ほどかれた未来 3
とんでもないところでお休み頂いておりすみませんでした、2部の最後まで書き終えたのでどんどこ更新していきます!お付き合いよろしくお願いします( ˘人˘ )
「なんだか平和ですね。海や山へ行っていたあの頃が懐かしいです」
「ぱぱ! ぴぴ、ぱぴ!」
「ハニワも山に行きたいらしいですよ」
「ふふ、食堂が落ち着いたら、今度は普通に旅行に行くのも良いかもしれないわね」
頭を撫でると、ハニワちゃんは「ぷぴ」と嬉しそうに鳴いた。最近「ぷぴ」は「好き」なのではないかと思い始めている。
エヴァンもハニワちゃんの通訳をしてみているようだけれど、本当にそれが合っているのか定かではない。
「ぺぴぽ、ぱぴ、ぱぴ!」
「公爵様にも会いたいそうです」
「…………」
──あれから二ヶ月が経った。ゼイン様からの連絡は一切なく、距離を置くという約束は守られているまま。
その結果、驚くほど毎日が平和で、逆に落ち着かないくらいだ。あんなに必死に追いかけてきたというのに、こんなにもあっさり引き下がれるものなのだろうか。
「……でも、これで上手くいくはずだもの」
私の命も世界の平和も二人の「愛の力」という、目には見えないものによって救われるのだ。
小説を読んでいた頃は思い合う二人の姿に憧れ、ときめいていた。けれど、それが芽生えるのはいつなのか、そもそも「愛の力」が何なのか分かっていない。
だからこそ私は、こうするほかない。他に方法があるのなら、誰か教えてほしかった。
ちなみに毎日のように顔を出している食堂は想像以上に順調で、最初は赤字覚悟だったものの、初月からしっかり利益が出ていて安心した。
子ども達も気軽に遊びに来てくれており、いつも元気や幸せをもらっている。
「でも本当、不思議だよね。公爵様も流石に心変わりし始めたのかな?」
「ぴぱぷ! ぴぱぷ!」
「痛っ……痛いって、ちょっと何とかしてくれない?」
「本当にランハートのことが嫌いよね。なぜかしら」
「新しいお父様だよって言ってるだけなのに」
「ぽぷ! ぽぽ!」
「あはは、ごめんって。ねえ、本気で痛いんだけど」
今日はランハートが遊びに来ており、先程からハニワちゃんが絶えずびしばしと攻撃を仕掛けている。
これまで親身に協力してくれていた彼にも、これまでの報告は全てしてあった。
「そう言えば、この間はあの子がマリアベル嬢とも一緒にいたって聞いたよ」
「シャーロットが?」
「うん。カフェで一緒にいるところを見た子がいるらしくて、本当に公爵様とは家族ぐるみの良い関係なんじゃないかって噂されてるよ」
既にマリアベルとも交流しているとは思わず、驚いてしまう。私が思っていた以上に、状況は好転しているのかもしれない。
「でも、寂しいって顔してるね」
「……それは、流石にそう思うわ」
もちろん寂しく感じるし、自分の居場所を奪われたような、自分勝手な気持ちになってしまう。けれど、本来シャーロットの居場所を私が奪ってしまっていたのだ。
間違いなくこれが正しくて、正しい未来だった。
「まあ、良かったね。じゃ、俺と付き合おっか」
「ぱぺ! ぱぺ!」
「大丈夫よ、付き合わないから」
「ぷ……」
ランハートに対し怒り続けるハニワちゃんを赤ちゃんのように横抱きで抱っこし、とんとんとすれば落ち着いたようだった。かわいい。
「あ、でもまだ別れてはいないんだっけ?」
「ええ。距離を置く期間はあと一ヶ月残っているから」
「そっか、そこで別れられるといいね」
他人事のようにそう言ったランハートは紅茶を飲むと「あ、そうだ」と口を開いた。
「実は今夜、舞踏会にパートナーとして参加予定だった子が、急に予定が入ったみたいなんだよね。良かったら一緒に行ってくれない?」
「分かったわ、私でよければ」
ランハートには日頃お世話になっているし、たまには侯爵令嬢としての役割も果たさなければ。
時計を向ければそろそろ支度を始めないといけない時間で、私はヤナに準備をお願いすると、ランハートを門まで見送ることにした。
「君と一緒に社交の場に出るのは初めてだね」
「確かにそうね、私も最近は顔を出していなかったし」
私達が二人で現れれば、ゼイン様との破局説も余計に広がるだろう。
馬車の前でランハートは振り返り、私に向き直った。
「あ、ごめんね、さっき嘘をついちゃった。君と最初から行くつもりだったから、誰も誘ってないんだ」
「えっ?」
余裕たっぷりで綺麗に微笑み、ランハートは「約束したからね」と馬車に乗り込んだ。
このギリギリのタイミングで困っていると言えば、私が断らないだろうと考えたからに違いない。そんなことをしなくても、普通に誘ってくれれば行くというのに。
「……もう」
それでも正直に「嘘をついた」と言うところが彼らしいなと思わず笑ってしまいながら屋敷へと戻り、今夜に備えることにした。