俺って健忘症?
「なぁ、知り合いってどうゆうことだよ?」
「いや、俺に訊かれても」
いやマジ訊かれても困るし。
「だってあのヒナちゃんだっけ?が言ってただろ」
確かにあの子は俺を知ってる人だって言った。
でも残念な事に俺の記憶には全く残ってない。
忘れてるだけだとしたら、あの時の会話で多少なりとも思い出してるはずだし、向こうの勘違いじゃないのかなと。
「まぁいいよ。おかげであの子達のアドレスゲットできたし。早速今夜にでも誘っちゃおうかな」
「昼間っからエロ全開だなお前」
ってか、全然良くないだろ。勝手に一人で完結させやがって。
と言っても考えても答えなんてでないし、もう疲れたから帰ろ。
「おい、どこ行くんだよ?」
「お前の目的は達成出来たろ?俺もう疲れたから帰るわ」
まだまだこれからが勝負だとか言い出すマサキをガン無視してさっさと出口に向かう。
比較的街中に作られているから帰るのにもそんなに時間はかからない。
徒歩と電車合わせて40分くらいかな。
ボーっとしながら歩いてると駅が見えてきた。
そこで颯爽と携帯を取り出す俺。
ふふん、なんと携帯一つで電車に乗れちゃうんだなこれが。科学って凄い。
って、あれ?メールきてる。
メールっていまいち好きじゃないんだよな。電話のが早いしメールってなんか縛られてる感じがする。
んで、どなたさんですか~っと・・・ヒナ?
さっき別れたばっかじゃん、どんだけ積極的なんだよ。
メールには二人で話したい事があるってのと待ち合わせ場所が書いてあった。
ちょっと色々急展開すぎやしないか?
俺の穏やかでつまらない日常はどこへいったんだよ。
てか、今更だけどさ・・・ここで待ち合わせってどうなんだよ?
現在地、渋谷駅ハチ公口。
今時こんな人覆いトコで待ち合わせしようって奴いるんだな。俺なら間違いなく指定しない。
ナンパ・キャッチ・スカウトどれも多くてうんざりする。
ここを選ぶなら信号渡った先にあるTATUYAの入口で待ち合わせた方がいいと思うんだけど。
「人が多いおかげで変なのも多いし、退屈しないのはイイけどさ」
なんて一人で呟いてる俺も十分変な人になるんだろうか。
ちょっと困ってるのがヒナの容姿をろくに覚えてない事だ。
覚えているのが、
背小さい・可愛い・胸でかい
我ながらもうちょい覚えとけよって思うくらいはっきりと覚えてない。
後は~・・・髪の毛長いってくらい?
まぁきっと向こうが見つけてくれるだろ。なんて楽観的にしててもいいよな。
もしかしたら見つけられるかも~なんてキョロキョロ。
あぁ、ごめんよお姉さん、邪魔だからって舌打ちなんてしないでくれたまえ。
邪魔にならないように、数歩後ろに下がって壁際に移動・・・出来なかった。
「大胆だな、会った初日に後ろから抱きつくなんて」
後ろを振り返ると、鼻と後頭部(恐らく壁にぶつけた)をさすりながら見上げてくるヒナがいた。
「脅かそうとしたら、予想外の反撃をうけました」
そんなに激しくぶつかったつもりはないんだけど、涙目で言われたらさすがに申し訳なくなってくる。
「わりぃ、気付かなかった。ごめんな」
手のひらからごめんな、元気出せと念を込めて頭を撫でてやる。
一応グシャグシャにしないように気使ってますよ?
「大丈夫ですから」
即効で手をどけられた。
グシャグシャにはしてないぞ。
「頭触られるの嫌いだったか?」
よくよく考えれば今日会ったばっかりだし、少なからず抵抗があったんだろう。
今日はちょっと軽率な行動が多い気がするな・・・っていつもか。
「恥ずかしかっただけです。イヤじゃないですから、そんな顔しないでください」
俺の言葉にゆっくりと顔を横に振ると、良く判らない事を言われてしまった。
「そんな顔って、どんな顔?」
いたっていつも通りのクールでステキな顔をしているつもりなんだけど。
もしかして気付かない間に変顔しちゃってた?やばいよそれ、こんな人多いとこで。さすがに恥ずかしさで死んじゃうって!
「なんか、不安でいっぱいって顔してました」
いやさすがにソレはない。
ってか一体どこに不安になるような要素があったんですか。
「ちなみにさ、視力いくつ?」
「コンタクト入れて両目共に1.0くらいです」
目が悪いからって話でもなさそうだな。
どうせそう見えただけで実際ってわけじゃないんだろ。
「さて本題。話って何?」
こんなとこでダラダラ話してても仕方ないし、さっさと話し終わらせて帰りたい。
・・・帰っても何もすることないんだけどね。
「ここで話すのはちょっと・・・。近くに良いカフェがあるので、そちらへ行きませんか?」
もったいぶるねぇ・・・・。
まぁどうせ話すなら落ち着ける場所のがいいしな。
「別にいいけど、迷子になるなよ?」
「それは私の台詞ですよ、お兄さん」
俺の台詞で合ってるっつうの。
って言い返すつもりだったんだけど、さっさと一人で歩いて行く背中を見てあながち間違ってなかったかも、なんて感じた。