あなたにとっての一番に
ときめきそうなタイトルですが、詐欺です。
Twitterのマシュマロで募集したリクエスト『エヴァンとハニワちゃんのお話』になります。
「ハニワちゃん、おいで。……ああもう、本当にかわいいんだから! ふふっ」
名前を呼ぶとハニワちゃんはトタトタとこちらへやってきて、ぴょこんと私の肩に飛び乗る。
そしてすり、と私の頬にくっついてくるものだから、あまりの可愛さに悶えてしまう。
貧乏すぎて自分の食事代ですらギリギリだった私はペットを飼うこともできず、長年自分に懐いてくれる生き物に憧れていたのだ。
「よしよし、かわいいね」
小さな頭を撫でていると、ふと強い視線を感じる。
「いいなあ」
私達の様子を見ていたらしいエヴァンは、羨ましげな視線をこちらへと向けていた。
以前もハニワちゃんをよしよししていた際、同じことを言っていた気がする。
「エヴァンもハニワちゃん、撫でたい?」
するとエヴァンは、整いすぎた顔を左右に振る。
「いえ、俺がお嬢様に撫でられたいんです」
「げほっ、ごほ……えっ……?」
予想外の言葉に、思わず咳き込んでしまう。まさか撫でられたい方だったとは、想像すらしていなかった。
とは言え、エヴァンはこれまでグレースにずっと強くあたられ、それはもう酷い扱いを受けていたのだ。
顔以外は褒められたことがなかったようだし、一応主人である私によしよしと褒められたい、認められたい気持ちがあるのかもしれない。
「わ、分かったわ」
エヴァンにはなんだかんだお世話になっているし、これくらいのお願いなら叶えてあげたい。
私が頷くと、エヴァンは「いいんですか?」と嬉しそうに微笑んだ。
エヴァンには慣れたし、様子のおかしい彼は「男性」というより「新人類」というカテゴリなためドキドキすることはないものの、やはり顔が良すぎる。
それに成人男性の頭を撫でるというのは、やはり落ち着かない気持ちになる。
「じゃ、じゃあ、いきます」
「はい」
緊張しながら、私の前にしゃがみ込んだエヴァンの紺髪へとそっと手を伸ばす。
少しだけ癖のある柔らかな髪を撫でていると、やがてエヴァンはこてんと首を傾げた。
「あ、なんか違いました。ちょっと気色悪いですね」
「本気でキレていい?」
私の恥じらっていた気持ちを、今すぐ返してほしい。
思わず撫でていた手で頭を叩くと、エヴァンは「あ、やっぱりこれがいいです。63点」と言ってのけた。
「もうエヴァンなんて知らないから! バカ!」
「すみません、正直なもので」
「余計にタチが悪いわよ」
すると私の怒りが伝わったのか、ハニワちゃんもエヴァンの頬をべちんと叩いた。なんて賢い子なのだろう。
「やっぱりハニワちゃんはいい子だわ」
「でも、ハニワちゃんが撫でられたり褒められたりしているのを見ると、非常に腹立たしいんですよね」
「面倒臭いわね」
何らかの敵意を感じたのか、すかさずハニワちゃんは再びエヴァンに飛びかかる。
そんなハニワちゃんを摘み、エヴァンは目を伏せた。
「──俺はきっと、お嬢様の一番がいいんです」
「えっ……?」
寂しげな表情や言葉に思わず胸を打たれた、けれど。
「この先も、一番の下僕は俺にしてくださいね」
「ねえ、本当に他に言い方はなかったの?」
一瞬、感動してしまった気持ちも至急返してほしい。
じゃれ合うエヴァンとハニワちゃんを見つめながら、こんな平和で穏やかな日々がいつまでも続くよう、舞台装置として頑張ろうと改めて思ったのだった。