魔王化の影響
親父の野郎……勝手に俺の意識に入り込んで、勝手に魔王化しやがって……。今度会ったら一発ブン殴ってやる。
しかし、今は破壊された部分を修理しなければ。
無人島開発スキルを発動し、俺は材料を消費して壁や監視塔を修復。元に戻った。
それから俺はスコルと共に城へ。
帰還して早々、酷い疲労感に襲われた。魔王化の影響だろうか、肉体的にも精神的にもやられた。これは一度寝ないと無理だ。
「……部屋へ行く」
「わかりました。わたしも一緒に」
俺の体を支えてくれるスコル。優しい言葉が心に沁みるな。
今隣にいてくれることが、とてもありがたい。
部屋の前に到着すると、そこにはハヴァマールの姿があった。なぜ、そこに。
「おかえりなのだ、兄上」
「あ、ああ……ハヴァマール」
「……兄上。さきほど魔王の気配を感じたのだ。兄上からな」
ハヴァマールを誤魔化すなんて無理だな。
「ああ、さっき一瞬だが魔王ドヴォルザークの力を得た。親父が意識に入り込んできたんだ」
「やはりか。以前、アントニンは冥界の狭間にいたようだが……今は違うらしい」
思うところがあるのか、ハヴァマールの表情はとても険しかった。そうだよな。オーディンに近しい存在はハヴァマール。正式な後継者といっても過言ではない。
俺に無人島開発スキルを与えてくれたし、黄金の宮殿『ヴァルハラ』という巨大空間も招待してくれた。
だから、ハヴァマールにとってはアントニン……親父のことは大問題なのだろう。
「俺は……また魔王になるかもしれない」
「かもな。だが、安心するのだ」
「え……」
「余がなんとかする。きっと兄上の魔王化を食い止めてみせるのだ」
真剣な眼差しと頼もしい言葉を向けられ、俺は嬉しかった。このままでは完全に魔王ドヴォルザークになってしまうのではないか。そんな不安に襲われていた。
でも、ハヴァマールがいる。
スコルもいる。
みんながいる。
きっと協力しあえば乗り越えられるはずだ。
それに、カファルジドマ大帝国へも戻らねばならない。一刻も早くシックザールを撃破せねば、世界は黄金に包まれる。
「ありがとう、ハヴァマール」
「あまり思い詰めるでないぞ」
「ああ、一度寝る」
「そうするのだ」
部屋へ入り、俺はすぐにベッドへ横になった。……眠い、今は眠ろう。
◆
不思議と夢は見なかった。
起き上がると体は岩のように重く、倦怠感もあった。……どうした、まるで熱でもあるような。
あれ、おかしい……ぞ。
「…………っ」
「おはようございます、ラスティさん。――って、足元ふらふらですよ!?」
体を支えてくれるスコル。そうか、あれからずっと一緒にいてくれたんだな。
「なんか動けない」
「もしかして……あ、やっぱり」
スコルは、手を俺の額に当てなにかを確信する。
「…………どういうこと?」
「風邪ですね」
「か、風邪……!?」
俺が風邪だって? この歳になってからは一度も風邪なんて引いたことがないぞ。そりゃ、ガキの頃はよくあったけどさ。
このタイミングで風邪とはな……。これも魔王化の影響か?
「眠っていないとダメです」
寝かされる俺。
しかし、この拠点を守らないとだな……。
「外の様子が気になる……」
「ダメったらダメです」
「そ、そうだ。スコルのヒールなら!」
「ヒールは傷を癒したりする力ですので、病は治せないんです」
それもそうか。病まで治療できたら、それはあまりに万能すぎる。
――てか、まて。
俺は神器エインヘリャルで不老不死のはずだ。不死といっても、病気は掛かるのか……。案外、不死身ってわけでもないんだな。
守護聖人ヴァーツラフ・ズロニツェも、そこまで万能には作れなかったということか。
なんであれ、俺はしばらくスコルから看病を受けることになった。
ありがたいことに、四六時中、休まず俺の傍を離れなかった。……おかゆも作ってくれたし、体も拭いてくれたし……聖女すぎて泣けた。




