監視塔から遠距離支援スキル!
トラップを増設するなど防御を固めていると、背後から俺を呼ぶ声がした。この可愛い声はスコルだな?
「どうした、スコル――って、アイファ」
「こんにちは、ラスティさん」
……声がそっくりだから分からなかった。
本当に顔も仕草もまんまだな。唯一、エルフ耳くらいだぞ、違いは。
「ナハトはどうしたんだい?」
「今は外にいるみたいです。騎士を追い払うって言って行ってしまいました」
マジか。ナハトって意外と好戦的なんだな。
だけど、助かる。
危険は少ない方がいい。
それに、ちょうどアイファのことも知りたいと思っていた。
「そうか。ところで、アイファはナハトとは長い付き合い、なんだよね」
「はい。ナハトさんの力でわたしは召喚されました」
以前、言っていたっけな。
ナハトのスキル『トレジャーハンド』の金の宝箱によって出現したと。
「長い旅をしていたみたいだね」
「いろいろありました。最後にはシックザールに負けてしまいましたけどね……」
辛そうに過去を思い出すアイファ。俺自身も過去の記憶を見た。世界の中心に『星の巨大塔トロイメライ』があって、その頂上にヤツがいたんだ。
そういえば、シックザールはこの世界にも塔を建てるとか言っていた。世界の崩壊を防ぐ為だとか。あんなヤツの言葉なんて信じられないけど。
「ちなみに聞きたいんだけど、トロイメライって塔は何なんだ?」
「えっ……。なぜそれを」
「実は、世界聖書でナハトの過去を見たんだよ。それで君のことも知っている」
「そうだったのですね。この世界にも世界聖書が存在するのですね」
「ああ、全部で七つあるらしいけどね」
歩きながらも、俺は監視塔へ向かった。アイファもついてきた。
今はルドミラが監視を続けているようだ。
「そこにいるのはラスティくんと……アイファ様ですか」
するっとハシゴから降りてくるルドミラは、笑みを浮かべる。
「監視ご苦労、ルドミラ」
「いえ、仕事なので。今のところナハトが上手くやってくれています」
「ほう、大活躍だな」
「この数時間で、我が拠点を狙う野良騎士が多くて……。味方のモンスターでも対応できないほどです」
アクアナイトやソーダグリズリーでも追い付かないってわけか。そこでナハトってわけか。
「ちょっと監視塔へ上がっていいか?」
「もちろんです。アイファ様も?」
「ああ。ルドミラはしばらく休憩していてくれ」
「わかりました。では、また」
ルドミラと別れ、俺はハシゴを上っていく。アイファも必死に上がってくる。
「気を付けて」
「ありがとうございます、ラスティさん」
展望台まであがり、景色が一望できた。見晴らしがいいなぁ。
そして、騎士たちの姿がチラホラ。
弓を使って戦っているようだな。
「ナハトの姿は見えないな」
「どこにいるのでしょう?」
「う~ん……」
草原には、多数の気配があるが身を隠しているようだな。気づけば、知らない家や小屋があっちこっちに建っているし、拠点が増えているな。
いつの間に建てたんだか。
「ヘルブレイズ!」
どこかでナハトの声が響く。これは技名だ。
黒い炎が岩陰を負っていた。そうか、隠れている騎士を攻撃したんだな。
「ぎゃあああああああああ……!」
ぶっ飛ばされる騎士たちは逃げ惑っていた。更に、ナハトは小屋を破壊していく。どんどん周囲から建物が消えていた。
すげぇ活躍っぷりだな。
「さすがナハトさんです! うまく追い払っていますね」
アイファはそう言いながらもスキルを発動していた。そうか、ナハトに対して支援スキルを使っていたのか。
「こんな遠くから支援スキルを?」
「はい、できますよ。キリエとグローリアです」
キリエとグローリアといえば、スコルも習得している支援スキルだ。だが、こんな距離で使えるなんて……さすが“黄金の聖女”だ。
感心していると『グゥ~』となにか鳴った。
「え?」
「……はぅ。ごめんなさい、わたしのお腹の音です」
頬を赤くするアイファはそう言った。え、マジで。
「お腹空いていたの?」
「いえ、魔力を消費したのでお腹が減ったんです」
「もしかして、遠距離支援スキルの影響か?」
「そうなんです。無理をすると、空腹になりやすくて……」
なるほど、ちゃんとデメリットもあるんだな。それでも、遠距離でスキルを発動できるなんて凄いけどな。たぶん、スコルでも難しいはずだ。
監視を終え、ハシゴを降りる。
地上に戻ると、そこにはムスペルさんの姿があった。
「お待ちしておりました、ラスティさん」
「え、どういうこと?」
「新たな予言がでました」
「なるほど……聞いておこう」
彼女の予言は当たると確信した。聞いておいて損はないだろう。
まずは家へ戻ってからだ。




