最高の誕生日 3
2話更新してます!
まず私の前にやってきたのはヤナで、渡された封筒の中には簡単な地図のような、何かの場所を表す紙が入っている。
「お誕生日おめでとうございます。この場にはないのですが、実は屋敷の裏庭にお嬢様専用の畑を作りました」
「ええっ」
なんとヤナは庭師達と共に、以前から欲しいと口にしていた私専用の畑を侯爵邸の敷地内に作ってくれたそうだ。この地図はその場所を示しているらしい。
憧れの家庭菜園ができると思うと、ワクワクが止まらなくなる。魔草など、自分で育ててみたいものも数えきれないほどあった。
「あ、ありがとう……すごく嬉しい! 帰った後、早速何を植えるか相談させて」
「それについて悩む必要はないかと」
「…………?」
どういう意味だろうと思っているうちにやってきたのは、マリアベルとアルだった。
年の近い二人はいつの間にか仲良くなったらしく、マリアベルが躊躇う様子のアルの背中を押している。
「お先にどうぞ」
「おい、押すなって! ……ん」
アルがムッとした顔で差し出してくれた小箱の中では、小さな赤い宝石が二つ輝いている。ピアスかと思ったものの、対になっている小型のブローチだという。
「魔力を流すと互いの位置が分かる魔道具だ。ある程度近くにいる必要はあるが」
「そんな貴重なもの、もらっていいの……?」
「ああ、俺も忙しいからな。いつまでもお前の世話をしてられないんだ」
腕を組んで「ふん」と顔を逸らしたアルに、笑みがこぼれる。
「ありがとう、アル! これがあれば安心だわ、大事に使わせてもらうね」
よしよしと頭を撫でると「子ども扱いすんな!」と怒られてしまった。私の身を案じて選んでくれたのだろうと、心が温かくなる。
「お姉様、改めてお誕生日おめでとうございます! 大好きです」
次にマリアベルが渡してくれた大きな箱には、お揃いのドレスが入っているそうだ。
姉妹のように色違いのお揃いのドレスを着たいという会話を覚えていて、用意してくれたという。
「素敵なアクセサリーだってもらっていたのに……ありがとう」
「私、お姉様に出会えて本当に幸せなんです。これからもずっと側にいてください」
「もちろん、私からもお願いしたいわ。大好きよ」
ぎゅっと抱きしめると嬉しそうに笑ってくれるマリアベルが愛おしすぎて、涙腺が少し緩んでしまった。
二人と入れ替わるようにしてやってきたのは、エヴァンだった。
「俺からはこちらを。おめでとうございます」
いつも通りのエヴァンの手には、びっしりと文字が書かれた一枚の紙がある。
受け取ってそこに書いてある文字にさっと目を通した私は、首を傾げた。
「これって、珍しい魔草のリスト?」
「はい。以前図鑑を読みながら、お嬢様が欲しいと言っていたものです」
魔草は種類によって、売っていないほど貴重なものが数多くある。
そしてここに書かれているのは、山奥だったり崖だったり魔物が多い森の奥だったりと、とても採りにはいけない憧れの魔草達だった。
「それ、全部採ってきました。根っこから」
「ええっ」
「お嬢様用の畑にも使えるはずなので、ぜひ。だから今ここにはありません」
「…………」
あまりのことに、言葉に詰まってしまう。エヴァンはさらっと言ってのけたけれど、多分とんでもなく危険で大変なことだったに違いない。
「そ、そもそも、いつも私の護衛をしているのに、いつ採りに行ったの……?」
「夜です、護衛や魔物討伐の仕事の後とか。俺は多少寝なくてもなんとかなるので」
あっさりと言ってのけたエヴァンによって、私は驚きや感動、心配で情緒が大変なことになっていた。そんなの全く寝ていないようなものだろう。
誕生日だからといってたくさんの無理をしてくれたことに、胸を打たれていた。
「エ、エヴァン……! 本当にありがとう。嬉しすぎて上手く言語化できないんだけど、全て大切に育てるわ」
「いえ、お嬢様には世話になっていますから。俺も一応男ですし、身に着けるものや服だと公爵様に殺されてしまいそうなので、かなり悩んだんですよ」
私のことを色々と考えてくれていて、腹立たしい時もあるけれど、大好きなエヴァンを大切にしようと強く思った。
そしてお願いだからもう無理はしないよう言うと、エヴァンは「はい、多分」と分かっているのか怪しい返事をしてくれる。
絶対に枯らさず、どれも大切に栽培しようと固く心に誓い、もう一度お礼を告げた。
「ほら、お前も渡すといい」
「ぴ……」
エヴァンに声をかけられたハニワちゃんは、先日マリアベルにもらったふりふりのドレスを着ており、きちんと正装してきてくれている。かわいすぎて苦しい。
そんなハニワちゃんは、くるくると丸められ赤いリボンで結ばれた紙を抱えている。
少し躊躇った様子でおずおずとこちらへやってきて、私に差し出してくれた。
「もしかしてプレゼント? 見てみてもいい?」
「ぷ」
受け取ってそっとリボンを解き、紙を開いていく。
そしてそこに描かれていたものを見た瞬間、目の奥がじんと熱くなった。