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【完結】最強クラス【影霊術師(シャドウネクロマンサー)】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する  作者: なすび
【第3章】In the abyssal depths of the boundless SHADOW

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128 失敗したシド、失敗したフロウ

前回のあらすじ

教皇の言葉で己の罪と、これから先永劫に続く孤独を突きつけられたシドは、リンを失ったこともあり喪失感に襲われる。

そこにヨハンナの最後の結界術で、シドの後を追ってきた最後の《聖痕の騎士団(ナイツオブスティグマ)》――フローレンス・キューティクルが立ちふさがるのであった。

「私は 《聖痕之漆》改め《聖痕之壱》にして《慈愛の聖女》――フローレンス・キューティクルです! 乙女の果実を剣の贄に、聖女の祈りを天秤に掲げ――影霊術師シャドウネクロマンサー祓殺ふっさつします!」


 かつては弱々しく、そして今も幼く小さい少女であることは変わりないフロウが、力強く宣言した。



 俺を――殺すと。



「久しいな」


「はい……ですが、私の脳裏の片隅には、いつもあなたがおりました」


 フロウと再会するのはS級ダンジョン【緋宵月(ひよいづき)】でヴァナルガンドを共闘して倒したとき以来で約半年ぶりだが、彼女のいう通り、確かに実際に流れた時間ほど久しぶりという感覚はなかった。


「……既に教皇から退避命令が下されているはずだが、なぜここにいる?」


「私はそのような聖令は下知されておりません。しかし――あなたを倒すという命令を受けました」


 フロウは名乗った。

 《聖痕之漆》改め《聖痕之壱》――と。


 それはつまり、フロウは俺が認知していなかった《聖痕の騎士団(ナイツオブスティグマ)》最後の1人だった。


 俺が知っている《聖痕の騎士団(ナイツオブスティグマ)》達を思い返す。


 《聖痕之壱》――オズワルド・ワイデンライヒ。

 生前のエカルラートと相打ちで死亡。


 《聖痕之弐》――ヨハンナ・ホーエンツォレルン。

 結界術を操る老婆。【始僧の聖杭】を空打ちして死亡。


 《聖痕之参》――シーナ・アイテール。

 長髪をポニーテールにした魔法剣士。エカルラートに心臓を貫かれて死亡。


 《聖痕之肆》――カイネ・カイウェル。

 全身に包帯を巻き付けた狂戦士。俺が心臓を貫いて死亡。


 《聖痕之伍》――セルヴァ・アルトゥス。

 司祭服の上から白衣を羽織った薬師。俺が首を刎ねて死亡。


 《聖痕之陸》――アニス・レッドビー。

 赤い短髪のアサシン。リンを殺し逃亡中。


「(そして――)」


 《聖痕之漆》――フローレンス・キューティクル。

 俺の目の前にいる少女――現・《聖痕之壱》。


「そうか……長距離から回復魔法を放ったのは、お前だったのか」


「はい。あなたに二度、命を救われ、繋いだ命で会得した技です」


 その少女の手には――かつてエカルラートの心臓を貫き、そしてつい先刻も俺の亡骸の心臓を貫いた、不死をも殺す杭が握られている。

 ヨハンナの死体から回収したのだろう。


 だが大陸南部から大陸中央の王都までどうやって移動したのか?

 いや――考えるだけ無駄だ。


 俺がヴァナルガンドの空間転移を使ったように、瞬間移動を可能にする手段は数多にあるのだから。

 現に彼女は今目の前にいる。

 その事実だけで十分であった。


「俺を殺すのか」


「はい――私は今まで、いえ、もしかすると今も、何も知らない子供でした。子供扱いされるのが嫌だから、子供だからという言い訳は使いません。私は愚かでした」


 フロウはゆっくりと語りだす。


「こうしたいという〝信念〟。主の教えである〝教義〟。上僧より下される〝命令〟――その3つから伴う行動はいつも乖離かいりしていて、しかし私は目の前にある問題に向き合うだけで手一杯で、今思えばもっと良い手段も、選択も、結果もあったと後悔しております」


 フロウの言葉が何を差しているのか、彼女のことを殆ど知らない俺には分からない。

 彼女の言葉は俺に向けていると言うよりも、自分に言い聞かせているようだった。


「結果――私は〝信念〟を折り、〝教義〟を司る聖教会は壊れ、命令を下してくれる同胞を失いました。もはや私に残されたカードは、殆ど残っておりません。この命に変えても、あなたをこの場で祓う――ただそれだけの道具としか、私の存在価値はなくなってしまいました」


