大人の色気がスゲェ
「……ッ! ルミナスだと……!」
恐ろしいものを見たと、ルーカンは青ざめながらも華麗にバックステップ。俺たちから距離をとっていた。
なんだ、急に警戒しまくってるぞ。
「エドゥのスキルを知っているのか、ルーカン」
「知っているも何もない。それはかつて大聖女様が使われていた守護結界……! なぜ、異界の者が使えるのだ」
なぜと言われてもなぁ。俺にも分からん。
「なぜなんだ、エドゥ」
「大聖女ボヘミア様と会ったことがあるからです」
「――なるほど」
納得していると、ルーカンは超ビビっていた。
「な、なんだとぉ!? そこの賢者、ボヘミア様をご存じか!」
こくっと静かにうなずくエドゥ。その感じからして、カファルジドマ大帝国に滞在していたことがあるようだな。
この大賢者は、ナハトの世界にも干渉していたようだし……なにか重大な秘密を知っていそうだ。
「それより、アイファだ」
「だから知らん。そんな名はこの大帝国で聞いたことがない」
「そうか。残念だ――鋼鉄チェーン!」
「む? ぐおわぁッ!? なんだこの鎖は!」
俺は、覚醒無人島開発スキルを発動し、ルーカンの体に鋼鉄チェーンを巻き付けた。
これ以上暴れられてもダルいし、有益な情報ももう引き出せないと判断した。この騎士に構っているヒマはない。
「じゃあな、ルーカン」
「……っ、ラスティ。お前は……大罪人だ! 逮捕、するぅ!」
まーだあんなこと言ってるよ。
もちろん、俺は無視してみんなと共に先へ進む。
◆
ルーカンを倒したせいか、周囲の騎士は恐れて俺たちを襲ってくることはなかった。
無駄な戦闘を省けて助かるね。
少し歩くと、スコルがある場所で足を止めた。
「ん、どうした?」
「このお店……」
「ん、ああ」
そこには【占い】の文字が――てか、こういう看板とかの言語は俺たちと共通なのか。スペルカードは未知の言語だったのに、どうなっているんだ……?
「占ってもらいたいですね……!」
「よし、寄っていくか」
「いいんですか?」
「構わんよ。たまには息抜きも必要さ」
ストレルカと、おまけにテオドールも興味津々だからな。
「スコルさん、わたくしも一緒に……!」
「そうですね、ストレルカさん!」
二人とも意気投合している。
な、なんでこんな燃え上がっているんだ……!?
ちょっとビビっていると、テオドールが俺の肩に手を置いた。
「私も嫁たちとの未来について気になっていてね」
「それならスコルのアカシックレコードで――」
「いや、世界聖書に記されいる、ほぼ確定した未来は見たくない。未来は分からないから面白いのさ」
それでは占いも似たようなものな気が――いや、外れることもあるから違うか。
「ルドミラちゃんも占いに興味があるようです」
「ちょ、エドゥ! な、なにを言うのです!」
ルドミラの背中を押すエドゥは、面白いことを言う。へえ、ルドミラが占いに興味をねえ。やっぱり恋愛なのかな。
「恋占いか?」
「……ッッ!」
顔を真っ赤にするルドミラ。
珍しく狼狽えているな。
こりゃ、余計に寄り道したくなってきた。
少し寄っていこう。
占い店の名は『ムスペルヘイム』といった。
中へ入ると、妙な熱気を感じた。……暑ッ!?
どうなってんだここ。まるでサウナだぞ。
「いらっしゃいませ」
静かな声が響く。
そこには赤と白のツートンの髪をした女性が立っていた。……おぉ、大人の色気がスゲェ。
妙にジプシーっぽい恰好なのも高得点だ。――って、なにを言っているんだ俺は。
「あ、あの~、占い師さんですよね?」
「ええ、そうです。私の名はムスペル。……おや、これはこれはボヘミア様」
と、ムスペルという女性は勘違いしていた。
「えっと……わたしはそのボヘミア様ではありません。エルフですし」
「……あら、これは失礼を」
落ち着いた表情と口調でムスペルは、部屋に案内してくれた。どうやら、大所帯向けの応接室があるらしい。
広間に到着すると、変わった風景がそこにはあった。
「なんだかイイ匂いがしますね」
「鋭いですね、ストレルカさん」
「え……わたくし、まだ名を名乗っていませんけど……」
「私は当たると有名な占い師ですから」
占いで名を当てたってことか? そんなことが?
部屋に広がっている絨毯のようなものは『畳』というらしい。
そこにそのまま座って占いをしてくれるようだ。
そういえば、アルフレッドが言っていたな。
異国の国には『畳』があって、みんなそこで生活しているって。あと『囲炉裏』で囲っていると。
でも、そんなものがなぜ、この大帝国の占い店に……?
「私のことが気になるようですね、ラスティさん」
「!? な、なんで……」
「ドヴォルザーク帝国のもともとは第三皇子。ですが、今は聖戦を経て皇帝の座に」
「こ、心が読めるのか?」
「これも占いです」
そんなアホな!
まだなにもしていないじゃないか。
最初から俺たちのことを知っていたとしか思えないぞ。
それとも本物なのか……?
エドゥ以上の大賢者なのかもしれない。




