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アルターエゴ  作者: 饕餮
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第一話

 前世という存在を記憶している人間はそうはいないだろうが、中でも私のように異世界での前世の記憶を持って産まれてくる存在はさらに少ないと言っていいだろう。

 しがないサラリーマンであった私が今ベビーベッドで寝ているのは神と名乗る存在にこの異世界へ転生させられたせいだ。


 神と自称する割に随分と気さくで話しやすい存在であった。

 いろいろと無駄話を交えながら異世界についての説明を受けたのだが転生後には夢を見ていたように記憶が曖昧で大して覚えていないのが非常に残念だ。


 この世界は魔法やスキル、亜人等が存在する定番のファンタジー世界とのことで、魔物と呼ばれる存在を倒すことでレベルを上げる事ができ、レベルが上がれば強くなり老化も鈍化し寿命が伸びると良い事尽くめらしい。

 転生後に有利となるよう自分にどのような才能があるかを詳しく教えてもらったのだが、結局覚えているのは風の魔法の適性が高いことと分身というスキルが使える事位だ。

 まぁ、魔法の才能と聞いてそこが強く印象に残り他のが疎かになったのは現代日本人なら仕方ないことだろう。



 そんなこんなで転生した私だが赤子生活の中で困ったことは本能に逆らえないことだ。

 お腹が空けば泣き、排泄を行えば泣き、構って貰えなければ寂しくなって泣くという赤ん坊らしい行動を止めることができないのが一番の悩みだ。

 感情を全く制御できないとはげに恐ろしい。


 成人していた身の上でリアル赤ちゃんプレイを楽しめるほど性癖は歪んではいなかった。

 自身の心を羞恥心から守るために虚無の心で数か月を過ごし、目も発達してきて漸く周囲の人間を識別できるようになった。


 一番よく目にする女性に関しては間違いなく母親だろう。

 金髪が眩しいくらいに煌めいており、人間離れしたその美しさから当初は母親エルフ説を考えていた位である。

 耳が尖っていなかったので人間だと思われる。


 父親に関しても目にする機会のある男性は一人であることから確定と言っていいだろう。

 茶髪の似合う優男といった風体だが身体つきはがっしりとしており、その甘いマスクで今まで何人の女を泣かせてきたのだろうか。


 家族構成としては母親と父親に加えて使用人と思しき人が数人いるのが見て取れた事から、裕福な部類ではないだろうか。

 その割に服装などは幾分質素に感じるのは日本生まれの現代人の感性が原因かもしれない。

 両親の整った容姿から今世の人生に希望を見出しつつ、周囲の愛情を受けてすくすくと育つ事となった。



 子供というのは人生の中で一番成長率が高い事は良く知られているだろう、これがファンタジー世界の魔法などにも当てはまるかは分からないが寝る以外にやることが殆ど無い赤子である私は目下魔法に挑戦中である。

 因みに分身スキルについては赤子が二人になっても仕方ないので現在は見送り中だ。

 魔法と言うくらいだから魔力的なものがあるのだろうと当たりを付けて瞑想を行う。

 襲ってくる睡魔に負けること数日、自身の胸辺りに暖かい何かがあるのが感じ取れるようにはなった。


 時間だけはいくらでもあるのでこの魔力(推定)に様々なアプローチを行った。

 結果として、魔力を体の中で動かせることが出来るようにはなり、さらに非常に疲れるが体外に放出することもできるようになった。

 なお、始めて放出を行った際に体内の魔力が空になり気絶したのはファンタジー物としてはお約束なのかもしれない。

 ちょっと不便な仕様ではありませんかと暗転する視界の中で憤慨したものである。


 とはいえ、目が覚めた時に真っ青な顔をして看病する母親を前に猛省せざる負えなかった。

 後に聞いた話だがこの時私は三日間寝たきりになっていたらしく、医者に処方してもらった魔力回復薬が無ければ危うい状態だったらしい。


 魔力の対外放出は危険である判断した私は魔力を体内で操作することに重点を置いた。

 手始めに全身に魔力を循環させる訓練を行ったがこれについては然程苦労することなく数日のうちに出来るようになった。

 それからは循環スピードを早めたり、魔力を二つに分けて循環したりバリエーションを増やしていった。


 成果としては、全身に満遍なく魔力を行き渡らせた状態で魔力を循環させると身体能力の向上が見られたことだ。

 寝返りもできない私がハイハイ出来るようになるのだから大したものではなかろうか。


 落ちとしては、喜んで這い回った結果魔力切れを起こしてしまい。

 気絶して再び医者の世話になる事態に発展し、両親に大いに心配を掛ける結果となったことだろう。



 次に目を覚ましたのは二日後のことで、目を開けると同時に視界には無数の煌めく光の球体が浮かんでいた。

 それは私の体内にある魔力に良く似た感じがしていて、触ると体の中に溶け込むようにして消えた。

 手の届く範囲の光の球体を触れて溶かすと体内の魔力が気持ち増えた気がするので、これはおそらく魔力の元となるものではないだろうか。


 二度にわたって魔力欠乏により死にかけたおかげなのか今まで見えていなかったものが見えるようになった。

 新たな発見にご満悦の私を他所に両親は大層心配して医者に何か病気ではないかと詰め寄ったようだが、結局原因不明とされた。

 魔力が体内から抜ける新たな病気かもしれないと言われた母親は卒倒しかけていたほどだ。

 いや、マジごめんなさい。

 

