13 ゴブリン狩りと影霊の検証
ミノタウロス、オーク、ガーゴイル――3匹の影霊がゴブリンの死体を捌いて魔石を取り出すと、地面に広げた背嚢の中に詰め込んでいく。
そして魔石のなくなったゴブリンの死体を、俺の前に積み上げていった。
「【影霊操術】」
死体に手を当てスキルを発動させる。
ゴブリンの死体の影から影霊が抽出されると、俺の新しいしもべとなる。
その数――30匹。
「新しい命令だ。ミノタウロス、オーク、ガーゴイル達リーダーは三方に分かれて森の中のゴブリンを殺していけ。ゴブリン共はリーダーが倒したゴブリンの魔石と死体を回収して俺の元へ持ってこい。分かったか?」
『ブルッ!』『グギャ!』『ギギャ!』『『『『ギャギャ!!!!』』』』
影霊達は異口同音に返答をすると、バラバラに散っていく。
ゴブリンの影霊は10匹ずつに分かれてリーダーについていく。
3で割り切れて良かった。
『考えたなシド。これならおぬしは何もしなくとも影霊達が勝手にゴブリンを討伐してくれるという訳じゃな』
「このクエストは【影霊術師】の能力検証も兼ねてるからな。色々試してみるつもりだ」
『ギャギャ』
「早速魔石と死体を持ち帰ってきたか」
ゴブリンの影霊がかつて仲間だった者の死体を背負って俺の元に戻ってくる。
魔石は背嚢の中に入れ、死体は俺の足元におく。
役目を終えた影霊は、再びリーダーの元へと戻っていく。
その足取りに迷いはない。
「ゴブリンはこの森を住処にしていたから土地勘もある。やはり影霊になっても記憶は継承されるみたいだな。更に俺の言葉も理解しており多少複雑な命令も忠実にこなしている」
足元に置いた死体から影霊を抽出。
最初に見つけたリーダーのチームに入れと命令すると、それで理解したようで新入り影霊は『ギャ!』と元気よく返事をすると森の奥へ消えていく。
――レベルがあがりました。
――レベル35 → 36
視界の隅に板が出現し、俺のレベルが上がったことを告げる。
「離れていても経験値が入るのか」
敵を倒す。味方にする。味方になった影霊がまた敵を倒し、味方を増やしていく。
味方になった影霊は朽ちることなく永遠に俺のしもべとなる。
自分の能力ながら恐ろしく感じてきたな……。
――レベルが上がり、影霊との視界共有が可能になりました。
「視界共有か、早速使用してみよう」
脳内でミノタウロス、オーク、ガーゴイルのリーダーとの視界共有を念じると、新たに3つ板が出現。
その板にはミノタウロス達が見ているであろう光景が映っていた。
容赦なくゴブリンを蹂躙するリーダー達、死体を運ぶゴブリン達、死体を運び終わり再びリーダーの元に戻っていくゴブリン達の姿が見える。
ゴブリン影霊もチャンスがあれば、ゴブリンに攻撃しており、3匹のゴブリン影霊が1匹のゴブリンを袋叩きにしている光景を板越しに確認できた。
「……む、1匹やられたか。そういうこともあるか」
死体を担いでこちら側に戻ってくるゴブリン影霊が、生き残っていたゴブリンに刺されて消滅した。
――スキル【影霊操術】
――消費MP1
――【効果】死体から影を抽出してしもべにすることが出来るスキル。《影霊のHPが0になり消滅した場合、影霊の強さに応じたMPを使用することが再顕現させることが出来る》。抽出可能な影霊の数はレベル×100(現在3600体まで可能)。
板が【影霊操術】の詳細を教えてくれる。
後半の《》で囲われた部分を確認し、ゴブリンの再顕現を試みる。
「とりあえず消滅した影霊をチェックしたい。手持ちの影霊情報を出せるか?」
――ピコン
俺の指示が伝わったようで新しい板が出現する。
――ミノタウロスHP2900/3000
――オークHP490/600
――ガーゴイルHP489/500
――ゴブリン1 HP100/100
――ゴブリン2 HP100/100
――ゴブリン3 HP70/100
――ゴブリン4 HP100/100
――ゴブリン5 HP0/100【消滅】
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そのあともゴブリン影霊の情報が羅列され、手持ちの影霊計51体の情報が全て表示される。
その内消滅したゴブリン影霊の数は5匹。
「ゴブリンの再顕現に必要なMPは?」
――ゴブリンの再顕現に必要なMP【5】
「そんじゃ全員復活させる――【影霊の再顕現】」
――MP682/750 → 657/750
そう念じると体内のMPがわずかに抜け、足元から5匹のゴブリンが復活する。
同じ命令を再度与えると、ゴブリン達は動き出す。
「世界の理を見通す目も随分と便利だな。目が表示できる情報であれば念じるだけで出てくる」
『フハハ、飲み込みが早いのゥ。せいぜい使いこなしとくれ』
***
――ゴブリン討伐開始から1時間が経過。
ゴブリン影霊の数は80体にまで膨れ上がっていた。
「レベルが1つも上がらないのがネックだな」
『レベル36は中堅冒険者クラス、ゴブリン如きの経験値でそうポンポンレベルもあがらんよ』
「それもそうだな」
俺は周囲360度に板を出現させ、戦況を俯瞰し、都度必要に応じて指示を出していく。
影霊の視界板、情報板をせわしなくチェックして、影霊が死体を運んできたら【影霊操術】で味方を増やしていく。
「…………なんだこれは、妙だな。凄い勢いで味方のゴブリンが減っていく」
――ゴブリン19 HP0/100【消滅】
――ゴブリン22 HP0/100【消滅】
――ゴブリン35 HP0/100【消滅】
――ゴブリン36 HP0/100【消滅】
――ゴブリン37 HP0/100【消滅】
――ゴブリン76 HP0/100【消滅】
――オーク HP380/600 → 300/600 → 205/600 → 60/600
「おかしい。オークのHPが凄い勢いで減っている。ゴブリン如きに何を苦戦している……?」
――オーク HP0/600【消滅】
……オークが消滅した。
恐らくオークの元についていたゴブリン影霊も全滅したと考えていいだろう。
「イレギュラーが発生してるな」
『シド……何者かがこちらに近づいてきている』
「まさかオークを倒した奴か?」
バキバキと、木の枝をなぎ倒しながら、何者かが一直線に近づいてきている。
間違いなくオークを倒した奴だ。
近い。
もう奴は――すぐそこにいる。
・影霊操術について。
影霊となった魔物のHPが0になった場合消滅します。
しかし魔物のレベルに応じたMPを消費すれば何度でも復活します。
ちなみに影に出し入れするだけならMPは消費しません。
そして影の中に入れている間、影霊のHPとMPはゆっくりと回復していきます。




