魔王ドヴォルザークの再来
――魔王の、チカラ、なんて……イラナイ。
振り払えない。この黒い闇を、冷たいナニカを。
親父の野郎、俺になにをしやがった…………!!
『さあ、覚醒せよ、ラスティ。お前の本当の力を世に示すのだ』
この野郎……ブン殴ってやる。
でも、体が言うことを聞かない。もうダメだ……。
手も足もナニカが浸食していく。やがて全身が犯されていくような感覚に陥って、俺は闇の中へ吸い込まれた。
「……ラスティさん?」
懐かしい声が響く。でも、今は届かない。俺はただ、目の前の男と戦いたい欲望に支配されていた。ヤツを、倒したい。
「ついに諦めたか、小僧! そう、お前は所詮、罪人! 世界の平和と秩序を乱す存在であり、悪魔であるッ! よって処刑する……!」
エクスキューショナーが俺の目の前に振ってくる。ルーカンの攻撃は、以前に比べて凄まじく速く、恐ろしい。
だが、今の俺にとってはそれは赤子のようなものだった。
なぜだろう。
この男の攻撃は余裕で躱せるし、余裕で反撃できると理解できた。……どうしたんだ、俺は。
――闇が強くなる。
「ルーカン!」
「……! ラスティ、貴様……全身が黒く……! うぉッ!?」
「魔王の力を味わうがいい……『肉体は死して朽ち果てるとも』……!」
その瞬間、俺の全身から黒い影が現れ、幽霊のようなソレはルーカンに襲い掛かっていた。
『グオオオオオォォォォ』
「な、なんだこれは……! ラスティ、貴様……やはり、バケモノ!」
直後には、ルーカンの武器であるエクスキューショナーはドロドロに融解。武器をロストしていた。……あれ、なんで? 俺の力なのか?
意識がハッキリしない。
俺は何者なんだ。どうして戦っている……?
なぜ、こんな戦いをしている。
背後から声がするような。誰かの懐かしい声。俺の大切な……人の、声。
「――――ラスティ、さん。……どうして」
たぶん、彼女は泣いている。でも、声があまり届かない。
第二の詠唱を開始する。
「……『焼かれ、焚かれるとはいえ』!!」
黒炎が俺の全身が解放され、それがルーカンを飲み込もうとしていたが――。
「だめです!!」
「…………ッ!?」
……俺はなにを。
この声は、スコルだ。
そうだ、俺は……なにかヤバイことをしかけたような。――そうだ、親父が俺を魔王にすると言って!
……スコルのおかげで正気を取り戻せた。
だけど、ルーカンのいた近くの壁がぶっ壊れ、地面は数メートル抉られていた。まてまて、これ……俺がやったのか?
「…………こ、降参だ」
がくがく震えるルーカンは、大の字に倒れて白旗を振っていた。マ、マジか。気づかないうちに倒していたとは。
「ラスティさん、もういいんです! 変な風にはならないで……ください」
「あ、ああ。大丈夫だ。俺はもう正気だ」
「よかった。急に恐ろしい気配に変わったから……」
やっぱり、魔王化していたんだ。クソ親父のせいで!
あの野郎、勝手に俺を魔王ドヴォルザーク化させたな。
――そうか。思えば親父はもともとオーディンなのだ。それが闇落ちして魔王ドヴォルザークなんかになっちまった。だから俺が魔王化しても何にもおかしくないわけだ。血筋ってヤツかね。
「なにがあったのですか!?」
ようやくルドミラたちが駆けつけてきたが、破壊された監視塔や外壁を見て驚いていた。
「すまん、ルドミラ。俺が破壊した」
「なんと……! そういえば、魔王ドヴォルザークらしき気配を感じたのですが、あれはなんだったのです?」
ルドミラは勇者だから、気配には敏感なんだな。ちゃんと魔王を捕捉していたとは凄いな。下手すりゃ俺の首が狙われていたかもな。
「あとで詳しく話す」
「わかりました。それまで私が現場を守りましょう」
「ありがたい、頼む」
俺はルーカンを地下牢へぶち込む。
それから……ちょっと休みたいな。




