最高の誕生日 7
今日で小説家になろう投稿4周年でした!
今後とも琴子をよろしくお願いします。
新たな爆弾を落とされたことで、私は手の上に飛び乗ってきたハニワちゃんをうっかり落としそうになった。本当に待ってほしい。
エヴァンはそんな冗談を言う人ではないし、きっと事実なのだろう。驚きと動揺で変な汗が止まらなくなる。
悪女のグレースとエヴァンが良い雰囲気だったという話だって、聞いたことがない。
「ちょ、ちょっと待って、本当? いつ、どうして?」
「内緒です。ただ全く深い意味はないのでご安心を」
エヴァンは人差し指を唇にあてて綺麗に微笑むと「身支度をするんでしょう? メイドを呼んで来ますね」と言って部屋を出て行く。
その場に残された私は呆然としながらも、ひとまず忘れようと心に決めたのだった。
◇◇◇
そんなこんなであっという間に公爵領での日々は過ぎ、王都へ帰宅することとなった。
帰宅時も当然のようにゼイン様と二人きりで、馬車に揺られる。
昨夜のことを反省し罪悪感でいっぱいだったものの、一方のゼイン様はとても機嫌が良さそうだった。
「とても楽しくて、あっという間でした。本当にありがとうございます」
「こちらこそ。また君と一緒に来られたら嬉しい」
「はい、ぜひ」
まだ見ることができていない場所もたくさんあるし、何度だって行きたいと思えた場所もあった。
今度は一緒にセンツベリー侯爵領へ行く約束もして、胸が弾んだ。
「……きれい」
手元へ視線を落とすと、窓越しに差し込む陽の光を受け、手首のブレスレットがきらきらと眩く輝いている。
宝石について詳しくないけれど、特別なダイヤモンドであろうことは分かった。
「それを付けていれば、君が俺以外の男に声を掛けられることはないだろうな。命知らずの人間だけは別だが」
どうやらこのブレスレットは、男性避けの効果がすさまじいようだった。
過去、グレースが遊んでいた男性から絡まれることもあったため、私としてもありがたい。
「ふふ」
「どうして笑っているんだ?」
「以前はゼイン様って、全く私に興味がないと思っていたので」
カジノでランハートと事後を装った際、笑顔で何も言わなかったゼイン様に対して私は「全く好かれていない」と思っていた。今となっては懐かしい思い出だ。
その時のことを話すと、頬杖をついたゼイン様は「ああ」と片側の口角を上げた。
「今はもう浮気のフリだとしても許してやれないだろうから、気をつけてくれ」
「本当に浮気なんてしたら大変ですね」
ゼイン様は笑顔のまま、冗談めいた口調で話すものだから、私も軽い調子でふざけて言ってみたのだけれど。
「ああ、俺も人殺しにはなりたくないんだ」
「…………」
太陽よりもダイヤモンドよりも眩しい笑みを浮かべたゼイン様に対して「冗談ですよね」なんて笑い飛ばせる勇気はなかった。
そんな私の顎を指先で軽く持ち上げると、ゼイン様は綺麗に微笑んでみせる。
「俺が君の最初で最後の男だよ」
「…………っ」
「いずれ全てもらうつもりだから、覚悟してくれ」
様々なドキドキでいっぱいの私はもう、こくこくと必死に頷くことしかできなかった。