大帝国の真の皇帝
アルフレッドが“未知の無人島”に来れた理由――それは。
「余が呼んだのだ」
背後から現れるメイド服姿のハヴァマールは断言していた。……なるほどねぇ。
黄金の宮殿の――天の声を利用して呼びかけたらしい。
島国ラルゴがまだ無人島だった頃、俺が島に飛ばされた当時のように、語りかけたらしい。……納得。
「そういうことか」
「そうなのだ、兄上。アルフレッドには座標を送った」
「そんなことが出来たとは」
「うむ。島国ラルゴと余は繋がっているから、特にメッセージが送りやすかった」
どうやら、多少の条件はあるらしい。
でもアルフレッドを呼んでくれたのは助かる。
「ラスティ様。ご迷惑でなければ再びお仕えしたい次第です」
「迷惑なものか。俺はすっげー嬉しいよ」
子供のころから、アルフレッドのことは本当の親のように思っていた。常に俺の味方であり、専属執事でもあり――師でもあった。あらゆる知識を与えてくれた恩人だ。
おかげで無人島に飛ばされても、俺は生きながらえることができた。
「感激にございます。では、全力でサポートさせていただきます」
嬉しそうに微笑むアルフレッドは、俺の前で丁寧に頭を下げた。
変わらず元気そうでなにより。
てか、泳いで来たんだよな……すげぇ体力だな。
「しかし、遠かっただろ」
「いえ、移動の大半をサメ系モンスターである『ハンマーヘッドシャーク』に頼りましたので、一日で来られました」
マジかよ。
凶暴なサメに乗って来ていたのかよ……危険すぎる気がするが、アルフレッドなら出来てしまいそうだから、疑いの余地などなかった。
ああ、これはたぶん本当だ。
「理解した。……さて、せっかくだし小屋へ案内するよ」
「おぉ、ラスティ様の無人島開発スキルですな!」
「そうだ。俺の力で開拓した」
「さすが我が主。偉大な力でもう発展を……感服です」
オーバーだなぁと苦笑する俺。
そういえば、アルフレッドはこんなんだったな。
◆
小屋へ戻った途端、スコルはアルフレッドを認識するや歓喜していた。
「わあ! アルフレッドさん! お久しぶりです!」
「スコル様。こちらこそお久しぶりでございます」
「どうしてここに?」
「ハヴァマール様に場所を教えていただき、泳いで参りました」
「え……」
当然の反応だ。普通、泳いできたとか信じられないからな。あと、大半はハンマーヘッドシャークのおかげな!
「おや、客人ですか?」
突然現れた執事に目を細めるムスペルさん。俺は事情を説明した。
「彼はアルフレッドで俺の専属執事だ」
「……なるほど。予言で視えていましたが、このお方が」
「予言していたのかよ」
「ええ、まあ」
キリアンにも紹介して、お互い丁寧に挨拶を済ませていた。
それからエドゥとも。
部屋のソファで寝転がっていた。
「おや、エドゥアルド様。お怪我を?」
「もう大丈夫です。それより、ルドミラちゃんとテオドール、ストレルカさんを救出せねばなりません」
「さきほどラスティ様から聞きました。カファルジドマ大帝国で事件があったと」
「アルフレッド。あなたは知っているでしょう。この世界が“ひとつ”だったことを」
エドゥは淡い瞳でアルフレッドを見つめる。
……妙だな。
この感じ、つい最近どこかで。
いや、気のせいだな。
「ええ、もちろん。カファルジドマ大帝国は、世界聖書に記されておりました。世界の中心であり、全ての根源であると」
更に続けて、アルフレッドはこう言った。
「しかし、トール皇帝は世界を広げるべく……国を割譲したと。人類の発展の為に」
……トール皇帝?
ううん……?
「まて、アルフレッド。カファルジドマ大帝国の皇帝はシックザールと聞いたが」
「現在に至るまでトール皇帝のはずですが……」
つまりアレか。シックザールが皇帝の座を奪ったってことか。そうとしか思えないな。
キリアンに確認してみると、三年前に皇帝が変わったという。
……やはりか。
「あくまで噂だが……トール皇帝は暗殺されたらしい」
「なんだって……」
納得がいかなさそうなキリアン。その情報は重要な気がしている。……暗殺か。そういえば、俺が大聖女ボヘミアを暗殺したことになっているんだっけ。
これまた妙な感じがするな。
もう少し情報収集をする必要がありそうだな。
「ラスティさ~ん、こっち手伝ってください~」
と、いかんいかん。
スコルが昼食の準備で忙しそうだ。そろそろ手伝わねばな。
「私はどうしましょうか?」
「アルフレッドは、井戸から水を汲んできてくれないか。露天風呂に必要なんだ」
「うけたまわりました」
今は、この無人島をレベルアップしていくしかない。カファルジドマ大帝国へ戻る為にも。




