神器移植の条件
抱きついてこようとするテオドールを俺は緊急回避。
「うぉい!」
「なぜ避ける。神器の移植だぞ、ラスティ」
「だからって抱きつく必要あるのか!?」
「ある。私の心臓にある神器を移すには、アツい抱擁を交わし……キスをする必要がある」
「――んなッ!!」
そんな方法なのかよ!!
最悪だ!!
なら、せめてルドミラかエドゥがいい! なぜ男同士でキスしなければならん! 絶対に嫌だ! 断固拒否だ!
「なにをゴチャゴチャ話している!」
痺れを切らしたケニングは、魔剣ダーインスレイヴを振り回してきた。これまた緊急回避。……おっと、危ねぇ!
頭上に大剣が横切っていった。なんて風圧。恐ろしい威力だ。
まともに喰らえば真っ二つだろうな……。
「これで時間を稼ぐ――落とし穴!」
ヤツの足元に落とし穴を設置。すると、あっけなく落下するケニング。最初から、この方が早かったか。
「――無駄だあああああ!」
「なにィ!?」
[バーニングブースト][Lv.5]
[補助スキル]
[効果]
全身のどこでもよい。一部に火属性を付与する。このスキルはジェット推進を得ることが可能である。飛行可能。ホバリングも可能。
「我がスキル、バーニングブーストなら飛行可能だ」
浮き上がるように這い上がってくるケニング。まさか、ハーピィとかの鳥人族でもないのに飛ぶ人間がいるとはな……。この男、想像以上に厄介だぞ。
「おいおい、そんなのアリかよ」
「一時退却も考えた方がいいのでは」
テオドールはすでに逃走する気満々だった。まてまて、諦めるのはまだ早いだろう。てか、そんなカッコ悪い真似が出来るか! ドヴォルザーク帝国の皇帝として!
つーか、俺のプライドが許さん。
「エインヘリャルはお預けだ。でも戦う!」
「頑固だな、ラスティ。だけど――その信念があってこそだ」
スチャッと三本のポーションを取り出すテオドールは、それをケニングへ投げつけた。ま、まさか……!
『ズドオオオオオオオオオオオ……!!』
爆弾ポーションかよ!
周囲に配慮してなのか威力は控えめだったが、それでもなかなかの爆風だ。……これなら、ヤツを倒せて――?
「無駄だ」
爆炎の煙の中からケニングは現れ、空高く飛んでいた。野郎、バケモノか。
こうなったら、最大出力のスキルで……!
「ライトニング……」
「遅い! ラスティ、お前はここで散れ……ラーヴァブレイク!」
大剣をまるでハンマーのように叩きつけてくるケニング。やべえ、あれは――死ぬ! どうする……どうすりゃいい!
焦っていると、建物の中から人影が現れた。スコルだった。
「ラスティさ~ん、占いもとい予言終わりました~! 無事に――って、え……」
空を見上げるスコルは、ケニングに存在に硬直。ヤツがこちらへ突っ込んできていた。……マズイ、スコルを巻き込んでしまう!
「…………ッッ!?」
しかし、途中で剣を止めていた。
ケニングは幽霊でも見るかのようにスコルを見つめていた。
隙だらけじゃないか!
悪いが、今しかない!
卑怯と言われても、俺はスコルを守るためなら今というチャンスを逃さない。
「ライトニングボルテックス!」
召喚武器なしで俺は素手でスキルを発動。
武器補正の魔法攻撃力分の威力は落ちるが、それでも十分だ。
「ぐ、うおうおうおおおおおおおおおおおお…………!?」
雷の渦がヤツを激しく飲み込み、全身を縦横無尽に駆け巡っていく。そして、強烈な一撃と共にヤツは空へ打ちあがっていく。
巨体がカファルジドマ大帝国のどこかへ飛んでいく。……よし、上手くいった!
かなり吹っ飛んでいったし、しばらく会うこともあるまい。
「えっと……ラスティさん、今の方は……?」
「気にするな。ただのお客さんだ」
「お、お客さん!?」
ストレルカやルドミラ、エドゥもお店から出てきた。状況を飲み込めないようで、ぼうっと立ち尽くしていた。
俺はみんなに説明した。
「――というわけだ」
「そのようなことが。……この手配書が……」
複雑そうな微妙な表情を浮かべるルドミラは、手配書を全て剥ぎ取り処分していた。……助かるね。
「ありがとう」
「我が主を犯罪者扱いなど許せません。一刻も早く誤解をとかねば」
「ケニング……さっきの巨漢によれば、俺が大聖女ボヘミアを殺害した犯人になっているようだ」
「なんと!?」
もちろん、そんなワケがない。ありえないんだ。
きっと、この国の誰かが俺を犯人に仕立てているんだ。ふざけやがって……!
でもきっと見つけてみせる。
そして、俺の無実を証明してもらう。
それと聖女アイファだ。別行動しているナハトは彼女を見つけだしているだろうか。
気になるところだが――。
「……」
「ん、どうしたスコル」
「い、いえ! なんでもありません。でも、嬉しいんです」
「嬉しい?」
「はい、とっても嬉しいんですっ」
なにか良い予言でも出たのかな?
教えては……くれないよな。
ちょっと気になっていると、噴水広場には多くの騎士が集まってきていた。俺たちを取り囲むように。
――って、マジで囲まれているじゃないか!
その中にはルーカンの姿もあった。
そうか、俺を本気で捕まえにきたか。……どうする?