「そうか……じゃあ、そうすればいい」


「はい」


 フロウは頷く。

 決意を漲らせた瞳には――オーク一匹に悲鳴をあげていたか弱い少女の面影はない。


 しかし――それは彼女が選んだ選択なのか。

 それとも――選択肢を全て失い、それしか手段が残っていないだけなのか。



「【其は不滅を滅する開闢かいびゃくの宝具】【邪君(じょく)する天帝の聖柱】【魔魂まこん貫く滅殺のくいぜ】――」



 フロウが唱えるのは――聖遺物の起動詠唱。

 手元に握られた杭が白く輝き出す。



「――【主よ我を試し給え】【捧げるは銀の酒】【血を知らぬ乙女の果実】――」



「シド! 何をしておる!? あれを喰らえば死ぬぞ!?」


 エカルラートが急かすように叫ぶ。


「…………」


 だが、俺は答えない。


「よもや!? シドここで死ぬ気か!? 正気か!?」


 今思えば……ミノタウロスに殺されたあの時から、既に正気ではなかったのかもしれない。


「チッ! ヴァナルガンドーー今すぐシドを連れて転移せよ! ……くッ! はやり妾の命令では出てこんか!」


 リンが死んだ今、既に俺が生きる理由はなくなってしまった。

 教皇に言われた通り、俺は孤独で、俺が今までしたことを踏まえれば、俺はもう、誰からも肯定されることはない。


「妾が! 妾がおる! 善も悪も所詮は時の権力者が考えた戯言じゃ! お主の故郷を滅ぼした奴らが正義・・で! お主を虐げた勇者パーティが正義(・・)で、お主を見殺しにした王族が正義(・・)で、リンを殺した聖教会が正義(・・)で――――奪われたものを取り戻すために反抗したお主が()である道理がどこにある!?」


 そんな言葉はとっくのとうに知っている。

 だが――どれだけ言葉を並べても、死者リンを生き返らせる手段はどこにもない。


 勇者パーティへの復讐は、俺が俺であることを肯定するための復讐であった。

 だが――リンの復讐は、例え達成したとしても、手に入るものは虚無なにもない


「もうよい! 妾がこの小娘を殺す!」


 しかしエカルラートは、一歩前に踏み出した所で――動かなくなる。


「(身体が動かぬ……!? 【死霊操術(ネクロマンス)】は死者を操るスキル――妾は今まで超越したステータスでもって【死霊操術(ネクロマンス)】の縛りから逃れていた。じゃが――今のシドは、本気を出せば妾を完全にコントロール出来るということか……そして、それだけ己の死を受け入れているということか……!!)」



「――【聖女の魄臓はくぞうを剣の贄に】【使徒の祈りを天秤に】――」



「小娘! 今すぐ詠唱を止めよ!! それを使えば自分も死ぬぞ!!」


 エカルラートは犬歯を剥き出しにしながらフロウへ叫ぶ。


「…………ッ!」


 フロウの詠唱が――止まった。


「…………っ!!」


 フロウは泣いていた。

 小さな肩は震え、青と黄金の瞳からは涙が溢れていた。


 死を恐れているのか。

 それとも――人を殺すのを恐れているのか。


「小娘! 考え直せ!」


 しかしフロウは――再び薄い唇を開く。



「――【祈り叶いし時】【不滅貫く聖なる標とならん】――」



 フロウが掲げる杭は、彼女の手を離れ頭上に浮遊し、十字架を形作る。

 鋭利な先端が捉える先は――俺の心臓。


「悪いなエカルラート――道連れになっちまって」



「ッ……!!」



 目を瞑る。


「…………」


 全てを受け入れるように。


「(ダメです……やはり、私にはできないっ!)」



 しかし――いつまでたっても、詠唱の最後の一節がフロウの口から紡がれることはない。


「ッ!? 不味いシド! この気配、ソブ――――」



『【始僧の聖杭(シソウノセイクイ)】』



 ようやっと、聖杭が放たれた――エカルラートの心臓に。

 しかし――フロウの頭上には変わらず、十字架が浮遊している。


 聖杭が2本……ある……?



「…………は?」



 なぜ――エカルラートが貫かれた?


「おや? タイミングがズレたかな? そこの少女に便乗して、シドとエカルラート――同時に貫くつもりだったのに」


 大聖堂謁見の間に、新手が転移してくる。



「リベンジマッチだよ――シド」



 そいつは、教皇がいたはずの玉座に悠々と腰かけた、黒髪黒目シカイぞくの男であった。

今期アニメの転生したら第七王子だった奴、紫髪褐色ロリ出てきて性癖ドストライク過ぎてそれだけで視聴が決定しました。皆も見よう。

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