 

 大人になるにつれて体感時間は早くなるというが精神年齢が大人だからなのか赤子の身の上にしてはあっという間に時は半年ほど過ぎた。

 家族や使用人の話を聞きながら日々を過ごしているうちに当初はチンプンカンプンだった言葉もある程度は分かるようになってきていた。

 若く柔軟な脳味噌に只々感謝である。

 その頃には私も魔力による強化なしでハイハイ出来るようになり、情報収集を兼ねて屋敷内を這い回っていた。

 

「お坊ちゃま、また冒険ですか?目を離すと直ぐにいなくなるんですから。奥様も心配されていますよ。」


 しまった。

 また、この使用人に見つかってしまった。


 私の情報収集を何度も邪魔してくれるこの使用人は名前をウルペといい、頭に狐耳、お尻に尻尾という出で立ちの狐の獣人だ。

 その愛らしい耳と尻尾は転生当初には大変驚いたものである。

 因みに、まだ10台前半な見た目からこの世界に労基法が存在しないことを確信する。


 前世とは違う始めて目にする明確なファンタジー要素に私は興奮した。

 私の性癖と合っていますね。

 その獣人の耳と尻尾に興味津々となった私は何とか触れせて貰おうと躍起になっていたのが懐かしい。


 後に触れせて貰ったが、それはそれは柔らかくふさふさで暖かく、お日様の良い匂いのする極上の一品であった。

 母親と触れ合うよりも狐娘の耳と尻尾を触る方が喜ぶ私を見て当時の母親は随分と落ち込んでいたのは余談である。

 

「ほーら、逃げないでくださいね。はい、尻尾触らせてあげますから大人しくしてください。お昼寝の時間ですよ。」


 敢え無く尻尾の虜となった私はベッドに連行されるのであった。ウルペの尻尾を抱き枕にしながらする昼寝は最高だぜ!



 行動範囲を広げて、言葉も分かるようになった私は多くの情報を得ることが出来た。

 まず、私が転生したこの家は貴族に属するものらしい。

 トニルス男爵家と呼ばれる新興貴族で祖父の代に冒険者で名を馳せて爵位を与えられたのが始まりだそうだ。

 雷魔法が得意な家系で先祖代々強力な雷魔法が使える者が多かったようだ。


 父はパーター ・トルニスといい、戦争で結構な戦果を挙げたらしくトニルスの閃光という二つ名で国内ではそこそこ有名らしい。

 私には大層期待しているらしく将来は立派な雷魔法使いになるんだぞと良く抱き上げられる。

 すまんなパッパ、適性は風魔法なんだ。


 母はメドミナ・トルニス。金髪碧眼の美人で小柄なのに胸はそこそこ大きい。

元は伯爵家の令嬢らしく一目ぼれした父が戦争での活躍をたてに彼女との結婚を王に直訴したのが馴れ初めらしい。


 この男爵家に産まれた嫡男が私ルーグリオーサ・トルニス。愛称はルーグかリオである。髪は父親と同様の茶髪で瞳は母親の碧眼を受け継いでいる。赤子という立場を存分に利用してウルペの耳と尻尾を愛でるのと魔力操作の練習が日課だ。



