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俺(私)の小さな世界  作者: アリスと蔵と
2/5

俺って飽き性?

「うーっす」


ちょっとオシャレな看板を横目に店内に突入。

白を基調に作られているのか、明るくて少し目が痛い。

入ってすぐに受付兼レジがある。

その奥の左手にはシャンプー台が二つ。

右手には大きめの鏡と椅子のセットが三つ。

所謂ヘアーサロンつートコなんだけど……誰も居ない。

もし俺が客だったら(客なんだけど)帰ってるぞ。

とりあえず適当に中央の椅子に座って暇をつぶす。

どうせ上で寝てるんだろうなぁ。

あー…ほんと暇だ。なんか楽しいことないかな。

毎日必死に考えてるんだけど、中々見つからない。

仕事も毎月あるにはあるが、好きでやってるわけじゃないしな。

そろそろやりたいコトってのを見つけないと…。


「すいませーん!」


「うわっ」


目の前に人が来てるのに気付けなかった。

こいつ、もしや忍者か?

気配を殺す術を身に付けてやがる。


「おぬし、どこの流派じゃ?」


「へっ!?何がですか?」


かなり驚いてるな。

いきなり見抜かれて動揺しているのだろう。


「隠さずとも良い。俺に気配を悟られずにココまで近付くなど、そうそう出来るコトではないぞ」


むっ。何故か笑われている。

動揺し過ぎて壊れてしまったのか?


「何言ってるんですか。あんな半分寝てるような状態なら、誰だって近付けますよ?」


変な人ですねーっ。と最後に付け加えられてしまった。


「さて、冗談は置いといて。アンタ誰?」


ビシィっと音が鳴りそうなイキオイで指をさしてやる。

……無言で指を曲げられた。

尚も指をさす。…曲げられる。指をさす。曲げられる。指を…


「人を指さしちゃダメって教わらなかったんですかっ!?」


あ、結構イラついたみたい。

目つきがきつくなってる。


「んで、アンタ何もんだよ?」


これ以上遊ぶと本気で怒りそうだ。

ってゆーかそんなに睨むなよ!こえーから。


「どうしてもっと柔らかい話し方出来ないんですか?」


どうやら口の利き方に気をつけろってコトらしい。


「何様だ!」


あ……間違って声に出しちまった。

まぁいっか。


「アナタこそ何様なんですかっ!お客様は神様って教わらなかったんですか!?」


微妙に古くないかソレ。

つうか、もしかしてコイツ勘違いしてないか?


「あぁ、すいませんねぇ。ちょっと寝ぼけてたみたいで、失礼しました」


ちょっと遊ぶことにした。

寝ぼけてるってレベルじゃなかったよ…とか呟いてる。

面と向かって言えばいいのに、さっき怒鳴ったおかげでちょっと落ち着いたのか?


「それで神様。今日はどうなさいますか?」


皮肉った【神様】発言にイラっとしたのか、強めに睨んできた。

勿論こっちは営業スマイル。

どんなに睨まれてもニコニコ。


「まぁいいです。今日はカラーをお願いしたいんですけど……他にスタイリストさん居ないんですか?」


あんたはヤダ的な気持ちを視線で表してくれちゃってます。


「俺一人ですけど?」


そんなに落ち込むなら他の店行けばいいのにってくらいテンション下がってるよ。


「大丈夫!何とかなるよ」


「そのセリフで余計不安になりましたよ……。他のサロンに行こうかな」


それは許しません。

せっかくの暇潰しを逃がす私ではありませんことよ。


「神様!アナタはとても運がイイ。今日はなんと、カラーが半額のサービスデーなんです」


勿論そんなサービスは存在しない。

どうせやんのも俺だし、適当でいいだろ。

つーか、最初の目的を忘れた……。

まぁいいか。


「半額っ!?・・・そこまで御願いするならやってもらおうかな」


切り替えはやっ!やはり金は強いな。

金を制す者は天下を制す、だっけ?

違う気もするけど、まいっか。


「んじゃ神様。とりあえずシャンプーな」


こっちゃこいって感じでシャンプー台に座らせておく。

意外と素直に従うんでちょっとツマラナイ。

…………。


「ひあっ!?」


「…どうかした?」


「い、今耳に息が…」


「あぁ・・・これだけ近くに居たら仕方ない。シャンプー中は我慢してくれ」


本当に仕方ないと思ったのか、声を出さないように必死で我慢している。

当然ワザと耳を狙って息を吹き掛けているんだけど、これがまた予想以上にイイ反応で笑いを堪えるのに必死な俺。


「ぁっ・・・ゃぁ・・・・」


心なしか声が艶っぽくなってきたような・・・。それに顔も大分赤くなっているし。

結構感じやすい子なんだな。


「わりぃ神様。大分濡れてきちったな」


「・・・え!?」


「って、おいおい。水が飛び散るから!」


いきなり起き上がったと思ったら、髪を振り回し始めた。

これ、わざとか?


「あ、あなたが変な事いうからでしょっ!?


