怒りの追放
小屋を出ると、少し離れた場所にかなりの人数の騎士が盾を構え、待機していた。
お、おいおい……なんて数だよ。
「……なぜ、こんなに」
恐怖に震えるスコルは、青ざめていた。
相手の人数が多すぎる。
10人――いや、20人はいるかもしれない。
「大帝国も慌てているということか」
冷静につぶやくハヴァマールだったが、なにかを感じ取って眉を吊り上げていた。
「どうした?」
「…………この気配、まさか」
「え」
「兄上。あの騎士たちの中にエドゥアルドの気配がある」
「エドゥの!?」
ま、まさか“人質”として連れてこられたのか……?
だとしたら、絶対に許さんぞ。コイツ等全員ぶっ飛ばす。
「とうとう騎士団連中が来たか……」
「そうなのか、キリアン」
「ああ、間違いない。ムジョルニア騎士団だ」
カファルジドマ大帝国の騎士団で間違いなさそうだな。
「大罪人ラスティに告ぐ! こちらは貴様の仲間である少女を人質にしているぞ」
背の高い誰かがエドゥを連れ出してきた。
金髪の女騎士だ……かなり美人だが、殺気しか感じない。なんだ、この女は!
「ヤツは、霹靂の『レスクヴァ』だ! まずいぞ、いきなり副団長とはな」
と、キリアンは情報をくれた。マジかよ。
あの余裕たっぷりの表情は自信の現れ。かなり強そうだぞ。
レスクヴァは、かなりの数の拘束具でエドゥを逃げられないようにしていた。目隠しやら、口枷まで! 手足までオモリなどでビッシリだ……そんな過剰な!
「……くっ!」
「反応がないな、ラスティ。いいのか、仲間が痛い目に遭うぞ」
突然、レスクヴァは魔力で剣を編み――それをエドゥの腹部にぶっ刺していた。
「…………ッッ!!」
神器エインヘリャルで不老不死とはいえ、痛みはそのままだ。
エドゥは叫びこそしなかったが、明らかに苦痛で悶えていた。……血が、あんなに。
「レスクヴァ、貴様ああああああ!!」
「ハハハハ! 何度でも刺してやる!」
ヤツは狂気じみていた。
何度も何度も、黄色に輝く魔法の剣でエドゥを突き刺していた。……やがて、エドゥはその場に、ぐったりと倒れていた。
…………あの女だけは絶対に許さん!
「おまえ……」
「楽しい! とても楽しいぞ、ラスティ! そうは思わないか!」
「ふざけるな!」
「オモチャは死んでしまったようだ。さあ、はじめよう! この島なら思う存分に戦えるだろう……!」
騎士を引き連れていきなり現れたかと思えば、俺のエドゥを乱暴に扱いやがって……! 死なないとはいえ、これは残酷すぎる。
「ラスティさん、エドゥさんが……!」
「ああ……スコル。でも大丈夫だ。エドゥは神器で死なないさ。でもきっと精神的に辛いはずだ。こっそりでもいい、ヒールを頼む!」
「わかりました」
後方支援は任せた。
ムスペルさんとキリアンは下がらせた。
ハヴァマールは、さっき魔法スキルを使って魔力がないらしいし、俺が戦うしかない。
俺は久しぶりに怒りに支配されていた。
仲間を、エドゥを血まみれにしやがって……!
+10覚醒ヴェラチュールを即召喚して、俺は本気でブン投げた。
「――怒りのライトニングボルテックス!!」
光速で到達した俺の槍は、レスクヴァに命中してアッサリとぶっ飛ばしていた。ついでに、周囲の騎士共も飛散していく。
「――ぬ!? ぐあああああああああああ……!?」
予想外だったらしく、彼方まで飛翔していった。……怒りに身を任せて全力投球したからな。
「兄上! 思い出したのだ! 無人島開発スキルを使うのだ! 島の“マスター権限”があるだろう!」
…………!
そうだったぜ!!
更に、俺は『覚醒無人島開発スキル』の【追放】権限を発動した。これがあったな! ナイス、ハヴァマール!
「キリアン以外の騎士は、全員追放だ馬鹿野郎!!」
その瞬間、ムジョルニア騎士団の気配は一斉になくなっていた。……よし、全員送り返してやったぜ。
しかも、ただ追放しただけじゃない。
奴らを、どこかの適当な無人島に送ってやった。しばらくは戻れないだろう。
「……エドゥさん、しっかり!」
「…………スコル様、ヒールをありがとうございます……」
俺も直ぐに駆けつける。
エドゥはかなり衰弱していた。
この拘束具を取らないと。
俺はすぐに外して、エドゥを自由にした。これで……ヨシっと。
「よかった。神器のおかげで出血は止まったな」
「ラスティ様のおかげです……」
「いや、すまん。まさか人質にされるとは……」
「……気にしないで。自分は不死身なので」
不幸中の幸いってヤツだな。エインヘリャルに助けられた。
もし神器がなかったら……今頃は命はなかったかもしれない。そう思うと、神器を生み出したスコルのお父さんに感謝だな。
「エドゥ、今小屋へ運んでやるからな」
「で、でも……自分は今、血まみれで……」
「気にすんな」
俺はエドゥをおんぶしていく。
「…………ラスティ様、自分は……わたしは…………嬉しい、です」
普段はクールを装っているエドゥだが、時折見せる素が可愛くてたまらない。もう大賢者の風格である必要はないのにな。




