聖教会 - パトリアルク - の世界聖書
監視塔から外の世界を覗くと、カファルジドマ大帝国の騎士たちが生き残りをかけて戦っていた。
俺の拠点は攻略が非常に難しいと判断したのか……ここ最近は相手の物資を奪うため、他の騎士の拠点を襲っている光景が何度も見られた。
こんな未開の島だから、生きる為には仕方ないのかもしれないが……。
なんであれ、こちらに危害がない分には勝手に戦え。
これがもし、島国ラルゴやドヴォルザーク帝国だったのなら、問答無用で介入するのだが――他国だからな。さすがの俺も手に負えない。
キリアンも大帝国の文化みたいなものだから、止めようもないという。数百年も続いていることだから気にするなと。
だとしても、俺なら止めるけどな。命があまりに軽視されすぎだ。
「こんな戦いに意味はあるのか」
「――そうだ、言っていなかったな」
思い出したかのようにキリアンは、手を鳴らす。
「ん?」
「死者はカファルジドマ大帝国の『聖教会』に送られ、総主教――つまり、パトリアルクの元へ送られる。すると、パトリアルクによって蘇生されるのさ」
「そ、蘇生だって!?」
「ああ、大帝国の民は何度でも蘇る。ただし、武器などのアイテムは全て失うけど」
ということは、俺の罠に掛かって死んだ者、仲間同士で殺し合って死んだ人間たちは大帝国に自動転送され、自動で蘇っているってわけか……?
「まてまて、そんなの反則だろ!」
「とはいえ……それは“本土”での話。この島では分からん」
この島も大帝国の領土のはず。
となると、キリアンの話した通り……今までの騎士たちは生きていることになる。アイテムを失っても、命だけは失わないのか。
だから、あんな命を投げ出してでも戦っているのか。
「となると、また騎士たちが送られてくるのか……」
「そうでもないはずだ」
「どういうことだ?」
「蘇生に時間を要するんだ。一定の人数が集まらないとパトリアルクは動かないらしい」
「そうなのか」
「ああ、いちいち一人ずつなんて効率が悪いだろう。それに、膨大な魔力と詠唱時間があるようだ。ある聖書を使って蘇生魔法を使っているようだがな」
せ、聖書だって!?
それは『世界聖書』のことで間違いない!
大帝国に存在したとはな……。
それを使い、リザレクションを使っているんだ。
スコルが唯一使える奇跡の魔法スキルと思っていたが、そうか……世界聖書を通じて使用する総主教なる者がいるのか。いったい、どんなヤツなんだろうな。
「貴重な情報をありがとう、キリアン」
「いいさ。いつも世話になっているし、島国とやらにも招待してもらえるようだし」
「絶対に損はさせないさ」
キリアンに監視を任せ、俺は監視塔を去った。
◆
拠点の強化をしつつも、俺は家へ戻った。
リビングには、スコルとストレルカの姿が。二人とも楽しそうに会話をしている。微笑ましい光景だ。
邪魔しちゃ悪いな。
もう少し外の強化でもしようっと。
再び外出。
畑でも見に行くと、見知らぬ美少女がいた。……だ、誰!? 誰だ、この桃色の髪の少女。白肌もまぶしいし――あれ、部分的に見覚えがあるな。
「……ん? んん? キミは……」
「あ、ラスティくん。畑を見に来ましたか」
こ、この落ち着いた声はルドミラ!
って、ええっ!?
ルドミラがビキニアーマーを着てない! 白いワンピースなんて着ちゃって……まるで乙女! まったく気づかなかった。
つか、こういう普通の格好をしているの初めて見たぞ。
こうしていれば貴族令嬢にしか見えない。……美しい。
「ルドミラ……どうしたのさ」
「私だって、たまには可愛い服を着ますよ」
そうだったのか、知らなかったぞ。
「どこでその服を」
「ハヴァマールさんに頼んで作ってもらたったんです」
裁縫スキル便利すぎだろ!
いいね、俺もたまには別の服にしようかな。
ずっとドヴォルザーク帝国の第三皇子時代の服装のままなんだよな。着慣れているから、いいんだけどさ。
だけど、たまには衣替えも悪くなさそうだな。うん、ちょっと考えてみよう。
「そうか、似合ってるぞ」
「…………えっ。そ、その、ありがとうございます」
とんでもなく顔を真っ赤にして照れるルドミラは、可愛すぎてビックリした。マジで乙女だった。
つか、こんな表情あんまり見せないよな!?
今日はどうしちゃったんだよ。
こっちまでドキドキしてきた。
「そ、その……なんだ。ジャガイモがたくさんできたな」
「はい。それで考えたのですが」
「おう?」
「これを外の騎士たちに売って、篭絡できないでしょうか!?」
「ろ、篭絡って……」
そりゃ、つまり手懐けるってことだよな。そんなペットみたいなことが可能なのかねえ。
いやだけど、壁の外は常に食糧難っぽいしなぁ。
販売機みたいなものを設置してアイテムと物々交換させれば、こっちにもメリットはあるな。そうすりゃ、拠点も更に強化できるし……ヤツ等も手を出せなくなるオチ。
うん、いいかもな。
敵を殺さずして、こちらは建物やトラップをパワーアップ。未知の無人島のレベルもどんどんアップ。一石二鳥ってわけだ。
「私も協力しますので」
「ありがとう、ルドミラ。おかげで勝てるかもしれんぞ」
俺は思わずルドミラを抱きしめた。
素晴らしい作戦を考えてくれたお礼のつもりだった。
「……いえ、その、ラスティくん。私もお役に立てて嬉しいです」
……って、どんどん顔が赤くなっていないか、ルドミラ。もう普段の凛とした表情はそこにはなかった。今目の前にいるのはただの乙女。
こんなに可愛いと思える日が来るなんて……!




