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真実 2



 するとなんと『グレースは悪魔に取り憑かれ悪行を繰り返していたが、聖女の力が目覚めて祓うことができた』ということになっているそうだ。


 つまり本来のグレース・センツベリーは純粋無垢な少女だったのに、悪魔によって本来の性格が捻じ曲げられてしまったという、無理のある噂が広まっているらしい。


「そ、そんな突拍子もない話が信じられているんですか……?」

「ああ。それほどに『聖女』という存在は民達にとって信頼すべき存在なんだろう」


 きっとそれはロザリー様といった過去の聖女達が素晴らしい方だったからこそで、彼女達に恥じない存在にならなければと背筋が伸びる思いがした。


「君の周りの人物も噂を肯定しているから尚更だ」

「誰がそんなことを……」

「君の父から始まり、関わりのある令嬢達やランハート・ガードナーまで」

「ああ……」


 お父様は娘が大好きで激甘だから納得だし、令嬢達というのはダナ様やシャーロットのお茶会で関わった人々かもしれない。


 そしてランハートに関しては間違いなく信じていないだろうけど、面白がりつつ、そういうことにした方が私にとって都合が良いと判断して後押ししてくれたのだろう。


 ランハートらしいと思わず笑みが溢れた私を見て、ゼイン様は形の良い眉を寄せた。


「本当にガードナーと仲が良いんだな。君は彼の話をする時、とても優しい表情をすることに気付いていないだろう」

「そ、そうですかね……とても仲の良い友人です」


 友人を強調したものの、ゼイン様は拗ねたような表情を浮かべたまま。


 いつだって落ち着いていて余裕のある彼がこんな顔をするのは私の前だけだと思うと、嬉しいと感じてしまう。


「これからさらに人気者になると思うと、妬けるな」

「ゼイン様には敵いませんよ」


 強くて誠実で優しくて、誰よりも格好いい彼は主人公そのものだった。


──元々、これまでのグレースの悪い噂を払拭するために努力するつもりでいた。


 けれどそんなゼイン様のパートナーとして、そして聖女として。これからはより頑張らなければと、改めて気合を入れたのだった。



 ◇◇◇



 翌日、すっかり元気になった私は公爵邸の広間にて、ゼイン様とエヴァンと三人で大理石のテーブルを囲んでいた。


 つい先程まではマリアベルも一緒にお茶をしていたけれど、ここからは少し物騒な話になるため、少しの間席を外してもらっている。


「みんな無事で良かったですね。お嬢様はかなりの有名人になってしまいましたけど」


 いつもの調子でエヴァンはそう言って、優雅な手つきでティーカップに口をつけた。


 私が公爵邸に滞在しているのも周知の事実らしく、屋敷の前には記者や一目でも聖女が見たいという人々が押しかけているんだとか。


 なんだか大事になってしまって、ゼイン様やマリアベルに迷惑をかけまいと「侯爵邸に帰る」と伝えたけれど、笑顔のゼイン様に却下されて今に至る。


「今後、グレースの力を悪用しようという輩も出てくるはずだ。より身辺の警護には力を入れるべきだろう」

「そうですね。今回、俺がお嬢様のお側を離れた後、他の護衛は全く役に立たなかったようですし、もう少し腕の立つ人間を増やしても良いかもしれません」


 エヴァンの強さはもちろん信頼しているものの、相手の数によっては今回のように一人では手が回らない状況もあるはず。


 今の護衛達よりもさらに腕立つ人を雇えないか、お父様に相談してみようと決める。


「捜索を続けているが、イザークという男は未だに見つかっていないそうだ。そもそも、あの男はなぜ君を殺そうとした? 親しげにしていたのに」


 イザークさんが時折、食堂へ来ていたことも知っていたらしい。エヴァンは「やっぱりあいつ、胡散臭いと思っていたんですよね」と肩を竦めている。


 あんなにも良くしてくれたり、身を挺して守ってくれたりしたのも全て、私を油断させるためだったのだろう。


 今後はエヴァンの勘を信じようと、心に決めた。


「イザークさんは、シャーロット・クライヴ様のためだと言っていました」

「どういうことだ?」

「……彼女の望みを叶えるために、私が邪魔だと」


 それ以上のこと──シャーロットがゼイン様と結ばれるためだとゼイン様に話すのは、どうしても躊躇われた。


 私がゼイン様と結ばれ、聖女の力を得たことで、ヒロインであるシャーロットはどうなるのかということも気がかりだった。


 イザークさんの話を聞いた限り、彼女は私と同じ転生者だろう。その上でシャーロットはゼイン様を好いていて、彼と結ばれることを望んでいる。


 ──そんなシャーロットの立場や力を奪うような形になったことに対し、私はずっと心の中で罪悪感を抱いていた。


 だからこそ、ゼイン様に対して告げ口するようなことに、強い抵抗を覚えたのだ。


 私の躊躇う気持ちを察したのか、ゼイン様はそれ以上尋ねてくることはなかった。


「でも、私を本気で殺そうと思えばもっと簡単に殺せたはずなのに……」


 ゼイン様が助けに来てくれるまでの間、イザークさんには何度も私を殺すチャンスはあったはずだし、一瞬で殺してしまうことだってできたに違いない。


 彼の中にはまだ人を殺すことに対して、抵抗や罪悪感があったのだろうか。



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