表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】最強クラス【影霊術師(シャドウネクロマンサー)】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する  作者: なすび
【第3章】In the abyssal depths of the boundless SHADOW

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/168

118 不死の解釈

今回からシドの一人称に戻ります。

「ガ……ハ……ッ!?」


「テメェとの因縁もこれで終わりだな」


「ラノ……ルス……ッ!」


 心臓を貫かれたミイラ男――カイネは、ギリギリと首を捻って背後の俺を睨みつけた。

 充血した目には、驚愕と共に憎悪が込められている。


「本当にしぶとい野郎だ――ま、テメェが心臓貫いた程度で知らないことは知っている」


 カイネの心臓を貫いた忌緋月を引き抜くと、そのまま力なく、うつ伏せに倒れた。

 背中越しに首に刺突すると――



――カイネ HP0



 ――カイネは死亡した。


「はぁ……はぁ……一か八かだった」


 精神的な疲労が強く、カイネの首に刀を刺したまま、手を離して息を整える。

 カイネに斬り飛ばされた右腕をさすりながら、一発逆転の賭けが成功したことに、とりあえず安堵する。


「こっちも片付いたぞ、シド」


「ああ、ご苦労――エカルラート」


 手筈通り――エカルラートも伸ばした爪でシーナの心臓を貫いて殺害していた。


「な、なぜ……生きているの……です……ッ!? 確かに……聖杭はあなたの心臓を……ッ!?」


 【始僧(しそう)聖杭(せいくい)】の代償で心臓が機能しなくなった老婆ヨハンナは、苦痛で顔をしわくちゃにしながら倒れ、首だけを動かして俺を睨みつけた。

 俺の背後には――今もなお、聖杭に貫かれた俺の死体が残っている。


 俺が2人いて、さぞ驚いていることだろう。

 まあ、このババアに跳ねる心臓はもうないのだけども。


「死に損ないが知ってどうなる」


「…………カハッ!?」


 息も絶え絶えの老婆は、胸を押さえたまま動かなくなった。

 むしろ心臓が停止した状態で、これだけ意識を保っていた方が凄い。

 最後まで恐ろしいババアだ。


「ネタばらしくらい、してやっても良かったのではないかのゥ」


「そんな時間はねェ」


 俺が聖杭で心臓を貫かれてもなお生きていた理由。



 一言で説明すれば――――切り落とされた(・・・・・・・)腕を本体(・・・・)と定め、腕から腕以外(・・・・・・)を再生したのだ。



 影霊術師シャドウネクロマンサーを縛り影霊(シャドウ)の召喚を封じる結界に閉じ込められ、カイネとシーナの剣戟を1人で捌き続けた挙句に、長距離から回復魔法を放つヒーラーまでいる始末。


 これは勝てない――と悟った。


 しかし――諦めた訳ではない。


 故に俺は一か八かの賭けに出たのであった。


 カイネの《朽ち移し(ラストトゥラスト)》で隼刃の双剣の片割れが破壊され、ヴァナルガンドの次元の裂け目から武器を補充しようとした所、シーナの一閃で右腕が切断された。


 だが――右腕をヴァナルガンドの中に残すことこそが、本当の狙いだったのだ。


「(解釈の問題だ)」


 不老不死となった俺にとって脳も心臓も、もはや従来の役割を果たしていない。


 脳がなくても頭は再生するし、胴に穴が空いても心臓は再生する。


 つまり――切り落とされた四肢の方を俺本体だと解釈することに成功すれば、腕意外を再生させることも可能なはずなのだ。


 だがアンデッドだった時期よりも、人間だった時の方がはるかに長い俺にとって、咄嗟に腕の方を本体であると解釈させるのは難しい。

 普通は頭や胴体――そうでなくても、千切れた肉体の面積の大きい方を本体だと定め、そこから再生が始まるだろう。


「(そこで俺は――エカルラートの力を借りることにした)」


 シーナに腕を切り落とされた瞬間、エカルラートは普段俺の影の中に身を潜めている時のように、切り落とされた右腕の影に入り込んだ。


 そこで俺の右腕とエカルラートの精神をリンクさせ、「俺の肉体は右腕の方が本体である」と認知させたのだ。

 思惑通り、残った右腕以外の俺の意識は切り離され、再生能力が消失。

 代わりに右腕の方が再生能力を帯び、ヴァナルガンドの中に身を潜めることに成功したのであった。


 ――で、ヨハンナが結界を解いたと同時に地上に顕現。

 エカルラートと手分けして、カイネとシーナを背後から襲い今に至る。


「ま――つまりエカルラートが入り込んだ影の方が本体おれになる――ってことだな」


 無論、今までそんな練習1度もしてこなかった。

 死を覚悟した極限状態の中、試せる手段がこれしかなく、ぶっつけ本番で試した手が、たまたまうまくいっただけだった。


 そう思うと――人を人たらしめているものは何なのか?

