聖女の力 2
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なんと神童と呼ばれていたほどの天才で、十三歳の頃にはもう完璧に応用レベルの魔法を使いこなせるようになっていたという。
「長旅でお疲れでしょう、どうぞ中へお入りください。昼食も用意していますので」
それからは屋敷の中に案内され、三人で昼食をいただいた。
最初は緊張していたものの、ウォーレン様はとても気さくで穏やかで、途中からは肩の力を抜いて楽しくお喋りすることができている。
「ゼインは一生結婚しないと思っていたので、安心しました。グレース様のような素敵な女性が側にいてくださるのであれば、公爵家も安泰ですね」
ゼイン様のことを話すウォーレン様は、とても楽しげだった。
それでいて「安心した」と嬉しそうに話す姿からは、ゼイン様のことを大切に思っているのが伝わってくる。
「ゼイン様とウォーレン様は仲が良いのですね」
「いえ、ものすごく仲は悪いです」
「えっ」
にこにこと穏やかな笑みを浮かべたまま断言するウォーレン様に、面食らってしまう。
「仲が悪いというより、一方的に嫌われているんです。私は大好きなんですが」
聞き間違いかとも思ったけれど、事実らしい。
「ゼインが幼い頃、泣きそうになりながらも必死にこちらを睨んでくる姿があまりにもかわいくて仕方なくて、ついつい虐めすぎてしまって……」
「…………」
右手を頬にあて深い溜め息を吐く、憂いを帯びたウォーレン様の姿は、絵として教会に飾ってあってもおかしくはないほど麗しい。
けれど言っていることはおかしくて、当初抱いたイメージからかけ離れていく。
先日、ゼイン様が「できることなら会ってほしくない」と言っていた理由が、少しだけ分かった気がした。
昼食後は早速、応接間にてウォーレン様と二人きりで話す時間を設けてもらった。
「聖女について調べているとマリアベルから聞いています。ロザリーについても、何でも気兼ねなく尋ねていただければと思います」
亡くなった方について探るような話を聞くことに、罪悪感はあった。
それでもウォーレン様が「久しぶりに彼女の話ができるのは嬉しいです」と言ってくれたことで、肩が軽くなるのを感じていた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、いくつか質問させてください」
「はい、どうぞ」
「ロザリー様が聖女の力に目覚めたのは、いつでしたか?」
「十六歳の春です。前ウィンズレット公爵様に出会ってから、半年が経った頃でした」
二人は知人の誕生日パーティーで出会い、お互いに一目見て恋に落ちたそうだ。
三ヶ月後には婚約に至り仲睦まじく過ごす日々を送る中、前公爵様──ゼイン様のお父様が大きな事故に巻き込まれてしまった。
前公爵様はロザリー様や辺りにいた人々を庇い、彼以外は全員無傷だった。
けれどもう彼の命は風前の灯で、誰が見ても助かるような状況ではなく、ロザリー様に遺言を託したそうだ。
自分のことは忘れて、どうか幸せになってほしいと。
「ですがロザリーは深く前公爵様を愛していて、彼以外との未来など考えられないと答えたそうです。そして彼を救いたいと強く願った時、聖女の力を発現したのです」
そこまで聞いた私は、胸の奥がざわつくのを感じていた。
小説でシャーロットが聖女の力に目覚めたのも、他国が攻め込んできた際にゼイン様が深い傷を負い、それを救いたいと祈った時だったからだ。
「その結果、ロザリーは聖女の力で公爵様を癒し、二人は無事に結ばれました」
それからすぐに、国からも聖女として認められたそうだ。そんなロザリー様に、ウォーレン様は一から魔法の扱い方を教わったのだという。
「ちなみに先々代の聖女もウィンズレット公爵家の縁戚なんですよ」
「……本当ですか?」
「はい、間違いありません」
つまり先々代の聖女様、ロザリー様、そして小説ではゼイン様の恋人であるシャーロットの全員が、ウィンズレット公爵家と関わりがあることになる。
「……もしかして、公爵家の血筋が関係してる……?」
とても偶然だとは思えず、心臓が早鐘を打っていく。
そんな呟きに対し、ウォーレン様は静かに頷いた。
「私もそう思っています。聖女の力というのは国をも揺るがす大きな力です。ですから過去の公爵家の者達もそう考え、血族の人間が悪徒に利用されないよう、文献などにも残さないようにしていたのではないでしょうか」
──私はずっと聖女の力に目覚めるシャーロットが、特別な存在だと信じ込んでいた、けれど。
今はゼイン様に流れる血こそが特別なのかもしれないと、思い始めていた。