真実 3
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「とにかく一度、シャーロット様と話をしたいと思っています」
イザークさんが「シャーロットのため」と言ってとった行動が、彼女の命令によるものなのか、彼女の預かり知らぬところで行われたものなのかも知りたい。
ゼイン様は少しの間、私を黄金の瞳で見つめていたけれど、やがて静かに口を開いた。
「君がそういう以上、必要なことなんだろう。彼女をしっかり見張り、安全が保証された場であればいいだろう。もちろん俺も側にいるから」
「あ、ありがとうございます……!」
ゼイン様が側にいてくれるのなら、それ以上に心強いことはない。まずはシャーロットに「会って話がしたい」と手紙を書いてみようと思う。
「それと、ゼドニークの第三王子も君に目を付けたんだろう? 悪虐非道だという話は我が国にまで届いていて、国家間でも危険人物とされている一人だ」
その一方で人心掌握に長けており、魔力の強さなどから次期国王になる可能性が最も高いと言われているそうだ。
そもそもフィランダーは小説では攻め込んできた際にゼイン様と戦って敗れ、全身に傷を負って再起できない身体になる。
そのため、以降はもう出てこないキャラだった。だからこそ今後の彼がどんな行動を起こすのか、予想がつかないのも怖かった。
少しずつ、けれど確実に、小説の本来の展開からずれていっているのを感じる。
「そうですね。あの男はお嬢様が好みだから国へ連れ帰るとか、気の強そうな顔をして怯えているのがそそるとか言っていましたから」
「……へえ?」
私の代わりに、それも必要以上に丁寧にエヴァンが伝えてくれたことで、ゼイン様の顔から表情が消える。
ものすごく怒っているらしく、部屋の温度が一気に数度下がった気がした。
「今すぐにでも殺してやりたいが、しばらくは大人しくなるはずだ」
今回の件はフィランダーの独断によるもので、現国王も我が国に対しての謝罪をし、フィランダーを罰すること、また多額の補償金を約束したそうだ。
「ゼドニークでも、瘴気や魔鉱水については問題になっている。聖女であるグレースの力を借りたいと思っている以上、低姿勢でいるしかないんだろう」
「……そう、なんですね」
瘴気で苦しむゼドニークの罪のない民達を救いたいという気持ちはあるけれど、フィランダーに会うのはやはりまだ怖かった。
いくら国王陛下が罰を与えると言っても、彼を完全に抑えつけられるとは思えない。
フィランダーには何をするか分からないという、得体の知れない恐怖感がある。
「無理をする必要はないし、全てゆっくりでいい」
「はい、ありがとうございます」
そもそもまだシーウェル王国内の問題だって解決していない以上、他国への支援はまだまだ先になるだろう。
「それとつい先程、俺と君宛てに陛下から建国記念パーティーの招待状が届いた。もちろん君の気持ちを優先するし、誰にも文句は言わせない」
私を思ってはっきりと断言してくれたゼイン様の気遣いに、感謝してもしきれない。
けれど体調にもう問題はないし、陛下と会うことや公の場に出ることだって、いずれ避けられないと分かっていた。
「ありがとうございます、ゼイン様さえよければ参加しようと思います」
何より大きな社交の場であれば、シャーロットが来るかもしれない。
私の返事に対してゼイン様は「分かった」と微笑んでくれて、二週間後に二人で参加することとなった。
それまでにすべきことはたくさんあると、軽く両頬を叩く。
「では、俺はそろそろ失礼します。公爵様の分まで魔物を討伐して回って忙しいので」
「ゼイン様の代わり?」
「はい」
なんとエヴァンはウィンズレット公爵邸に私がいる間、護衛としての仕事がないため、ゼイン様に雇われるという形で魔物の討伐を行なっているそうだ。
確かに日頃からかなり多忙なはずのゼイン様は、ずっと私の側にいてくれている。
申し訳なさはあるものの、そのお蔭で安心して身体を休められているのも事実で、感謝してもしきれない。
それにしても、お金にもさほど興味のないエヴァンが引き受けるのは意外だった。
「俺が欲しいものを公爵様がくださることになっているので」
「エヴァンの欲しいもの?」
「はい、内緒ですが」
口元に人差し指をあててにっこり微笑んでみせたエヴァンとはいつも一緒にいるけれど、私は彼のことを実はほとんど知らない。
けれど私自身も周りに隠している秘密はあるし、無理に尋ねるつもりはなかった。
エヴァンを玄関ホールまで見送った後は、ゼイン様に手を引かれ自室へと向かう。
「まずは来週の建国記念パーティーですね。それまでにできる限りのことはします」
「そう気負う必要はないよ」
聖女としての振る舞いなどもそうだし、いざという時のために力の扱い方もしっかりと学んでおきたい。
これから先、聖女の力が必要な場面は数多くあるはず。
「実はウォーレンさんに聖魔法の扱いを教えてもらえたらと思っているんです。聖魔法と光魔法は似ているのなら、きっと可能でしょうし」
「絶対にだめだ」
きっぱりと即答したゼイン様は、忌々しいと言わんばかりに眉を寄せている。
「どうしてですか? ロザリー様から教えていただいた方だと聞いていますし」
「ウォーレンから、君が気に入ったという腹立たしい手紙が来ていたからだ」
大人であるウォーレンさんには私なんて子どもに見えていただろうし、ゼイン様をからかうつもりだとしか思えない。
「それに俺はあいつが嫌いなんだ」
ゼイン様がこうして他人に対し、分かりやすく嫌悪感を表すのも珍しい。
それほど幼い頃、ウォーレン様から受けた仕打ちを根に持っているのだろう。
「君は元々魔法を使えているし、感覚を掴むまで早いはずだ。そもそもウォーレン程度にできることなら、俺にもできるから問題ない」
言葉の端々からも、ウォーレン様への強い敵意を感じる。
有無を言わせない圧を感じ、とにかく聖魔法さえ使いこなせるようになればいい私は、分かりましたと頷くほかなかった。