未知の無人島 Lv.1
「また部下が失礼を」
ヘイムダル宰相は、心底申し訳なさそうに謝罪していた。
「いや、大丈夫だ。むしろ、ルーカンの方が心配だが……」
アイツ、かなりの衝撃で壁にぶつかっていた。
一応近づいて確認すると、腕を掴まれた。
「ラスティ、貴様あああああああああ!」
「……うぉ!? 死体がシャベッタ!」
「誰が死体じゃ! 死んでおらんわ!」
なかなかシブトイというか、無駄に防御力のあるヤツだなと俺は思った。
スコルのあのスキルを食らって、まだ動けるとはな。
「ホーリークロス!」
ぴゅぅぅぅちゅどぉぉぉん――と、再び聖属性攻撃がルーカンに激突。今度こそ白目を剥いていた。
「今日のスコルは手加減なしだな。どうした?」
「ここへ連れてこられる前なのですが、この方……わたしのお尻を触ってきたんです!」
「んなッ! 痴漢野郎じゃねぇか!」
なるほど、そういう経緯もあってスコルは激怒していたんだな。つか、俺のスコルに気安く触れやがって……ルーカンの野郎、ヘンタイだったとは!
「なんと申し訳ない……いや、情けない」
さすがのヘイムダル宰相も呆れていた。
その後、ルーカンは担架に乗せられ、衛兵の手によって運ばれていった。
「ところで、この美しい方は?」
「ああ、実は――」
俺はスコルにヘイムダル宰相のことを話した。すると、かなり驚いていた。
「そうだったのですね! では、ラスティさんに罪はないのですね!」
「そういうことです」
「よかったぁ……」
胸を撫で下ろすスコルは、嬉しそうに微笑む。
俺も疑いが晴れて安心したよ。
――さて、残るはシックザールの話だが――。
なんか上空から気配を感じるんだよな。……いや、これは!
『…………見つけたぞ、ヘイムダル!』
どこで来たような声が響き、そしてそれは“飛来”してきた。
「おい、まさか――!」
あの巨大な黄金竜は『コルキス』か!
どこへ行ったかと思えば、まさかこんなところで会うとは。
「久しぶりだな、ラスティ」
「あ、ああ……。って、なんでここにいるんだよ」
「この国でナハトの気配を感じたからだ。いるんだろう?」
「よく分かったな。そうだな、どこかにいるはずだ」
「……そうか。それならいい。それよりヘイムダル……!」
コルキスは、鋭い目つきでヘイムダルを睨む。一方のヘイムダルは平然としていた。……もしかして、顔見知りなのか。
「……久しぶりですね、コルキス」
「ナハトの次はラスティを利用する気か!」
「なんのことでしょうか?」
ヘイムダルはとぼけるように言った。……ナハトを利用? 俺を利用? どういうことだ、それは。
今までの情報を聞く限りでは、ヘイムダルは味方に思えたがな。そうではないのか?
「しらばっくれるな! ヘイムダル、お前は世界聖書を悪用し、シックザールに手を貸した! だから、こんな醜い国が生まれたんだ」
なんだって……コルキスの言うことが本当なら、ヘイムダルは極悪人じゃないか。……でも、コルキスの言うことが正しいのかも分からない。
どっちを信じればいいんだ?
「ヘイムダル、どういうことなんだ、これは」
「……ラスティさん。コルキスは全て間違っている」
「信じるな、ラスティ! この女は……この女こそが大聖女ボヘミア様を暗殺した犯人だ!!」
――その瞬間、俺とスコルに“ナニカ”が渦巻いた。
え、なんだこの、青紫のオーラは――?
「……え」
ぐにゃりと視界が曲がっていく。
その時、俺は見逃さなかった。
ヘイムダルの口元が酷く歪んでいたことを――。
悪魔みたいな笑みを浮かべていたんだ――。
……なぜ!!
『うあああああああああああああああああああああ…………!』
・
・
・
――――。
意識を飛ばされたような感覚だった。
体がどこかにあるのか。
まるで幽体離脱のような浮遊感。なぜ、どうしてこうなった……?
俺は、
スコルはどこにいる?
『――――ザァァァ』
波音が聞こえるような。
ん、波音?
瞼をパカリと開けると、そこは――。
「海……?」
「ラスティさん、ここはどこですか……!? 何も見えませぇぇん……」
いつしかのように藻のオバケになっているスコル。俺は藻を解きながら、周囲を見渡す。
おい、おい……うぉい!
ここはまさか……『無人島』……なのか!?
【未知の無人島 Lv.1】
は、はああああああああ……!?