「変な事ってなんだ・・・?」


「だ、だからその・・・あれ・・・」


なんかモジモジし始めた。

って、ものすごく今更だけど・・・こいつ可愛いのな。

俺の仕事仲間より可愛いかもしれない。

髪の毛はヒジョ~~に残念な事になってるけど、顔だけ見ればかなり点数高いかも。


「俺はタダ、顔に乗せてたタオルをかなり濡らしちゃったなと思っただけなんだけど?」


「そっち!?」


「そっちってどっちだよ!」


もちろん違うほうに聞こえるように言ったから、ある意味彼女は正解なんだけどね。


「えと、あの・・・・なるべく濡らさないように気をつけてください・・・。」


なんかもう、ただのシャンプーなのに白髪が増えてるんじゃってくらい燃え尽きてる。

根性が足りないなぁ。


「了解。とりあえずサッサと洗うから寝ろよ」


「ああもう。めちゃくちゃすぎだよこの人・・・。」


シャンプーくらいは適当にやってもある程度大丈夫だけど、カラーどうすっかなぁ。

勝手にやったら怒られそうだけど、今更止めるのも勿体無いし。

楽しむだけ楽しめたらいいか。


「んじゃ、適当に乾かすよ」


「適当って・・・もう好きにしてください」


「ダメですよ神様。若いんだし、そんなすぐに諦めちゃ」


「口より手を動かしてくださいね」


さすがに疲れたのか、あんまり突っ掛かってこない。

少し休憩させてやるか。


「先にマッサージしてやるよ」


こうみえてマッサージはかなり得意。

資格持ってるのって良く言われるし、マッサージ上手いのって意外と得することもある。

マッサージしながら少しずつエロい方向に持ってくと、あんまり抵抗されないでヤれたりするし。

ストレートな表現が好きじゃない女とかにはマッサージをするってのを口実に誘うと、結構乗っかってきてくれたりする。

あ、ちなみに今はやんねーよ?この状況はさすがに問題アリだろ。


「なんか、すげぇ肩凝ってるけど。何の仕事してんの?」


「昔から肩凝りひどいんだ・・・。てゆーか、マッサージ上手だね」


「だろ?良く言われる。んで、仕事は?」


「仕事ってゆーか、今は大学生だよ」


確かに言われてみれば、仕事をしてるって雰囲気じゃないな。

適当にバイトしながら大学に通ってるって感じ。

別に大学生って聞いたからそう感じたわけじゃないぞ?


「大学かぁ。大学って楽しい?」


「大学行ってないんですね。楽しいと言えば楽しいけど。めんどくさい事も多いよ」


なんか微妙に違和感がある話し方だな。

どこがって言われるとハッキリわかんないけど、なーんか変な感じがする。


「サークルとかは凄く楽しいよ。皆イイ人ばっかりだし、色々構ってくれるから」


「サークルねぇ・・・。何のサークルに入ってんの?」


「実は。バンドやってるんだっ」


ちょっと恥ずかしそうに、でもそれが私の大好きな事なんだって感じの笑顔で教えてくれた。

その笑顔はとても楽しそうで、幸せそうで、眩しくて。

俺は


「あぁ、あの頭につけるやつだろ?」


いつも通りに軽口を叩く。

目を逸らしながら。


「違いますよっ。音楽の方です。確かに頭に付けるヘッドフォンもありますけど、楽器弾いたり歌ったりのアレです!」


「ソレ、上手いこと繋げたつもりなんだろうけど、全然上手くないから」


「あ、やっぱり?」


少し前まではあんなに怒っていたのに、今じゃ笑顔以外を知らないってくらい笑っている。

営業スマイルとかじゃなくて、心からの笑顔ってわかる。

本当に生きてて楽しいんだなって、俺もそんな風になりたいって。

そんな風に思わせる笑顔だった。


「そろそろマッサージ終わりな。頭乾かさないと」


「あ、はい。マッサージ気持ちよかったです」


違和感の正体はコレか。

敬語とタメ口が混ざってるんだ。

わざと使い分けてる感じでもないし、元々そうゆう人なんだろう。


「今のマッサージは別料金貰うから」


「えっ!?・・・一瞬でも感謝した私がバカだった」


「冗談だよ、ほら前向け前。ちゃんと乾かしてやっから」


彼女が落ち着けるように、髪を手に取り少しずつ丁寧に乾かしていく。

長さはミディアムくらいで、パーマをかけているのか軽くウェーブしている。

正直に言えば、こんな感じの子はそこら中にいる。いわゆる流行のってやつ。

でも、似たような髪形が多いからこそ、素材の差がはっきりと出てくるんだよな。

髪の毛は毎日手入れをしているのか、凄くキレイで。ドライヤーで水分を飛ばす度に、手からサラサラとこぼれていく。


「髪、キレイだな」


気付いたらそう呟いていた。

けれど、俺の声は彼女に届かなかったようだ。

きっと幸せな夢でもみているんだろう。


時折見せる幸せそうな寝顔を眺めつつ、もう完全に乾いた髪を撫でながら、その寝顔に見入っていた。

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