104 百合デート回
前回のあらすじ
フロウとアニス――――王都でデート。
パンケーキ屋で腹を満たしたフロウとアニス。
次に訪れたのは、可愛いデザインの服が一部の愛好家から人気の洋服店。
ここもまたそれなりの高級店であり、股をかけている複数のシスターと鉢合わせしないことから重宝していた。
「フロウちゃ~ん、着替えられたっスか~?」
「ア、アニス様……こ、こういった格好は、私には似合わないかと思うのですが……」
「いやいやいや! そんなことないっスよ! どちゃくそ可愛いッス!」
――まぁ、フロウちゃんは何着ても可愛いんスけどね。
「ほ、本当でしょうか……?」
試着室から出てきたフロウの恰好は、フリルを大量にあしらった白黒カラーが特徴的な――ゴシックロリータドレス。
幼女の面影を残す、華奢な12歳の美少女であるフロウがそれを着ると、まるで本物のお人形のように可憐であった。
「やっぱし可愛い! このまま着て行くべきッスよ――店員さん! これ買いまっス!」
「はい、お買い上げありがとうございます!!」
「ふぇぇ!? ア、アニス様!?」
「ウチからのプレゼントッスよ」
フロウは日常的に聖教会支給のシスター服で過ごしていた。
《聖痕の騎士団》に任命された後も、オーダーメイド品の法衣で日常を過ごしていることに変わりなく、私服の類いを殆ど持っていないと聞いたアニス。
そこで彼女はフロウのために、新しい服をプレゼントすることを決めたのであった。
アニスは聖騎士――それも最も危険な仕事が割り振られる《聖痕の騎士団》で働いている。
死ぬときはあっさり死ぬから手持ちの金は即座に使ってしまうという、節制や清貧を是とする聖職者とは思えない生き方をしていた。
しかもその殆どを、遊び相手であるシスターに散財しているという金遣いの荒さである。
故に決して安くない仕立てのいいドレスをプレゼントすることに、彼女は一切の躊躇を抱いていない。
「フロウちゃんもまだ12歳なんだから、若いうちに沢山お洒落しないともったいないッスよ。いくら美人でもシーナ先輩みたいに行き遅れちゃう可能性だってあるんスから」
「あ、あはは……」
***
――一方、何も知らないシーナ・アイテール(25)。
「くしゅん! なんだか今日はくしゃみが止まらんな……」
***
――再びフロウ&アニス。
アニスがゴスロリドレスの会計をしている間、フロウは店内を見渡していた。
「あっ」
そして店の目立つところに置いてある――1着のコートに目を奪われた。
それは黒のロングコートであった。
少しキザったらしいデザインのそれを見て、思い浮かべるのは――とあるシカイ族の顔。
「(シドさん……)」
命の恩人にして、S級ダンジョンのボスと共闘した戦友。
そして――《聖痕の騎士団》の抹殺対象。
今頃彼は何をしているのだろうか?
フロウはそんなことを思いながら、シドに思いを馳せるのであった。
***
服屋を出た後も、2人は王都の様々な場所を巡った。
フロウは娯楽に対して疎く、なにもかもが新鮮で面白く、そんなフロウのリアクションを見るアニスもデートを満喫していた。
日も傾いてそろそろお開きになろうかという時間帯。
――ドンッ!
大通りを並んで歩いていたフロウは、すれ違う男と肩をぶつけてしまう。
「あっ、も、申し訳ございませんっ!」
「いってぇぇぇぇ~~~~! これ絶対骨折れてるわ! おいお嬢ちゃん! どうしてくれんだコレ!?」
フロウは即座に頭を下げたが、ぶつかった男の方は大袈裟に肩を押さえる。
威圧感を込めた怒声をフロウに浴びせた。
いくらフロウが平均的な冒険者よりも高いレベルを持っているとはいえ、彼女のクラスは後衛タイプの僧侶。
加えて華奢で小柄なフロウとぶつかった程度で骨が折れる訳がない。
そうやって難癖を付けて金をせびるのが、彼の主な収入源なのである。
「とりあえず路地裏の方で話つけよう――いだだだだだッ!?!?」
チンピラはフロウへと手を伸ばすが――間に割り込んだアニスが、チンピラの指を掴んで反対方向へと折り曲げる。
更に懐に忍ばせていた短剣を即座に抜き、フロウからは見えない角度から、顎の下に切っ先を当てた。
少し力を入れれば、顎を貫き舌を貫通する位置。
アニスはフロウに聞こえないように、チンピラの耳元で囁く。
「楽しいデートの邪魔しないで貰えるッスかね? ――てゆーかあんた、この前も会ったッスよね?」
「て、てめぇはあん時の聖職者……ッ!?!?」
フロウに難癖をつけてきたチンピラは――かつて王都に買い出しにきていたリンリン・リングランドにも似たような手法を取り、そしてアニスによって撃退された元冒険者であった。
「本当に骨折ってもいいんスよ?」
――ギリギリギリ。
軋みを上げるチンピラの指。
加えて、アニスは容赦なく人の肩の関節を外す人間であることを彼は身を持って知っている。
「ご、ごご……ごめんなさい……も、もうしませんからっ……!」
このまま衛兵に突き出してやりたい気分だ。
だが――それで時間を取られて残り少ないデート時間を浪費する方が嫌だったので、チンピラを解放した。
チンピラは一目散にアニスから逃げ出すのであった。
「フロウちゃん、大丈夫ッスか?」
「私は平気です。ですがあのお方が心配です。骨が折れてしまったようですし、責任を持って回復魔法をかけて差し上げたいのですが……どこかへ行ってしまわれました。大丈夫でしょうか?」
「(いや純粋過ぎる……!!)」
フロウは本当にあのチンピラが負傷したと思い込んでいた。
「(世間知らずなのか、慈悲深過ぎるのか……シーナ先輩が過保護過ぎるのも分かる気がするッスよ……本当にシカイ族を虐殺しまくった《慈愛の聖女》――聖フランシス・キューティクルの娘なんスかね……?)」
アニスは「いや、大したことなかったみたいッスよ?」と適当に誤魔化し、デートを再開するのであった。




