俺って軟派?
「なぁ、ちょっとでいいから付き合ってくんね?」
「やだよ、なんで俺がわざわざそんなことしなきゃいけないんだよ」
「今回ばかりは一人じゃきついんだって。頼む!一生の御願い!」
「おまえ、その一生の御願いって後何回使う気だよ」
「ん~・・・50回くらい?」
まじで死んだらいいのに。
周りを見回すと大半がカップルで、ちらほら女の二人組がいる。
最近出来たペア専用のアミューズメントパークらしい。
すべての乗り物やゲームがペア専用で、一人でも三人以上でも何も出来ないようになっている。
何も聞かされずに連れて来られて御願いされたのが
「結構女の二人組が多いから、声かけたいんだけど一人で声かけても場所が場所だし微妙じゃん?つうわけでナンパに付き合ってくれ」
入場料払った後に言うとか反則じゃね?
ものすっごい嫌な顔しながらも渋々了承してやった。
ありがたくおもえよコノヤロウ。
「んで、どこらへんがねらい目?」
「今悩んでるトコ。顔だけじゃなくて胸も欲しいし・・・そうなってくると結構絞れてくるんだよな」
「はいはい、どうでもいいからさっさと決めてくれ」
俺としてはさっさと終わらせて遊びまわりたいんだよ。
そんな俺の気持ちをよそに悩みに悩みまくるアホが一匹。
「どうせ一回ヤって終わりなんだろ?だったら適当でいいんじゃないのかよ」
「いやいや、わかってないねオニーサン。数も大事だけど、質も大事なんすよ」
あぁもう俺のこの遊びたい気持ちが届かない。
折角の休日がドンドン無駄に浪費されていくよ。
こんなことなら行きつけの服屋行って冬物でも買い漁ってるほうが全然楽しいじゃんか。
「そーいや、今何人くらいいってんの?」
「今日のも含めて64人くらいかな。やっと後半戦開始ってとこ」
さすが百人斬りを目指してるだけあってそこそこ順調。
今日もヤれるって決め付けてるとこは突っ込むべきか否か、迷うところだ。
「よし決めた。あの二人組にしようぜ」
マサキが指差す先には、なるほど。確かに可愛いしスタイルもいい。
ファッションもマサキ好みのギャル系だけどちょっと落ち着きもある雰囲気で、最近良く見る所謂流行ってやつ。
「俺は何役?」
さっさと女の子に向かっていくマサキに一応訊いとく。
もしかしたらステキな作戦を考えているのかもしれないからな。
「ショウはいつも通りでよろしく。その方が俺も合わせやすいし、前みたいにイミフな紳士キャラになられても困るからさ」
あの紳士キャラは相当嫌だったんだろう。
その時は紳士的に振る舞いすぎて逆に女の子の誘いを断ってしまったくらいだからな。
「こんちわ~っ。良かったら俺ら含めて四人で遊ばない?」
いや、早いから。
俺まだ追いついてねーし。
「人数が倍になった分だけ楽しさも倍になるって!むしろこんな可愛い子と遊べたら倍どころじゃすまないかも!」
やっと追いついた頃にはマサキは絶好調。
それに引き換え相手の子達はものすごーく冷めた目でマサキを見つめている。
・・・無視されてないだけマシか。
「四人って言われても、ペアじゃないと遊べないのばっかりじゃないですか」
副音声にはきっと、私達は二人で楽しむからアンタラはどっか行って。とか入ってるんだろう。
残念ながら、このアホは言葉通りにしか受け取らないんだけど。
と言う訳で・・・マサキのターン!
「大丈夫!一つの席に二人で座れば四人でも楽しめるよ!」
あ、予想以上のアホ加減に女の子もメンドクサって感じの目になってる。
俺が逆の立場なら間違いなく言葉にしてるね。めんどくさって。
「おい、ショウも何か言えよ」
俺のターン!
「心配しなくても大丈夫だよ。こいつの上に俺が座って、その子の上に君が座ればいい。」
「そうそう、キレイに男と女に分かれて・・・って気持ちわるぅっ!」
「マサキ、お前って・・・ノリツッコミすげぇ下手だったんだな」
ものすごく可哀想な気持ちになって、哀れんでしまった。
「うっせーし」
「お兄さん達さ、こんなトコでナンパしてないで芸人でも目指したら?」
軽くウケたのか、クスクス笑いながら新しい未来を提示してくれた。
なんて素晴らしい子なんだろうか!
「マサキ、今から俺たちは桂サンマだ」
「え、それってコンビ名?・・・変に混ざってる上に、そもそもそれ師匠と弟子混ぜただけじゃねぇか」
この一瞬でそこまで気付くとは、見ない間に腕をあげたもんだ。
実は本気でそっちの道を極めるつもりなんじゃないか?
「ごめん、本気で芸人お勧めするよ」
今度はかなり真剣な目で言われてしまった。
そんなにセンスいいのか俺たち。やばいな。
「ツカミはおっけーってことで、どう?四人で遊ぼうよ。なんなら場所変えても全然いいしさ」
まだイケると思ってるのか、攻めて行くマサキ。
お前が攻めるのなら俺は守らねばならない!
「いや、ダメだ。場所を変えるなんて俺が許さない。いじでもこの場所で遊ぶんだ!」
「いやいや、またイミフなキャラだしてくんなよ。少しシズカちゃんしてて」
そう言うと、反応を返してくれてた女の子と1対1で話し出した。
一人でいいから全力で落とす作戦だな。頑張れマサキ、邪魔くらいならするから。
どうやって邪魔しようか考えてると、もう一人の女の子と目が合った。
「折角遊びにきてるトコごめんな?」
マサキには聞こえないようにそっと囁く。
俺はただの暇潰しでここに居るから、他の人の楽しみを奪ってまでってのは正直なかった。
だからつまらなそうにしてるこの子には少なからず謝るべきかなと思ったわけです。
ナンパ中にこんな事言う奴が珍しいのか、じっと俺の顔をみてくる。
負けじと俺も見つめ返す。
「もういいから、そろそろ諦めてよ」
「そんなツンデレなとこも可愛いね!この後はどこに行きたい?」
マサキ、残念ながらデレがないぞデレが。今のトコその子はツンツンだ。
「ねぇヒナ、こんなの無視して行こ」
マサキの事は完全に無視して俺と目が会ってる(ヒナと呼ばれた)子の手を引いてその場を去ろうとする。
・・が、何故かヒナって子は全く動かない。
「ヒナ?どうしたの?こんなトコにいたら食べられちゃうよ」
ずいぶんな事を言われてるよ俺たち。
マサキは否定できないだろうけど、俺はそんな気ないってのに。
俺は草食系なんだから!いやうそですごめんなさい。
「ほら、行こうよ!」
「大丈夫ですよ」
俺から目を離し、強引に連れて行こうとする友達に視線を移した。
「そっちの人はともかく、この人はそんな事する人じゃないですから」
その言葉に他三名は固まる。
そしてもう一度、俺の顔に何を考えてるのか判らない目を向けてくる
「ちょっとヒナ、どうゆうこと?」
「この人・・・ショウ君は知ってる人ですから」
その言葉に一番疑問を抱いたのは他の誰でもなく、俺だった。