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最高の誕生日 1

すみませんタイトル変更しました;;



 ゼイン様は一際高い山を指差し、懐かしげに目を細める。


「幼い頃、母が頻繁に口にしていた『悪いことをする子どもは、あの山に隠れている巨人に食べられる』という話を信じていて、よく泣いていたんだ」

「ゼイン様がですか?」

「ああ。母の言葉に合わせて、ドア越しに父が足音を響かせるから、本当に俺を食べにきたのかと思っていた」

「ふふ、とてもかわいらしいです。きっと見た目も愛らしかったんでしょうね」


 今はこんなにも落ち着いた大人の男性であるゼイン様にも、そんなかわいらしい子ども時代があったのだと思うと、きゅんとしてしまう。


 ぜひ見てみたかったと話せば、ゼイン様は「絶対に嫌だ」と照れたように笑った。


 やがてお昼過ぎになり、美しい白馬を近くの木に繋いだ後、その隣の大きくて葉が生い茂った木の下に敷布を広げた。


 木の下は日陰になっていて、落ち着いて食事ができそうだ。私は屋敷から持ってきていたバスケットを取り出すと、ゼイン様と並んで腰を下ろした。


「とても美味しそうだ」

「本当ですか? 良かったです!」


 サンドイッチやバスケットを開けた途端、ゼイン様はそう言ってくれて、思わず両手を組んで喜ぶ。するとゼイン様は、不思議そうな顔をした。


「なぜ君が喜ぶんだ?」

「実はこの料理、全て私が作ったんです」


 今朝は頑張って三時半に起きて、事前に借りるのを約束していた厨房で、せっせと一人でバスケットいっぱいの料理を作ってきた。


 余った分は屋敷に残るみんなのお昼ご飯にしてほしいと伝え、置いてきてある。ゼイン様には内緒にしていたため、心底驚いた様子だった。


「俺は嬉しいが、これほどのものを作るのは大変だっただろう。君の誕生日だというのに、申し訳なくなる」

「いえ! 私がただ、ゼイン様に手料理を食べていただきたかったんです」


 こうして作ってきた料理を外で好きな男性に振るまうことにも、憧れを抱いていた。


 気にしないでほしいと伝え、二人で早速サンドイッチや食べやすい料理を食べ始める。


「本当に美味しいよ。君の作るものが一番好きだ」

「あ、ありがとうございます……!」


 お世辞ではなく本気でそう思ってくれているようで、浮かれてしまう。


 かなりの量があったのに、ゼイン様は何度も褒めてくれながら完食してくれた。


「ご馳走様、本当においしかったよ。ありがとう。この後はどうしたい?」


 ゼイン様に尋ねられた私は「ええと……」と口籠る。


 私が何か言いたいけれど言えずにいるのを、察してくれたのだろう。


「君のしたいことを、俺もしたいんだ」


 ゼイン様はそう言ってくれて、私は勇気を出して伝えてみることにした。


「あの、実は思い描いていた理想のピクニックデートの中で、あとひとつだけやってみたいことがあるんですが……」

「俺にできることなら、いくらでも」

「で、では、膝枕をしてもいいですか?」


 おずおずと尋ねると、ゼイン様は銀色の睫毛に縁取られた両目を瞬いた。


 我ながらベタ中のベタだとは思うけれど、のどかな自然の中で膝枕をしてお昼寝をするというのは、ロマンチックな小説でよくあるシーンだろう。


 図書館にあった古めの恋愛小説が私にとってのバイブルであり憧れだったため、どうか許してほしい。


 その一方で、多忙なゼイン様に少しでも休んでもらいたいという気持ちもあった。


「分かった」


 ゼイン様は頷くと、どうすれば良いか尋ねてくれる。


 もちろん私も未経験のため、よく分からないまま試行錯誤をして、正座する私の膝の上にゼイン様が寝転ぶという構図ができあがった。


「思ったより照れるな」

「ほ、本当に……」


 ゼイン様の重みや温かさが、ダイレクトに伝わってくる。想像以上に距離も近いし、下から見上げられる体勢というのもなかなか恥ずかしい。


 それでも時間が経つにつれて少しずつ慣れてきて、肩の力が抜けていく。ふわりと心地良い風が吹き、ゼイン様は静かに目を閉じた。


「眠れそうですか?」

「これは眠るべきものなのか?」

「はい、そこまでが膝枕です!」


 正直そんなことはない気がするものの、堂々と断言すると、ゼイン様は納得してくれたようだった。


 目を閉じているゼイン様の顔を、じっと眺めてみる。


 本当に全てのパーツが整っていて正しい位置にあり、完璧で美しい。未だにその美貌に慣れることはないし、いつまでも眺めていられそうだ。


 こんなに綺麗な人が私のことを好きで、恋人だなんて夢みたいだと今でも思う。


「…………」


 顔を見つめているだけで「好き」という気持ちが溢れ、柔らかな銀髪をそっと撫でる。


 するとゼイン様の形の良い唇が、ふっと弧を描いた。


「……君といると、これが幸せなんだろうなと思うよ」


 そんな言葉に胸の奥がじわじわと温かくなり、視界が揺れた。


 私はゼイン様から、たくさんの幸せをもらっている。


 そんな大好きな彼にも、少しでもそれを返せているのなら、これ以上に嬉しいことはなかった。


 数分後、規則正しい寝息が聞こえてきて、眠りにつくことができたらしい。


 愛しい寝顔を眺めながら、ゼイン様のためならどんなことだってできるような気がした。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトル! 変更前にも読んでるのに… 変更後のタイトル見ると 変更前のタイトルを忘れてて… 私の記憶力の無さが(>_<) ごめんなさい… 早く膝枕のシーンがコミカライズで見たいです!! 後は…
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