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壊れゆく父

「うーん、タッシャさん、どうしましょう……お二人がこのままでは手がかりが掴めないですね」


私が困った顔をして呼び掛けると、タッシャさんは少し考え込んでから口を開いた。


「ナヅキくん、君はどう思う?私には同じ人間がこの場に二人いるようにしか思えないんだ。……悪霊が顔や声を真似ているだとか、そんな陳腐なレベルではなく」


「……ドッペルゲンガーの仕業ではないかもしれないということですか?」


「ああ……神のいたずらか何かで、朝のウノさんと夜のウノさんが出会ってしまったような……」

「う~ん……でも記憶に関してはどうなんでしょう?ドッペルゲンガーは記憶までは真似できないとのことでしたが?」


「そうだったな。私は目の前の出来事に圧倒され、冷静さを欠いていたようだ。とりあえずその点についてご両親に協力を仰いでみることにしよう」


私たち二人が話をまとめていると、シスターさんが手を挙げる。


事前に立てた計画が何も進んでいないことに流石のシスターさんでも気づいたようだ。


「はいはい!おばさま!質問よろしいでしょうか!」


「……はあ?なんだあんたら、まだいたのかい……それで?何が聞きたいって?」


おばさんはシスターさんをギロリと睨む。

しかしシスターさんは相変わらずニッコニコでまったく動じる様子がない。


「あのですねえ!おばさまから見て、ウノさんはどういったお子さまなのでしょうか!もしよろしければお聞かせ願えませんか?」


「……ああん?そりゃあまあ……」


おばさんは当たり前のように答える。


「働き者だよ。家も手伝ってくれるし、よく出来た娘だねえ……」


おばさんの言葉にウノさんたちは互いに顔を突き合わせる。


「「マジで言ってんの!?」」


「やかましい!どっちも私の娘なんだ!真面目に働いてりゃあ、追い出したりなんかしないよ!」


「か、母さん……」

「お母さん……」


ウノさんたちはおばさんの言葉にすっかり感じ入っている。

この人は立派な母親のようだ。しかしここで納得しないのが、父親であるおじさんだった。


「だからあ!勝手に決めるんじゃない!こっちの話も聞けえ!悪魔なんか家に置いておけるわけないだろ!」


「じゃあどうすんだ?片方をどこかにやるのか?そんな責任の取りようのないこと私は絶対にイヤだね!だったらこのまま野良仕事でもなんでもドレイのようにこき使ってやったらいいじゃないか!」


「お、お母さん!こき使うってどういうこと!?」

「私、野良仕事なんか絶対やりたくない!」


「ああん?!生意気言ってんじゃないよ!女はねえ……いつかはその手を泥に染め、藁にまみれるものなんだよこの世間知らず!口答えするなら二人とも追い出すよ!」


「えー!藁なんてやだよ!虫とかたくさんついてそうじゃん!」

「泥だって汚いし、気持ち悪いし……!私そんな生活したくないよ!」


「そうだ!ボイコットしようよボイコット!私たち二人でボイコットしよ!」


「「待遇改善!給料あげろ!定時にあがらせろ!休ませろ~!」」


ウノさんたちのシュプレヒコールにおじさんの顔色は蒼白になっていく。


「う、うう……ウノが……私のウノが……!悪魔のせいでどんどんおかしくなっていく……!」


二人のウノさんは団体行動を通じて、何となくだが息があってきたようだ。


この調子でいけばなんとかなりそうな気がするが……ドッペルゲンガーを巡るおじさんと家族の亀裂は深まったように思える。


「おじさま!おじさま!娘さんのことでちょっとお願いしてもよろしいでしょうか!」


シスターさんは何か閃いたように、今度はおじさんに話を振る。


「え?は、はあ……」

「はい!実はですねえ、ごにょごにょごにょ……」


「うわはは!く、くすぐったいですよ……おっ、おお?……な、なるほど!そ、その手があったか!」


シスターからの耳打ちを聞いたおじさんはパッと顔を明るくすると、慌てて部屋を飛び出していった。


そして何か探し回るような騒がしい足音がしたかと思うと、またドタバタと大きな足音を立てて戻ってきた。

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