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【完結】最強クラス【影霊術師(シャドウネクロマンサー)】に覚醒し、俺を捨て駒にした勇者パーティと世界の全てに復讐する  作者: なすび
【第3章】In the abyssal depths of the boundless SHADOW

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117 始僧の聖杭

今回も引き続きシーナに焦点を当てた3人称です。


 ――パキッ!


 影霊術師シドと死闘を続けるシーナとカイネ。

 何十何百という剣戟の末――ついにシドの持つ双剣の片割れに、大きなヒビが入った。


「チッ……双剣もそろそろ限界か……ッ!」


 双剣が纏う風魔力の膜で《朽ち移し(ラストトゥラスト)》の腐敗の呪いを軽減していたが、ついに限界が訪れる。


 着実に追い詰められていくシド。

 しかし――シドが気付いていないだけで、聖教会もまた、タイムリミットが近づいてきていた。


「…………うぐッ!」


――ヨハンナ MP270/270


 結界の外でヨハンナが喘ぎ、顔に刻まれた皺が更に深くなる。

 ヨハンナが維持できる結界の残り時間は、既に1分を切っていた。


「(ここでシドに新しい武器に持ち変えられる訳にはいかない!)」


「うおおおおおおおッ!!」


 シーナは更に斬撃の速度を高めた。


「行くぞカイネ!」


「分かっているッ!」


 カイネと呼応する。

 今は亡きセルヴァがシドの弱点を探り、汚れ役を引き受けたアニスが誘導し、結界術でヨハンナが閉じ込め、回復魔法でフロウが支援し、カイネとシーナで追い詰めていく。


 《聖痕の騎士団(ナイツオブスティグマ)》が紡いできた希望が――ついに実を結ぼうとしている。


「届け!」


 シーナが叫ぶ。


 ――パキンッ!


 シドの双剣の片割れが、ついに《朽ち移し(ラストトゥラスト)》の腐敗に浸食されて砕ける。


「クソがッ!?」


 シドが悪態をつく。


「届けええええええッ!!」


 カイネが叫ぶ。


 シドは次元の裂け目を出現させると、新たな武器を補充するために手を突っ込んだ。

 もう結界を維持できる時間は殆ど残っていない。


「させるかァァ――――ッッ!!」



 ――斬ッ!



 シーナの聖刃が、闇色の裂け目に突っ込んでいる腕を切断する。

 切り落とされた腕は裂け目の中に落下し、断面が露出して空気中に晒される。


「うおおおおおおッッッッ!!」



 ――打ッ!



 カイネの鋸鉈(のこなた)が、切断した腕の断面を打つ。

 傷口が腐り、再生を遅らせる。


「(畳みかける!)」



 ――パキンッ!



 カイネがもう片方の双剣を砕く。


「死ねええええッッッッ!!」



 ――突ッ!



 シーナの放った刺突により、切っ先がシドの喉を貫き、うなじから突き出した!


 《朽ち移し(ラストトゥラスト)》の腐敗が蓄積したのだろう。

 フロウが空けた胸の傷も、シーナが貫いた傷も――再生が止まっている。


「うおおおおおお!!!!」



 ――斬ッ!



 残った腕も切断する。

 やはり再生する兆しはない。


 文字通り両手を失い、シドに抵抗する手段は既にない。

 《朽ち移し(ラストトゥラスト)》による腐敗が全身を巡り、ついに始祖の吸血鬼の血の力を上回ったのだろう。


 影の中からエカルラートもヴァナルガンドも飛び出してくる気配もない。


「「ヨハンナ様ッ!」」


 シーナとカイネが同時に叫ぶ。

 ヨハンナは呼応する。

 途中まで唱え、中断していた聖遺物の――最後の一節を紡ぐ。


「――――【祈り叶いし時】【不死を貫く聖なる杭とならん】――――【始僧(しそう)聖杭(せいくい)】」


 ヨハンナの頭上に、煌々と輝く十字架の杭が出現した。

 鋭利になっている先端がシドに向けられ――射出。



 ――突ッ!!



