らっていたフロウが声をかけてきた。


「なんだ……?」


「(今ならまだ、かろうじて間に合う――今この瞬間でしか、やり直す機会はもうないでしょう。ならば、私は、恥をいくら重ねようと……今度こそ。使えるものは、なんでも使ってでも)」


 俺もまた、リンとの抱擁を解いてフロウと向き合った。


「現在の私は《聖痕之壱》にして生存している唯一の聖者、《慈愛の聖女》です。そして《聖痕之壱》には枢機卿の席も与えられます。そして生き残っている枢機卿は私のみ、そして教皇猊下も崩御なされました――つまり、私が聖教会で最も権限のある者と言えます」


 最も、もはや聖教会は組織として機能しておりませんが――と付け加えながらフロウは続ける。


「聖教会がおこなってきた今までのシカイ族への迫害行為、シドさんとリンリンさんへ行った加害行為――その全てを、《聖痕之壱》にして枢機卿団代表、並びに《慈愛の聖女》の名において謝罪いたします。大変、申し訳ございませんでした」


 フロウは深々と頭を下げる。


「今更何をと仰りたい気持ちは重々承知でございます。その上で厚かましい要求とは存じますが――お願いがあります。あのシカイ族のことを教えてください。そして――どうか私に力を貸してください!」


「フロウ……」


 頭を下げるフロウの肩は震えていた。


 大聖堂が崩壊し、要職が全員死んだ今、もはや聖教会は機能していない。

 今のフロウには、その小さな体に、聖教会の、枢機卿団の、《聖痕の騎士団(ナイツオブスティグマ)》の重責がのしかかっている。


 リンと同世代の少女が、その責務を1人で背負えるはずがないことは、容易に想像できる。


「…………くそッ!」


 復讐は、自分か相手が完全に死ぬまで終わることはない。

 かつてソブラは力に溺れ、この世界を混沌に陥れようとした。

 それを20年前の聖教会は、多大なる犠牲を出しながらも阻止した。

 そして聖教会は、二度とこのような惨劇を起こさぬため、シカイ族全てを滅ぼそうとした。

 その悲劇をきっかけに、ソブラと同じように影霊術師シャドウネクロマンサーに覚醒した俺は、聖教会と戦うことになった。


 しかし――復讐の輪廻はまだ終わっていない。

 聖教会は完全に滅んでいないし、俺もまた、生きている。


 だがフロウはその連鎖を断ち切りたいと、直接、俺に言ってきた。

 俺に目の前で仲間を殺されたことで、フロウだって、かつての俺と同じだけの憎しみを感じているはずなのに。


 現に彼女は――【始僧の聖杭】で自らの命と引き換えにして、俺を殺そうとした。


 しかし――しなかった。


 強烈な殺意を、憎悪を、彼女は信念と理性で抑え込み、終戦を申し込んだ。


 同時に俺も気付く。

 こんな復讐に意味はないことに。

 俺が俺であることを肯定するための、誇りを取り戻すための復讐は勇者パーティを皆殺しにした時に既に達成している。


「(そして今の俺は――リンがそばにいてくれて、笑ってくれて、幸せでいてくれれば、それで十分だ)」


 だが――ソブラという根源たる邪悪がこの世界にいる限り、俺達に平穏が訪れることはない。


 利害は――一致していた。

 俺もまた、フロウと同じように、これまでのことを水に流す決断をするだけ。


 重要なのは過去ではない。

 未来のことだ。

 もう二度とリンを失わないために。

 リンが幸せに生きることの出来る世界を作るために。


 今、俺が出来ること。

 ロングコートの裾を掴むリンが、俺を上目遣いで見つめている。


 振り上げた拳を下ろす勇気。

 だが今回は幸いにして、その拳を振るう変わりの相手がいた。


 なら、俺の答えは――


「分かった。顔を上げてくれ」


「それじゃあ……!?」


 ――俺も償わなければならない。


 ソブラに手の平の上で踊らされていたとはいえ、聖教会の人間を虐殺したことは――事実なのだから。


「ああ。俺もこれまでの事を謝罪する。悪かった」


 俺はフロウの手を取った。

 聖教会を背負う、小さな聖女の手は、あまりにも小さかった。

 こんな小さな手で、これまで彼女は戦ってきて、そして、これからも戦う決意を捨てずにいる。


「こちらからも頼む――ソブラを倒すため、力を貸してくれ」


 聖教会の不死を殺す聖遺物。

 加えてフロウの影霊アンデッドを破壊する回復魔法は、ソブラを倒すのに必要不可欠なのだから。

シドとリンの合流記念、AIイラスト付きおまけSS14弾です。



リン「…………♡」(恋愛小説を読書中のリン)


シド「リンは最近ずっと本読んでるな」


エカルラート「シドがダンジョン攻略中、隠れ家で留守番してるリンは時間を持て余してるからのゥ」


リン「(やりたい……! この小説みたいに、ご主人様が指を怪我して、傷口を“ちゅ♡”て舐めて消毒するやつやりたい……!)」



〜後日~



シド「いてッ! あー、武器のメンテしてたら指切っちまった」


リン「ッ!!!!」


――シュバッ!(爆速でシドの元にかけつけるリン)


リン「ご主人様! 私が手当します! まずは傷口を消毒して――」


シド「いや、もう治ったから心配いらねェぞ?」(不死身)


リン「むううううううう!!!! ご主人のバカ!!」


シド「な、なんで怒ってるんだよ……」


エカルラート「女心は秋の空じゃならなァ」

挿絵(By みてみん)

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