黄金の頂へ
「――で、シックザールは生きているのか?」
「はい。島での戦闘では、あなた方が撃退したようですが……残念ながら生きています」
ヘイムダルが断言するのだから間違いないだろうな。あの時、シックザールは地の底へ消えただけ。消滅したわけじゃない。
だけど、確実な大ダメージを与えている。
無傷では済まないはず。
よって、弱体化はしていてもおかしくはない。
「なかなかしつこい男ですね」
ルドミラは少し呆れていた。
そうだな、俺もナハトも何度も戦ってきた。アイツほど厄介な男は初めてだ。
「シックザールの生命力はゴキブリ並みさ」
と、付き合いの長いナハトがそう言った。……だろうね。
「教えてくれ、ヘイムダル。あの男はどこにいる?」
「いいでしょう。世界平和の為に力を貸します」
どうやら、ヘイムダルは俺たちの味方になってくれるようだな。正直、本当に信じて良いか微妙なところではある。
だけど、エドゥの瞳は“信じて大丈夫”だとそう言っているようだった。
「直ぐ分かるのか?」
「ええ。星帝シックザールの魔力は独特なので」
ヘイムダルは右手を伸ばし、念じる。すると、数秒で判明したようだ。……早いな。
「場所は?」
「島国ラルゴ」
「……な!?」
俺だけでなく、みんなも驚いていた。まさか、また再び島国ラルゴを狙う気か!
「ラスティさん、島の人たちに危険が!」
「そうだな、スコル。大至急で戻る必要がある」
こうなったら、エドゥに転移魔法を展開してもらうしかない。俺は視線を向けた。すると、エドゥは「お任せを」と短く返事。
即座にワープポータルを展開した。
光の柱が現れた。
中へ飛び込めば『島国ラルゴ』へ転移できる。
「行くのだな、兄上」
俺の前に立つハヴァマール。まるで覚悟を決めろと言っているようだった。実際そうなのだろう。多分、次が『決着』になる。そういうことなのだろう。
俺自身もそれは感じていた。
終わりの時は近づいているように思えた。
前回の戦いで俺たちはシックザールを圧倒しつつあったし、実際に勝利した。だから、次は決着となるはず。
「もちろん。世界も大切だが、一番は島国ラルゴだからな」
みんな俺の意見に賛同してくれた。
アルフレッドもストレルカも。
ルドミラたちも。
――さて、戻るか!
「残念ですが、私は移動できません」
と、思ったがヘイムダルが辛そうに言った。
「そうなのか。来てくれないのか」
「ええ。もうご存じかと思いますが、私は霊体。このカファルジドマ大帝国に縛られているのですよ」
「どういうことだ?」
「守護聖人ヴァーツラフ・ズロニツェの与えてくれた“不老不死”には制約があるのです。……それは常に魔力を消費すること」
実体を維持する為に常に魔力が必要という。なので、魔力が尽きると死ぬ――というよりは消滅するらしい。……なるほど、ヘイムダルの不老不死にはそんなデメリットもあったのか。
確かに死にはしないが――“消滅”は避けられない。
そうか、すでに『霊体』であるから、死んでいるも同然。となると消滅しかないわけだ。
だから、無理に戦えば消えてしまうらしい。
そりゃ戦闘には加われないわけだ。
「わかった。大帝国は任せたよ」
「ええ。こちらは気にせず。星帝シックザールを討伐してください」
「おう、わかった」
今度こそ別れだ。
これで一旦はカファルジドマ大帝国とおさらばだ。
◆
【島国ラルゴ】
転移を出ると、そこは俺の城拠点の庭。
本当に久しぶりに帰ってきた。もう懐かしささえ感じてしまうほどだ。
「変わっていませんね」
周囲を警戒するルドミラは、敵の気配を探っているようだった。
とりあえず、周辺に敵はいないようだ。
シックザールはいないようだな。
「……」
だけど、エドゥはなにか感じ取っていた。
「どうした?」
「山の方かもしれません」
「山の方? アルゴナウタイか」
かつてコルキスで騒動になった場所。……まさか、あの場所に?
俺はコルキスに声を掛けようとしたが――既にドラゴンに変身して飛び立っていた。……まさか単独で乗り込む気か!?
【カファルジドマ大帝国編・完】
いったん章完結です!
次回【永劫回帰編】へ続く。
100万文字にて『完全完結』となります。