 シドの心臓を聖杭が貫き、結界の外壁に打ち付けられて空中に磔になる。


「やったか!?」


 未だ再生する気配はなく、首は力なく項垂れ、断面からは滝のように血が流れ落ちている。


 1秒。

 2秒。

 10秒。

 沈黙が続く。


 シドはピクリとも動かず、肉体が再生する兆しもない。


「か、勝った……」


 シーナは緊張の糸が切れ、膝から落ちて座り込んだ。

 カイネも「ぜぇぜぇ」と息を荒げながらも、喉が潰れるのもお構いなしに「うおおおおお!」と雄叫びを上げた。


 喜びもつかの間、シドの行動を制限し続けていた、ヨハンナの結界が崩壊し、解除される。


「はっ!? ヨハンナ様ッ!?」


 【始僧の聖杭】は不死だろうと問答無用に死を与える最強の聖遺物であるが、代償として使用者は心臓を失う。

 それにより結界が維持できなくなったのだ。

 シーナは既に疲労が限界を迎えている肉体に鞭を打ち、ヨハンナに駆け寄る。


 息も絶え絶えになっているヨハンナが、汗で前髪を張りつかせながらも、呼びかけに答えた。


「よくやってくれました……シーナちゃん……」


「ヨハンナ様……」


「後のことは……頼みましたよ……」


「……はい、承知しました」


 頽れるヨハンナの前に涙を流すシーナ。


 その時――!



 ――ザクッ!!



「ガハッ!?!?」



 身体が浮き上がり、胸部に激しい痛みが走る。


「クカカ――よもやよもやじゃ――本当にシドの策がうまくいくとはのゥ」


「お、お前は……ッ!?」


 シーナはゆっくりと、宙に浮いた状態で首を後ろに向ける。

 そこには金色の髪を伸ばした絶世の美女――エカルラートが凄惨な笑みを浮かべていた。


「なぜ……ゴハッ……生きて……いる……ッ!?」


 術者が死ねば、死霊操術(ネクロマンス)で操っていた魔物も動かなくなるはず。

 にも関わらず、エカルラートは生きていた。

 日光の下にいてもなお、月光を思わせる美貌がシーナを射止めている。


 結界が消滅したのをいいことに、五指から伸ばした真紅の爪で胸部を貫き、腕を掲げてシーナを宙釣りにしたのであった。


「ガハッ!?」


 別の方向から、カイネのうめき声が聞こえる。


「(まさか……ッ!?)」


 カイネの方に視線を向ける。


「シド…………ラノルス…………ッ!?!?」


 そこには刃が紅色に輝く刀で、カイネの心臓を貫く黒髪の青年の姿があった。

 四肢は全て再生しており、胸部の傷も最初からなかったかのように塞がっていた。


「(ありえない!? 確かに奴は聖杭で心臓を貫かれたはずだ!?)」


 ――ベチャッ!


 エカルラートは腕を振るい、シーナを地面に叩きつけた。

 シドの肉体は五体満足に再生しており、ここまでの努力が、払った代償――その全てが水泡に帰した――その絶望感に打ちひしがれながら、シーナの意識が急速に遠のいていく。


「(ああ……フランシス様……今、会いに行きます……あなたの意思を汲み取れず、私怨に生きた愚かな私を……あなたは許して下さるでしょうか……?)」


 エカルラートは地に伏せるシーナの頭部を、真紅の凶爪で貫いた。

 心臓と脳――急所を徹底的に破壊されたシーナは、HPが0になり死亡する。



「…………リン、今行くぞ」



 シドの方も忌緋月でカイネを殺害。


 残る《聖痕の騎士団(ナイツオブスティグマ)》は――フロウのみ。

シドがどうやって生き延びたのかは次回解説予定です。


今回のAIイラストは海水浴にきたリンの続きです。

ワンピースの下にとっておきの水着を着ていました。

挿絵(By みてみん)

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