Pスぺ先輩と帰りたいを打ちたい
私は席に着くなり、とりあえず一万円札を投入した。
貸玉ボタンを押すと、玉がじゃらじゃらと出てくる。
ハンドルを握る。右に回すと、玉が勢いよく弾きとんだ。
「左打ちをしてくれ」
慣れないことなので力んでしまったようだ。
スぺ先輩に叱られてしまった。
少し弱めてまわすと、左側の寄り釘を落ちていく。
風車を回して道釘をバウンドしながら進む。
最初はなかなかスタートチャッカーに入ってくれない。
右手でハンドルを握ったまま左手で音のボリュームを調整する。
そうこうしていると、効果音と共に画面の数字が回り出した。
玉が入ったようだ。
不思議なもので、一つ入ると続く。
保留はスぺ先輩の眼鏡がモチーフのようだ。
そう簡単に大当たりが出るものでもない。
それにこれは遊戯だ。楽しむために遊ぶものだ。それ以上のものではない。
保留が移動して次の回転が始まる。
てくてくとくりくりまるが歩いている。かわいい演出だ。
次々と回転していく数字。
左の数字が、スぺ先輩が眼鏡をくいっと上げている“7”が出た。
そして右の数字も同じく“7”となりリーチ。
最後の真ん中に“7”がくれば大当たりだ。
頑張れと願うが、敢え無く通り過ぎ、“8”だった。
そう甘くないか、と思った時だった。
「これからだ!」
スぺ先輩の声が響き、“×2”となり、同じリーチが継続された。
保留の眼鏡がくりくりまるに変わっている。これは期待できるかもしれない。
しかしまた真ん中の数字は“7”を通り越し“8”で止まった。
「これからだ!」
待ってましたスぺ先輩!
真ん中の数字が再び回転をはじめ“×3”となり、リーチの継続。
そして画面が暗くなった。
「せ、先輩……」
小花ちゃんの声と共に画面が明るくなる。
下校のシーンだ。
「どうした?」
小花ちゃんの呼びかけに振り返る先輩。
「え、あ、いや、その……」
「なんだ?」
ドクン……。
ドクン……。
ドクン……。
小花ちゃんの心臓音だろうか。
鼓動の演出がある。
「な、なんでもありません」
「そうか」
小花ちゃんの返事をきくと、スぺ先輩は颯爽と歩き去ってしまった。
そして画面が最初に戻る。
数字が“787”で止まっている。
残念。
アツい演出だったが、大当たりとはならなかった。
こうやって演出を楽しむのが大事なのだ。
だからといって、のめり込むのはよくない。
楽しくドキドキを味わうのだ。
さてさて、次なる演出が始まる。
「なんかあるんじゃない?」
小花ちゃんに声をかけるみーちゃんがひょいと現れ、どこかを指さしている。
「ん?」
みーちゃんの指す方を振り返る小花ちゃん。
そこには人影があり、ボタンを押せと表示がされている。
私は機種に設置されているボタンをポチッと押した。
「やあ、金井さん」
現れたのは立家君だった。
画面は数字に戻り。
外れてしまった。
打っている最中は曲を選択できる。
主題歌やキャラソングなんかも聴くことができる。
なかなかリーチにならないけれど懐かしのシーンが再現されている。
「小花さん」
「なんですか先輩?」
「実は――」
電車が通過し、スぺ先輩が何を言っているかわからなかった。
こんな感じで演出でいろいろと思い出せる。
やり過ぎはよくないなと思いつつもお金を投入。
貸玉ボタンを押して、打ち続ける。
「砂川君! 勝負よ!」
ケレン先輩が乱入する演出が始まった。
字が赤かったので、期待できそうだ。
原作では合計点での勝負だったけれど、この勝負では一科目も負けてはいけないことになっている。
しかも勝負科目は国数英の三科目。
まずは国語。
「せーの!」
小花ちゃんの声が響くと、ボタンを押せと表示される。
ポチッと押すと、点数が出た。
ケレン先輩が“97”で、スぺ先輩が“98”。
「くぅー! 次よ!」
可愛く唸るケレン先輩。
しかし眺めているわけにはいかない。パチンコはスピーディーなのだ。
次も負けることはできない。
「せーの!」
小花ちゃんの声に合わせてすぐさまボタンを押す。
ケレン先輩が“97”で、スぺ先輩が“99”。
「くぅー! 次よ!」
二回連続で勝っている。
次が決まればアツいリーチかもしれない。
「せーの!」
三回やれば慣れたものだ。間髪入れずにボタンを押す。
ケレン先輩が“98”で、スぺ先輩が“99”。
キュイキュイキュイーーーーーーーーン!!!!!
台がまぶしく光って大きな音を出す。
「負けたわ」
髪をふぁさっとするとケレン先輩が去っていった。
そして画面は数字になり、両サイドに“7”が並んだ。
「リーチだ!」
スぺ先輩が眼鏡をくいっと上げて言った。
しかしそう簡単には大当たり位ならないのがパチンコだ。
たくさんの演出を乗り越えた先に、大当たりが待っている。
「なんかあるんじゃない?」
またもやみーちゃん乱入。
「ん?」
さっきもやったので覚えている。すぐさまボタンを押す。
振り返った先の影は“発展”の文字。
そしてまたもや画面が暗くなった。反射して自分の顔が見える。少し惨めな気持ちになる。
「せ、先輩……」
小花ちゃんの声と共に画面が明るくなる。
再び下校のシーンだ。
「どうした?」
小花ちゃんの呼びかけに振り返る先輩。
「え、あ、いや、その……」
「なんだ?」
ドクン……。
ドクン……。
ドクン……。
小花ちゃんの心臓音だと思っていたけれど、もしかしたら自分の鼓動なのかもしれないとも思う。
「い、一緒に帰りましょう!」
小花ちゃんが恥ずかしそうに言った。
「そうだな。そうしよう」
先輩が答える。
キュイキュイキュイーーーーーーーーン!!!!!
大きな音と、台の上の方にあった“スぺ先輩と帰りたい”というタイトルが画面まで落ちてきてピカピカと光った。
「「「スぺウルボーナス! 突入!」」」
スぺ先輩と小花ちゃん、そしてケレン先輩が登場した。
「右打ちしてね」
小花ちゃんの言うとおりに、ハンドルを右いっぱいに回す。
思い出のシーンと共にテーマソングが流れる。
ラウンド10で終了し、ここからは60回転までの時短のスぺメソッドタイムに突入だ。
ウルプログラムだった場合は30回転までの時短となる。
今日は運が良かった。
アツい演出も見れたし、なにより大当たりが出た。
家に帰ったら『スぺ先輩と帰りたい』の続きでも書こうという気持ちになった。