105 続・百合デート回
前回のあらすじ
チンピラを追い払い――デート再開。
――日没間近。
光魔水晶が取り付けられた街灯が、至る所に設置された王都は夜も爛々と人々を照らす。
とはいえ、12歳の少女をいつまでも連れまわす訳にもいかず、アニスはデートの終了を提案した。
「今日はとっても楽しかったですっ。アニス様、本当にありがとうございましたっ!」
「ウチもとっても面白かったッス。また遊ぼうっス!」
「は、はいっ! 私なんかでよろしければ……っ!」
こうしてそれぞれ、別方向へ別れるのだが――
「あ、あのっ!」
アニスの服を、踵を返してきたフロウが掴んで呼び止めた。
「ん? どうしたんスか?」
「も、もうちょっとだけ……一緒にいたい……ですっ!」
「…………ふーん」
アニスはフロウの行動に、わずかに口角を持ち上げた。
遊び人のアニスにとって、こうやって女の子に呼び止められた回数は数えきれない。
そういう時は決まって、自分の部屋に連れ込み、唇を奪い、ベッドに誘導して、することをしていた。
フロウの顔は12歳にして、既に10年後の美貌を容易に想像出来るまでの可憐さを帯びており、箱入り娘として大切に育てられた肌は、きっと白く柔らかく、まるでシルクのような滑らかな肌ざわりなのだろう。
アニスの手腕があれば、部屋に連れ込めばフロウが抵抗しようと押さえつけることが出来る。
目の前にぶら下げられた極上の果実を、手を伸ばすだけで手に入るのだ。
今まで食い散らかしてきたシスターの花弁と同じように。
そしてそれは――今まで食い散らかしてきたシスターとは比べ物にならないくらい、極上の味わいなのだろう。
「…………」
――――でも。
「(いや――やめとこ)」
フロウに対してはなぜか、そんな気持ちが起きなかった。
今日一日アニスはフロウをリードし、お金も全て負担し、安くないドレスのプレゼントまでした。
金銭的にも精神的にも貢いだし、相手の心が許すのであれば――見返りに美味しく頂いてしまうのがアニスのポリシーである。
しかし今日一日フロウと共に時間を過ごし、12歳という年齢を加味しても、あまりにも世間知らずかつ、純粋な彼女の姿を見て――アニスは己の薄汚い欲望をぶつけ、真っ白な乙女を汚してしまう行為を許せなかった。
「(バレたらシーナ先輩にぶっ殺されそうっスからね)」
――なんて言い訳で自分を騙しながら。
「それじゃあ、夕食でも一緒にするッスか?」
行きつけの飲食店で夕食を共にし、フロウの住居まで送ってそのまま何もせず帰ろう。
アニスはそう思って提案したのだが……。
「その……アニス様を、連れていきたい所があるんです!」
まさかの――1日受け身に徹していたフロウからの提案に、アニスは驚き、果たしてそこがどこであるのか、興味を抱くのであった。
***
――年季が入っているものも、丁寧に手入れがされている石作りの建物。
「フロウお姉ちゃんだっ!!」
「今日くる日じゃないのにあそびにきてくれたのー!?」
「お姉ちゃんの服、すっごくかわいい!」
「となりの女の人はだれ~?」
フロウがアニスを連れてきた場所。
それはかつて《慈愛の聖女》フランシス・キューティクルが運営し、現在は娘であるフロウが運営している孤児院であった。
「この人はアニスお姉ちゃんですよ。私と同じ聖教会の人で、格好良くて強い人なんですよ」
「あはは、ど、どうも……っス」
「アニスお姉ちゃんも聖騎士なの!?」
「クラスはなに~?」
「スキル見せてよ! ずばーん! ってビームでる魔法が見たい!」
「あはは……ウチはアサシンなんでそんな派手なスキルはないっスけど――」
フロウによく懐いている子供達は、アニスを取り囲み質問攻めをする。
「(年下の子は好きっスけど……年齢一桁の子の相手するのは初めてっスね……)」
アニスは慣れない空間に乾いた笑みを浮かべながらも、子供達の質問に1つ1つ丁寧に答えるのであった。




