122 影門・卍髏の剣
――質問来てた!
《神霊の聖像》って一度の代償でどのくらい動くの?
――結論!
13分動きます。
聖教会は始僧(教祖)の直属の部下が13人いたことで、13という数字を重視しているからです(上層部も枢機卿6人と、聖痕の騎士団7人、6+7で13席と、過去の風習を守り続けています)。
なので枢機卿達は6×13で連続78分動かし続けられます。
――以上の解説は、初稿の段階では存在せず、読者の方から質問を受けてから、理屈こねくり回して考えました。
「【影門・卍髏の剣】」
――【スキル】影門・卍髏の剣
――【消費MP】0(保有している影霊を任意の数消費することで発動)
――【効果】①影霊をエネルギーに変換して放出する攻撃スキル。
②消費した影霊の累計総合戦闘力によって威力が上がる。
③消費した影霊は完全に消滅し再召喚出来なくなる。
タイタンを倒しレベル115になった際に覚えたスキル。
保有する影霊を贄にし、影霊をエネルギーに変換して放出するスキルだ。
贄にした影霊は二度と召喚出来なくなるが、そのリスクに見合うだけの威力を秘めている――影霊術師の最終奥義。
『よもやよもやじゃ――妾も見るのは初めてじゃ!』
俺も使用したのは今回が初めてだ。
スキルの仕様上、発動するたびに手持ちの影霊を失うため、試験運用せずいきなりのぶっつけ本番だが……。
――ブォォンッ!
スキルを発動したと同時に――俺の背後に影色の門が出現する。
――グオオオオオオオオオオッッッッ!!
おどろおどろしい影門からは奇々怪々とした影霊達の絶叫が漏れ出す。
聖教会の生死感で表現すれば、地獄の釜の様相といった所か。
影門から溢れだすのは、魂状となり、影霊だった怪。
それらが掲げた忌緋月に纏わりついていく。
刀が重たくなる実感はない。
だが――確かに膨大なエネルギーが刀に集まっていくのを感じる。
贄にする影霊は――ミノタウロスやデュラハンといった主力級を除く――それ以外の全て。
総数1000体を超す影霊のエネルギーを、刃渡り1メートル弱の薄い刃に纏わせる。
仕留め損なったら勝ち目はない。
保険をかけるのは逆にリスキーだ。
「故に――妥協はしない」
『――――ッッ!!』
――光ッ!
影門から溢れだす膨大なエネルギーに危機感を抱いたのか、聖像は光線を発射する。
光線が俺に命中する寸前――
「タイタン」
――MP 2330 → 330
『グオオオオオオオオッッッッ!!!!』
――正面にタイタンを再召喚する。
タイタンは身を屈めて両腕をクロスさせ防御態勢を取り、聖像の光線を受け止め続ける。
タイタンの時間稼ぎも功を成し――ついに影門から影霊の抽出が完了した。
この薄く延ばされた鋼の刃に、1000体を超える影霊のエネルギーが濃縮されている。
「文字通り俺の全力だ――《影門・卍髏の剣》!!」
高密度に圧縮された影霊エネルギーを纏った忌緋月。
三日月を描くように振った刀から放たれた黒い斬撃が、聖像へ向けて飛来する。
斬撃は光線と衝突するも、勢いを殺すことなく押し進み、円盾と迫り合うことさえ許さず切断し、頭の先から股までを――――一刀両断にする!
『――――ッッッッ!?!?』
聖像は断末魔の悲鳴を上げると――兜の奥に灯る光が消え失せ、動かなくなった。
割れた聖像がそれぞれ左右に倒れ視界が晴れる。
そして――見つけた。
大聖堂本堂――そのテラス状になっている場所に、ひと際豪奢な法衣を纏った聖職者の一団を発見する。
奴らがあの聖像を操っていた術者達に違いない。
恐らくは聖教会の最高幹部――枢機卿団。
足元に展開したウィンディーネの障壁を蹴り、枢機卿団目掛けて落下する。
枢機卿団は中央に設置した豪奢な祭壇を囲うように円を組んでいたので、祭壇を破壊するように円陣の中央に着地した。
聖像のコントローラーだったのだろう祭壇が粉々に砕ける。
「なッ!?」
「聖像の祭壇が!?」
「忌々しい影霊術師めッ!」
「《聖痕の騎士団》は何をしているのだ!?」
枢機卿団は全員が年老いた高齢男性で、数は6人。
ステータスを確認するが、平均レベルは30。
大したことはない。
実力重視の《聖痕の騎士団》と違って枢機卿団はまた別の基準で選抜されるらしい。
「よぉ、テメェ等の命令でリンが死んだ。その命でもって償ってもらうぞ」
「ま、待て――」
「言い訳は聞かねェ――《衂滅月斬》」
水平の回転切り。
6つの首が飛び、断面から噴水のように血を噴射させ、老人達はバタバタと倒れていく。
「エカルラート――枢機卿より偉い聖職者は何人いる?」
『教皇と呼ばれる、聖教会のトップ、1人だけじゃ』
「それじゃあ次は――その教皇の首、取りにいくか」
名前も知らない枢機卿の死体を踏みつけ、俺は大聖堂本堂の門を潜った。
全身にこびりついた返り血から、錆びた鉄の臭いを放ちながら。