 人の〝魂〟を司る器官はどこに宿っているのか?


 ――と、様々な疑問が浮かんでくる。


「《聖痕の騎士団(ナイツオブスティグマ)》――お前らは本当に強かった。だが、お陰で俺はまた1つ強くなれた」


 3つの死体に一瞥した後、俺はリンを探すべく森の中に入った。

 死体から装備を漁ったり、死体に影霊操術シャドウネクロマンスをかける時間も惜しいし、未だ姿を見せない《聖痕之漆》の存在も懸念材料になっている。


 《聖痕之漆》の能力は、超長距離からの回復魔法。

 それはすなわち、アンデッドの俺にとっては超長距離からの攻撃魔法にもなり得る。

 ここで呑気に死体を漁っているのは危険だ。


 森の中なら背の高い木が遮蔽物になり、狙撃の心配もないはずだ。


「シド――リンはまだ生きておると思うか?」


「多分生きてるはずだ」


 ――アニスとヨハンナがしていた会話を思い出す。



『ヨハンナばあちゃん、リンちゃん殺しちゃうっスけど、いいっスよね?』


『ええ、構いません。結界に閉じ込めることに成功し、もはやこの子に人質としての価値はありません』


『死姦の趣味はないんで、殺すのは楽しませて貰った後にするっスよ』



 ――今思い返しても、正義を掲げる聖教会の言葉とは思えない胸糞悪い会話だ。


 恐らくだが――その言葉の真意は、俺の精神を揺さぶり、思考を鈍らせるためにあえてリンを「殺す」だとか「犯す」といった物騒な言葉を選んだのだろう。


 だがいつまで経ってもアニスが、カイネやシーナと共に戦闘に参加しなかったのを見るに、リンは生かしており、監視する必要があったからだと思われる。


「アニスを殺してリンを助け出す――出し惜しみはしない」


 影の中に潜む無数の影霊(シャドウ)をいつでも召喚できるようにスタンバイさせながら、森の中を進んでいくと――見つけた。














「よもや……じゃな」


「嘘……だろ……」



 発見したリンの姿を見て、俺は膝から崩れ落ちる。


 俺の予想は見事に外れた。




 そこには、








 木の幹に背を預け、












 心臓からとめどなく血を流す、














 全裸のリンの死体があった。

・再生能力の解説


シドの再生能力は、シドが本体だと定めた肉片に宿ります。

意識があるときは脳がついている部分、意識がないときは肉体の面積が1番大きい部位を、シドは無意識下に本体であると認識しています。


そこでシドは、千切れた腕の方が本体だと解釈できれば、千切れた腕から、残りの肉体が再生するのでは? ――と考察しました。


でも人間の思考回路が、「脳でも心臓でもなく、千切れた腕が本体だぜ」なんて解釈できるはずもなく、再生の訓練を行っていないシドがぶっつけ本番で出来るはずもありません。

そこでシドは意識そのものを手放し、エカルラートに魂の解釈を任せるため、影の中に潜む能力で千切れた腕の影に入り込んで貰いました。


シドは意識を手放し、かつ千切れた腕の影にエカルラートの魂があることで、「こっちが本体」という解釈をし、千切れた腕から腕以外の肉体を再生させることに成功したのでした。

そうして【始僧の聖杭】は空打ちに終わり、ヨハンナの心臓が停止して結界が解除された所で、ヴァナルガンドの転移能力でカイネとシーナの背後から不意打ちを喰らわせたのでした。




それはそれとして――

今回のAIイラストは《聖痕之参》シーナ・アイテールです。

彼女は魔法剣士で、魔術と剣術両方に秀でている設定なのですが、あんまり戦闘シーンを書けずに退場してしまいました(涙)


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