黄金の聖女と聖書 - エル・ドラード -
浮遊する古の王家の白銀剣と古の王家の白銀盾を対処しつつ、俺はシックザールに鉄球を浴びせていく。
大砲に等しい速度で射出される鉄球なのだが、シックザールは『白銀の世界聖書』を使い、そのページから白銀の魔法を放ってきた。……な、なんだこの白い光!
「……っ!」
スコルを小脇に抱えつつ回避。
白銀の塊は、俺の拠点内の畑を蒸発させていた。な、なんて威力!
あの野郎、白銀の世界聖書から光線を放ってくるとは……!
「ダス・ユングステ・ゲリヒト」
そう唱えるシックザールは立て続けに光を放ってきた。野郎、世界聖書にどれだけの魔力を蓄えていやがる!
こちらは回避で精一杯だが、これでいい。
代わりにナハトとアイファが反撃に出てくれていた。
「ヘルブレイズ!!」
ナハトの魔剣ヘルシャフトから“闇の炎”が大きく広がり、シックザールの背後を襲う。……これなら、いけるか!?
「お前はワンパターンすぎるんだよ、ナハト。いい加減に学べ」
「その言葉をそっくりそのまま返すぜ、シックザール!」
「……なんだと?」
その時、アイファが空高く舞い上がっていた。――って、ハイジャンプってレベルではない。綺麗な弧を描いてシックザールの頭上を捉えていた。
まてまて。
アイファって身体能力が高いのか……!
「エル・ドラード!」
そう叫ぶアイファの周囲には“黄金の光”が現れた。お、黄金……だと!
やがて黄金は無数の針となり、雨のようにシックザールへ襲い掛かっていた。
な、なんて数だ。
あれならさすがのシックザールも回避不可能だ。
「我が娘、アイファ。実の父親である私に歯向かうか……!」
激昂するシックザールに隙があった。これは好機!
俺は直ぐに無人島開発スキルで生成した『鎖』を四本同時に放つ。
ジャラジャラと音を立てて向かっていく鎖は、シックザールの手足と両足を捕縛。確保に成功した――!
「これで身動きできないだろ!」
「ラスティ、貴様ああぁぁッ! ――なんて言うと思ったか!」
「なにッ!?」
「今こそ明かそう。私がなぜ“封印”から脱出できたのか!」
懐から更に本を取り出すシックザールは、それを掲げた。しかし、その前にアイファの黄金の針が炸裂!
『ドドドドドドドドドドドドド…………!!』
百、二百以上は降り注いでいた。
槍のような針だ。さすがのシックザールも無事では済まないはず。
砂埃が待って視界が悪いが、直ぐに結果はそこに現れ――
な……!
煙が晴れると、そこには無傷のシックザールの姿があった。
「ラスティさん!」
「……ああ、スコル。あの男……シックザールは生きている」
いつの間にか鎖を外し、黄金の針さえも消失させていた。いつの間に。いや、あの世界聖書を取り出してから状況が大きく一変した。
…………なんだよ、あの黄金の聖書。
「黄金の聖書」
「なに……それって、今アイファが唱えた技と同じ名前……」
「そうさ、ラスティ。エル・ドラードはもともと世界聖書に記されていたスキル。それを我が娘に授けたのは……この私」
「そうか。だから、アイファは“黄金の聖女”……!」
ようやく繋がった。つまり、シックザールの娘っていうのは本当だ。真実だ。
アイファ本人は地面に降り立ち、認めていた。
「そうです。この力はあなたからいただいたもの。そして、その一部をナハトさんに分け与えたのは私……」
特殊スキル『トレジャーハンド』のことか。
金の宝箱を生成し、箱の中からS級以上の武具を取り出せる最強の能力。
シックザールの黄金の力の秘密――世界が浸食されている元凶があの野郎だと確定した。
そうか、全てはあの『黄金の聖書』から始まっているんだな……!
「だからなんだ、シックザール!」
「ほう。ナハト、まだ勝つ気でいるのか?」
「違う。貴様には罪を償ってもらう。親の、村の、あらゆる被害者の仇……!」
ナハトのヘルシャフトが赤く染まっていく。まるで血のように。
な、なんて禍々しい魔力!
魔剣本来の姿を現しているかのような、そんな気配がした。
距離があるのに、凄い熱気だ。……暑い。とても暑い。まるで蒸気でも発しているような、そんな爆熱を感じた。
「刃を赤くしたところでどうなる」
「シックザール、お前を殺す……!」
一瞬にして消えるナハトは、神速の域を超えていた。……捉えられない!
「黄金の聖書よ、ナハトを粉砕せよ」
シックザールもまた詠唱をはじめ、黄金の力を発揮する。どっちが先だ? ナハトの攻撃が先に通るか、それともシックザールの黄金か……!
でも、俺だって立ち尽くしているばかりじゃない。
スコルの力も借り、右手に膨大な魔力を集中させていた。
万が一、ナハトが外せば……俺は全魔力を使い、この大技を放つ――!