 五歳になると庭位なら外でも一人で遊ぶ許可が出たので本格的に魔法やスキルについて挑戦を行う。

 恥ずかしげもなく魔法名を唱えたりすれどもうんともすんとも言わない。

 今のところ魔力放出に何かヒントがあるのではないかと睨んでいる。

 体内の魔力も昔より大分増えたので現在いろいろと実験中だ。


 魔力といえば、魔力の元と思しき光の球体は言葉を話せるようになってから母親に魔法について聞きまくっていたところ、マナと呼ばれる存在らしい。

 聞いた話を要約すると、この世界の生き物は大気に満ちるマナを取り込み個人の魔力であるオドに変換してから魔法を使っているらしい。

 マナもオドも両方同じ魔力ではあるが、一般的に魔力といえばオドの事で、マナはそのままにマナと呼んでいるらしい。


 確かにマナを取り込むとじわじわ魔力が回復する。

 マナをオドに変換する必要があるので、魔力の即時回復とは行かないが魔力放出で魔力が減ったら庭を走り回ってマナを取り込み魔力回復に利用している。

 魔力放出については空にならないように少しずつ放出することを覚え、体外に放出した後の魔力も操れるようになってきている。


 マナについていくつか実験を行った結果として放出した魔力でマナに干渉することで自身の魔力のように扱えることが分かった。

 自身の純粋な魔力と区別するためこれをマナ魔力と呼ぶことにする。

 マナ魔力を体内に取り込むとそのまま自分の魔力にはならないが含まれているマナがオドに変換されるのが通常のマナより早く量も多いので魔力回復にとても重宝している。

 マナを集めるのに時間が掛かるのと集中が切れて私の制御から外れると霧散して集めなおさなければいけないのが難点ではあるが…。


 そこで、私は分身スキルについて思い出した。

 正直すっかり忘れていたが、使えればマナを効率的に集めることができるだろう。

 使い方がわからなかったので、心の中で強く分身しろと念じると目の前に自分と同じ存在が現れた。


 スキルとはそういう物なのか一度使うと使い方が自然と分かる。

 分身は話せるし、私と同様に自分で考えて動ける。

 さらに分身の見聞きしたことを即座に知ることや長距離を離れていても意思疎通が可能であり、さらに自分で遠隔操作もできる。

 斥候役としてピッタリな性能である。


 一番すごいところは分身の経験が本体に還元されることだ。

 分身に本を読ませれば知識を得られるし、戦闘させれば戦闘経験が積める。

 但し、筋トレしても本体は鍛えられたりはしないようだ。

 まぁ、それでも結構な強スキルではないだろうか。


 今は一体だけしか出せないが使っていればそのうちもっと増やせる感じがするのもポイント高い。

 試しに分身にマナを捉えてマナ魔力を集めろと命じてみるとちゃんとやってくれている。

 自分と同じように考えられるが、不平不満は覚えないようで、忠実に命令をこなしてくれる。

 面倒事や危険を伴う実験は全部分身に任せよう。(ゲス顔)


 魔法が使えるようになったのはそれから約一か月後だ。

 前から魔法には体外に放出した魔力を用いるのではないかと思っていたので実験していたところ、その魔力はいきなり風に変わっり周囲を凪ぐそよ風となった。

 一度できた後はコツを掴んだのか魔力を風に変換できるようになった。

 最初の自前の魔力では扇風機の強風を吹かせる程度だったが、慣れてきてマナ魔力を使うようになると台風位の暴風を一瞬だが吹かせる事が出来た。

 風を集中させれば庭の木の枝位は切れる風の刃も作り出せた。

 漸く魔法を使えるようになったと感無量だった。

 なお、切り裂かれた木に強風で荒れた庭の様相に魔物の襲撃にでもあったのかと、しばらく庭に出ることが出来なくなったの完全に誤算である。



 魔法が使えるようになったので隠れて練習するには庭では少し手狭になった。

 そこで、分身を遠隔操作して庭から抜け出し、家の直ぐ近くの森に移ることにした。

 森には怖い魔物がいるから決して近寄ってはいけないと母親からは注意を受けていたが、分身体なら死なないし、体力こそ私に依存するが食事と睡眠は必要はない。

 まさに、レベル上げに持ってこいだ。

 森の探索は五歳には本来厳しいが、魔力で身体強化すれば問題ない。マナを取り込めば魔力が空にならないので途中休憩すれば時間は掛かるがどこまでだって行ける。


 そんなこんなで森に到着し、探索していると草むらから何かが出てきた。

 緑の肌に醜悪な面構えからしてファンタジーでお馴染みの雑魚キャラ、ゴブリンだろう。

 一瞬虚を突かれたがある程度覚悟はしていた。

 用意していたマナ魔力を風に変換して出会い頭に風の刃をお見舞いする。


 ゴブリンは胸が切り裂かれ、悲鳴を上げながら倒れこみのたうち回った。

 結構スプラッタな光景に呆然としていると後ろから気配。

 慌てて振り返ると倒したゴブリンより二回りほど大きいゴブリンがこちらに棍棒を振り下ろすところだった。

 視界はあっという間に赤く染まった。

 

 次の瞬間には本体に意識が戻っていた。

 荒くなる呼吸を整えながら分身がやられたことを悟る。

 バックスタブは卑怯じゃない?

 男なら正々堂々勝負しろよ。

 性別わかんないけど…。


 やられはしたが充分に戦えると判断してリベンジマッチを敢行する。

 先程のゴブリンを見つけると俺の倒したゴブリンを食べていた。

 共食いまでするのかと戦慄しながらも今度はこっちが不意打ちを決めて勝利した。


 注意深くゴブリンの死を確認していると草むらを掻き分ける音が聞こえてくる。

 ゴブリンでのレベル上げ上等とマナ魔力を準備して待ち構えた私の前に出てきたのは20体程のゴブリン集団。

 …ちょっと多くない?


 力の限り応戦したが3体を倒したところでマナ魔力が切れてゴブリンどもにリンチを喰らい無事本体に意識が戻ることになった。

 数は力だわ。


 本体に意識が戻る。

 肉体的には元気なのだが精神的に少ししんどい。

 戦いは精神を摩耗するというのは本当らしい。


 なので、分身に任せることにする。

 私は庭で魔力操作の訓練。

 分身にはゴブリン集団に特攻を行ってもらう

 分身を送り出すこと8回、ゴブリン集団の殲滅に成功する。

 本日の戦果としてはゴブリン23体となった。

 初日にしては上々だろう。


 心地よい疲労とともに庭から帰宅。

 癒しを求めて掃除中のウルペの尻尾に飛びついたのだった。

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