名槍氷光三閃
おばさんはおじさんの背中を優しくさすると、なだめるように話しかける。
「ほらアンタ、これでわかったろう。どっちもあんたが考えてるような娘じゃないんだよ」
「……」
「だから最初っからどっちがどっちかなんてわかるわけないんだ」
「い、いいや……本物のウノがいるはずだ!どっちかがちゃんとしたウノで、どっちかは悪いやつだ!」
「あんたの言うちゃんとしたウノってなんなのさ?そんなもん最初っから一人もいないんだよ」
「うぅう……」
おじさんはとうとう頭を抱えて込んでしまった。
それでもシスターさんの笑顔は相変わらず太陽のようにまぶしい。
あんたのせいでおじさんがああなったんだよ、と思わなくもないが何もせず突っ立ってるだけの自分が偉そうなことを言えるはずもない。
「いいんですよ~お二人ともぉ!正直に言ってくださいな!だってご家族なんですから!」
シスターさんはウノさんたちの肩を抱いて励ますように言う。
「……ねえ?お二人が本当に好きなものは何?聞かせていただいてもいいですか?」
「えっ!」
「あの……その……」
二人は何かを言いかけてそのまま黙り込んでしまう。
その様子にシスターさんは優しい眼差しを向けている。まるで巣から飛び立たんとするヒナたちを見つめる親鳥のようだ。
「うふふ、大丈夫ですよ~!もうばああっと話しちゃってがああっと仲良くなっちゃってくださいなー!」
「……」
「……」
二人は顔を見合わせると、意を決したように口を開いた。
「……私は」
「……本を読むことが好きです」
「素敵な趣味をお持ちですね~!どんな本なのですか~?」
「「雪の女王!」」
シスターさんの質問にウノさんたちは同時に声を弾ませる。
するとおばさんがバツが悪そうに口を挟んできた。
「ちょっと待った……そんなもん買ってやった覚えはないよ。どこで手に入れたんだ?」
「えっ、お母さんが暖炉の前に積んでたやつ」
「何か燃えそうだったから避難させたんだけど……」
「ああ、あれね……薪の代りにしようとしてたんだけど、面白かったのかい」
おばさんが思い出したように言う。
どうやら燃やして暖を取るためだったらしい。
「うん!!」
「面白かったよ!」
シスターさんがにこやかに口を開く。
「ウノさんウノさん、雪の女王で一番好きな登場人物は誰ですか?」
「う~ん、私が特に好きなのは……」
「そうですね……私は……」
「「ベンチスカ!!」」
二人の声が重なるとシスターさんの顔がパッと明るくなった。
「あーわかりますわかりますう!あのとっても強いのに惚れっぽい感じがたまりませんよねえ~!」
「私もそう思いますー!」
「シスター様も読んでたんですね!」
そんなやり取りをしているうちにウノさんたちの会話はどんどん盛り上がっていく。
「あ、あのー……タッシャさん、シスターさんが好きだっていうベンチスカってどういう人物なんですか?」
「え……いや、ああ……あまり知らないのだが、確か、主人公をつけ狙う女魔の一人だったはず。それで……あーベンチスカは氷の槍を持っていて……」
「なるほど……?」
「うーん、おっとそうだ。ベンチスカは彼女の主人である氷鬼という魔王の命令で、主人公と接触を図るエピソードがあるのだ」
「はい」
タッシャさんの言葉がテンポどんどん早くなっていく。
「氷鬼が作り出した罠に主人公を陥れるため、村娘へと姿を変えるベンチスカ。だが主人公はベンチスカを氷鬼の送り出した刺客だとすぐに見破ってしまうのだ。ベンチスカ、絶体絶命の危機!しかし、剣を収めた主人公は氷鬼の元に向かうとベンチスカに告げる!罠だと知りながらどうしてと問い掛けるベンチスカに主人公は答える。氷鬼への憎しみを語った時に見せたあなたの涙、そこには嘘がないと思ったからと……それが不思議な恋の始まりだった……」
「お、おお……あ、ありがとうございます……」
やはり根っこが作家なのだろうか。タッシャさんの語りは普段とは比べ物にならないほど、熱をはらんだものだった。




