再び無人島をLv.9999にせよ
真っ白で、無防備な背中を晒すスコル。
俺は今、安全そうな場所に『露天風呂』を生成して、くつろいでいた。
堅固な囲いも作ったし、モンスターに襲われる心配も多分ないはずだ。
スコルで二人きり――なんて最高の楽園じゃないか。
…………と、思ったが。
「う~ん、兄上の風呂はいつも最高なのだ」
ハヴァマールが降臨していた。
どうやら我が妹は風呂好きらしい。
……まあいい。
どのみち、スコルを直視していたら俺は、きっと致死量の鼻血を噴水のように噴き上げて死んでいたかもしれないのだから。
あまりに、魅力的すぎるッ。
「…………ふぅ」
「エルフ族はいつ見ても体が綺麗なのだ」
体を清めているスコルを眺めるハヴァマール。……正直、羨ましい。
俺も見ても怒られはしないだろうけど、しかし鼻がもたん。これ以上は、出血多量で俺が死ぬ。
「――そ、そうだな」
「いつか結婚するのだ?」
「け、結婚!? ……まだ早いって。俺、16歳だぞ」
「ドヴォルザーク帝国の皇帝なのだから関係ないのだ。将来を考えた方がいいのだ、兄上」
言われてみればそうだった。
それに、帝国の法律なら16歳から結婚できたような気がする。アルフレッドかスケルツォに確認した方がいいかもしれないが。
でも、そうだな。
冷静に考えれば『神器エインヘリャル』のおかげで“不老不死”となった今なら、スコルと何百年と一緒にいられるんだよな。
エルフの寿命は、長いと1000年以上と聞く。
エルフの国ボロディンやドヴォルザーク帝国にも高齢なエルフは存在した。だからきっと、スコルも長寿だろう。
「……ふむ」
「ちなみに、ボロディンのエルフはちと特殊でな。平均寿命は2000年なのだ。確認されただけで最高3000歳だ」
「そんなに!」
長生きすぎだろう……。
てか、3000歳って、とんでもない老エルフだな。
「楽しそうですね。なにを話されているのですか?」
「……! スコル、おかえり。そ、それは……別にたいしたことではないよ」
「そうなのですか?」
「あ、ああ……」
不思議そうに首をかしげるスコルは、俺の隣に体を沈めた。
こんなに近いと鼓動が再び加速する。
というか、こんなに近くていいのかっ!
「ところでハヴァマールさんは、いつの間に……」
「おう、スコル。自分で言うのもなんだが余は、神出鬼没。常に兄上を見守り、傍にいる。それが役目なのだ」
冗談っぽくカラカラと笑うハヴァマールは、とても上機嫌だった。……役目ねぇ。俺には、気まぐれな猫――いや、神様にしか思えない。
でも、俺を兄として慕ってくれて、助けてくれる。それは本当にありがたいことだ。
◆
ヘルズベヒーモスを倒して安全になったと判断し、小屋へ帰還。
念のため、小屋周辺を石壁で囲い強化。
更に、落とし穴などトラップもいくつか仕掛けた。
これでもう安心だろう。
「完璧だな」
「ここまで防御を固めるとは、さすが兄上。だが、安心せい。余が見張っておる」
「え? 寝なくて平気なのか?」
「うむ。黄金の宮殿にいる限りは眠くならん。あそこは天国みたいなものだからな」
そう言われると納得できる。天国で寝るヤツなんていないよな。たぶん。
「行くのか?」
「ああ。けど、その前にカファルジドマ大帝国へ帰る条件を教えておく」
「条件があるのですか?」
寝間着姿のスコルがハヴァマールに聞いた。
「よくぞ聞いてくれた、スコル。そうなのだ。この無人島と大帝国は近い場所にある。しかし、ここは転移禁止エリアであり、しかも危険なモンスターも多い。脱出は難しいだろう」
「転移禁止って、そりゃ……ハヴァマールは?」
「兄上。余の黄金の宮殿は転移スキルではなく、ゴッドスキルもといユニークスキルなので関係ないのだ」
なるほど。『転移』という括りでなければいいらしい。
「で、どうすれば大帝国へ戻れる?」
「船を作って海を移動するのは危険すぎる。調べてみたが、海のモンスターが凶悪すぎるのだ。ので、無人島のレベルを上げるのだ!」
「マジか」
「うむ。無人島をLv.9999にすれば島を動かせる!」
「な、なんだってぇ!?」
島国ラルゴ以外の無人島をLv.9999にしなきゃならんのかよ。しかし、それしかないのなら……仕方ないか。
「……そんな」
心配そうに俺を見つめるスコル。
大帝国にいるルドミラたちも助けねばならない。
仕方ない、やるしかないだろう。
「わかった。無人島をLv.9999にすればいいんだな!」
「そうだ、兄上。がんばるのだ!」
一度はLv.9999にしているんだ、きっと何とかなるさ。




