賢人ヘイムダル宰相
【カファルジドマ大帝国:グラズヘイム城】
塔のように巨大な城がそこにはあった。
……なんだよこれ。
ポロッと出た一言がそれだった。……ありえねぇ、デカさだ。
ドヴォルザーク帝国にあるスターバトマーテル城を遥かに凌ぐ巨大建造物。てか、これはもう神話に出てくる宮殿に近い。
「なにをぼうっとしている。さっさと歩け!」
怪訝な表情で俺を見つめるルーカン。
コイツは本当に俺が嫌いらしい。
やれやれとジト目を送り返してやり――城の中へ。
俺を取り囲んでいた騎士は散り散りになり、数人が残った。そして、大きな扉の前で止まった。
「ここか……」
「この先にヘイムダイル宰相がおられる。くれぐれも失礼のないようにな」
重苦しい音と共に堅固な扉が開く。
大広間には背を向ける人物が。
ゆっくりとこちらを向く美しい女性。……って、女? 俺はてっきり男だと思っていたんだがな。
透き通るような白い肌。
黄緑色の長い髪を腰まで伸ばし、優しい瞳でこちらを見つめる。
「ようこそ、ラスティ・ヴァーミリオンさん」
「……!? 俺のことを」
「ええ、存じていますよ」
落ち着いた柔らかい口調で歓迎してくれる宰相。
そんな妙な空気の中でルーカンが声を荒げていた。
「宰相! 私は納得いきません。大聖女ボヘミア様を手に掛けた大罪人を神聖な広間に招くなど……! 即刻、ギロチンか火あぶりでしょう! いえ、公開処刑です! でなければ、民たちは納得しませんし、暴動です。革命です!」
めちゃくちゃ早口で言うルーカン。明らかに怒っていた。
てか、冤罪だってーの!
そろそろ俺も無実を訴えていかねばなと考えた時だった――。
「ルーカン。あなたは下がりなさい」
「なッ……! なぜです! このような殺人鬼と二人きりにさせられませんよ。危険すぎます!」
「構いません。彼は誰も殺してなどいないのですから」
「――は?」
ルーカンは呆然と立ち尽くす。
というか、俺もビックリした。
ヘイムダル宰相がまさかそのようなことを言いだすとは。ということは、俺は最初から“無実”だったってことか。
「詳しいことは後で。それより、今は世界の異常に目を向けるべきでしょう」
「な、な……! くっ、失礼いたします」
最後まで俺を睨み、ルーカンは去っていく。なんでそんな目の敵にするかね。
「部下が失礼を」
「いや……その、ヘイムダル宰相。俺はなんで大罪人扱いに?」
「ふむ、そうですね。まずはそれについては謝罪を」
「え」
「あなたに懸賞金を懸ければきっと我が国に来てくれると思ったからです」
「ナンダッテ……」
「御覧になったと思いますが、我がカファルジドマ大帝国は貧富の差が激しい。相手の物資を奪い、己の力で生きていかねばなりません」
――確かに、貧乏人は服がボロボロだった。それに比べ、騎士はそれなりの身なりをしていた。……物資の奪い合いか。まさか国が推奨しているのか。
「なぜこんな恐ろしいことを」
「弱肉強食の国ですからね。まあ、古代からのしきたりとも言えますが」
ヘイムダル宰相によると、大帝国ができる以前からある風習のようなものらしい。まるで原始時代の話がそのまま続いているような感じだ。
「不器用だってことは分かった。――で、どうして呼び出した?」
「あなたは今、大切な人を探しているのではないのですか?」
「……! どうしてそれを」
「ルーカンからの報告でありました。アイファという少女を探していると」
そういうことか。
「そうだ。このカファルジドマ大帝国にいるかもしれない。教えてくれ」
「彼女はこの大帝国にいますよ」
「マジか。まるで分かっているみたいじゃないか」
「ええ。自分には大体のことは分かるんです。――星帝シックザールのことも」
「……! あんた、何者だ!」
星帝シックザールのことまで知っているなんて、さすがにおかしい。
このカファルジドマ大帝国は、つい最近に出現した異国。別の世界にあった国のはず。……いや、でもあの男は有名人らしいからな。
世界聖書を悪用し、各世界を巡って悪さをしていたもおかしくない。
……だけど、なんだろうな、この違和感は。
「ラスティ、あなたは道中で知ったはずです。この世界は“ひとつの存在”だったのだと」
「あ、ああ……」
「なら、ここへ来た意味はありました。世界のこと、黄金のこと。そして、星帝シックザールのことをお話しましょう」
どうやら、このヘイムダル宰相とやらは『全て』を知っているようだな。
それをなぜ俺に話してくれるのか。
全部教えてもらおうか……!




