ヘイムダル宰相の計画
【カファルジドマ大帝国】
俺たちを警戒する多くの騎士たち。
以前と変わらぬ景色がそこにはあった。
久しぶりに戻ってきた――この国に。
「どうやら、我々は歓迎されていないようですな」
当然のことを言うアルフレッド。その通り、騎士たちはこちらを睨みまくっていた。
いつ襲ってきてもおかしくない雰囲気だぞ、これは。
だが、俺たちが星帝シックザールを倒したという噂が広がっているおかげか、無謀に挑戦してくる騎士たちはいなかった。
みんなと共に大帝国の中央にある城へ向かう。
無事にたどり着き、城内へ。
もちろん、城を守る騎士たちがいたのだが、不思議と手を出してこなかった。……止められているのか?
気にせずヘイムダル宰相のいる部屋を目指す。
そして、交戦するとなく到着した。
こんなアッサリたどり着けるとは思わなかったぜ。
「……なんだか罠クサイな」
猫耳をピョコピョコさせるハヴァマールは、じとっとした目で部屋の扉を見つめる。この先にヘイムダル宰相がいるはずだが――『罠』か……。
そうだな、罠だろう。
俺とスコルは一度、無人島に飛ばされている。それに、ルドミラたちも捕まった。
ここへ来るということは、またその可能性があるということ。
だが、同じ轍は踏まない。
「みんな、今回は大丈夫だ」
「どういうことですか、ラスティさん」
スコルが聞いてくる。
「みんなには話していなかったが、ヘイムダル宰相は……エドゥの母親だ」
そう打ち明けるとみんな騒然となっていた。ルドミラとテオドールすらも知らなかったようだ。……秘密にしていたのか。
「どういうことだい、エドゥ!」
テオドールが叫ぶ。本当に知らなかったようだ。
「……」
本人は喋りたがらない。いつも以上に無口だった。
こうなったら、この部屋に入るしかないだろうな。
俺は先頭に立ったまま、扉を開けた。
ギィっと軋む音。
その先には――
「……来ましたね」
ヘイムダル宰相の姿があった。俺たちを飛ばした時と同じままの姿で。
ずっとそこにいたのか。
スキル『クイックシルバー』で霊体だから、飲み食いの必要もないだろうしな。
「お母さま……もう止めてください」
「久しぶりですね、エドゥアール」
エドゥアール?
エドゥアルドじゃないのか?
「……」
「それとも……“本当の名”で呼ぶべきでしょうか」
「やめて」
珍しく拒絶するエドゥは、明らかに表情を曇らせていた。コイツがこんなに感情を露わにするなんて珍しい。いつも仏頂面で顔色をほとんど変えないのに。
俺はエドゥを庇うようにして質問を投げる。
「ヘイムダル、あんたにひとつ聞きたい」
「なんでしょう?」
「星帝シックザールに服従しているのか?」
返答次第では……エドゥには申し訳ないが、ヘイムダルとは敵対となるだろう。辛いけど……。
だけど、仕方ない。
それに相手は不老不死の“霊体”だ。倒すというか、封印するような形にはなるかもしれない。
なんであれ、返答次第だ。
「……ラスティ、あなたを無人島へ飛ばした理由ですが」
「む?」
「あなた方を逃がす必要があったのですよ」
「つまり、俺たちの味方ってことか」
「ええ。味方と思っていただいて構いません。あの時は申し訳ない」
謝罪の言葉が出ると、ルドミラは警戒を解いて前へ出た。
「私からも聞きたい。今までのことはシックザール討伐の為と思ってよいのでしょうか」
「ええ。作戦の内です」
「なるほど。私たちを捕えたのも作戦の一環であると」
「雑な扱いをしてしまったことはお詫びします。ですが、シックザールに悟られては意味がない。ので、私は宰相としての仕事を全うしたのです」
そういうことか。俺たちを無人島へ飛ばしたのも、ルドミラたちを捕えたのも全てはヘイムダル宰相の計画であり、作戦なのか。
なら、この先の『プラン』を聞こうじゃないか。




