古代魔獣ベヒーモス、襲来
飛び出して行ったスコルを追いかける俺。
森と呼ぶには小規模だが、木々が密集した林へ向かっていた。まずい……日暮れで、すでに暗所だ。
迷って出て来れなくなるぞ。
そろそろ止めねばっ!
スコルは相変わらず全力疾走していた。まさか、こんな足が速いとは……!
「おい、スコ――」
俺は叫んで止めようとしたが、林の方から大きな気配を感じた。
こ、これはモンスターなのか。
それにしてもデケェぞ。
『――グルゥゥゥ……』
さすがのスコルも足を止めていた。
「…………え」
ズシン、ズシンと大きな足音が響く。おいおい、まってくれ。それはないだろう……!
林の奥から現れた巨大な影。
島国ラルゴにいたイノシシとは比較にならない巨大なモンスターだ。
イノシシのようなフォルムをしているが――ちょっと違うな、これは。
[ヘルズベヒーモス]
[詳細]
レイドボス。
聖魔大戦時代の古代魔獣。
高い攻撃力と耐久力を持つ。
風属性攻撃『サンダーキャノン』に注意。
「ヘルズベヒーモス!?」
ボスモンスタークラス――いや、それ以上じゃないか。
「あわわ……ラスティさん!」
バケモノ級巨大モンスターを前に、スコルはくるっとターン。マッハで俺の元に向かってきた。はやっ!
「こんな無人島に魔獣がいるとはな」
「こ、怖いです……」
「大丈夫だ。俺が守る」
+10覚醒ヴェラチュールを武器召喚して、俺は身構えた。
恐ろしい目つきで俺を補足するヘルズベヒーモスは、口を大きく開けた。……ちょ、まさか!
『――ガァゥゥゥ!』
炎でも吐いてくるのかと俺は思ったが、予測はハズレた。
ヤツが放ってきたのは風属性魔法スキル。
俺と同じ雷系でサンダーボールに近い!
まさかそんなモノを口から放つとは――!
無人島開発スキルで壁を作っても防御できるとは思えん。となると、回避する方がいい。
俺はスコルを小脇に抱えて跳躍した。
スコルの体重がスポンジのように軽くて助かった!
「わぁぁぁ……!」
「舌を噛まないよう気をつけるんだぞ、スコル」
「は、はいぃぃ」
宙に舞った俺は、そのまま+10覚醒ヴェラチュールを投擲開始。一直線に飛び出す槍は、ヘルズベヒーモスの肩辺りに突き刺さった。
……なッ!
貫通しないだとぉ!?
「あの獣の体は鋼か!」
「あ……あのあの、ラスティさん、下! 下です!」
「ん……? うお! しまった!!」
下を見下ろすと着地地点に『沼』があった。
って、なんでそんなところに!!
俺とスコルはその沼に落下。しかも、底なし沼のようで、体がどんどん沈んでいった。……ヤベェ!
ヘルズベヒーモスは、俺たちを見失って大人しくなっていた。助かったが――これはこれでマズい。
どうにかして這い上がらねば!
考えろ、俺。
う~ん……
そうだ!
材料の布を使い、覚醒無人島開発スキルでロープを作る。念のため、ロープの先にオモリもつけて、それを木に向かって投げる。そして脱出!
それだ!
俺は急いで道具を生成。
予定通りにロープを投げつけ、木に巻き付けた。お~し、成功!
「おぉ、これなら沼から出られますね!」
「ああ、スコル。俺にしっかり掴まっているんだぞ」
「もちろんです。わたし、絶対に離れませんっ」
ドロドロの沼の中で、スコルは俺に抱きついてきた。泥の感触がほとんどで分からないが、スコルの肌が触れているように思えた。
……柔らかいものが俺を包んでいる気がする。
たぶん、泥だ! たぶんな。
「いくぜっ!」
ロープを使い、俺は登っていく。
即座に手が痛くなったが――気合いだ、気合でいくしかない!
飲み込まれる前に、なんとか這い出ることに成功。
安全な地面で俺は大の字になって倒れた。
泥まみれのスコルが覆いかぶさるように俺に抱きつく。
「ひゃ~…泥人間ですぅ」
「服が大変なことになっている。風呂にも入りたいな」
「……そうですね。でもおかげで助かりました」
「ああ。ヘルズベヒーモスは去った。つーか、あんな危険なのがいると思うと、小屋でのほほんと暮らすわけにもいかないな」
「どうします?」
「今までと同じように小屋で済むより……『地下』の方がいいかもな」
「地下生活ってことですね!」
「名案だろ~?」
「はいっ、とてもいいと思います。――でも、その前にメイルシュトローム!」
ドバアアアァァァ……と、上空から大量の水が降り注いできた。
そや、スコルってば大魔法が使えるんだっけな。
思えば、水もこれで確保できたのでは……。
いや、でも水の貯蔵はできないから、井戸で正しかったけど。
「イイ感じのシャワーだ。泥が洗い流されていくな」
「とても気持ちがいいですね~」
そう言いながらも、スコルは服を脱ぎ始めていた。
「ちょ! なにしてるの!」
「服の中にも泥が入って…………あ、その、洗ってくれますか?」
「え…………」
ついに全部脱いでしまうスコルだが、俺は背を向けた。
一瞬だが、透き通るような白い肌と、美しすぎる谷間を直視してしまった。
…………ドキドキドキドキと俺の心臓が乱れる。
ど、どうしてこうなったー!?




