カファルジドマ大帝国
ルサルカ大陸を抜け、ついにオラトリオ大陸へ突入。
ここまで二日を要したが――意外と早く着いた。
その間にも、カファルジドマ大帝国からやってくる人間は後を絶たず。俺とスコルは特に人気者だった。
嬉しくない人気だな。
「……おぉ、あれが大帝国なのですね」
遠くを見つめるスコルは、妙に懐かしそうな表情をしていた。
縁はないはずだが――ボヘミアに引っかかる部分でもあるのだろうか。
俺は『覚醒無人島開発スキル』で小屋の風化を修繕しつつ、ドラム缶風呂に目をやった。
すると、そこにはのびのび風呂に入るハヴァマールの姿が。
「なんだ、ハヴァマールか」
「おう、兄上」
「……って、ハヴァマール!?」
人体を失ったはずのハヴァマールがそこに降臨していた。いつの間にいたんだよッ!
「久しぶりに下界に降りてきたのだ。やはり、黄金の宮殿は退屈でなぁ」
「お前な。しばらく無理じゃなかったのかよ」
「それが不思議なことにな。カファルジドマ大帝国に接近すればするほど魔力が高まったのだ」
マジかよ。どういう理屈だよ、それは。
まあいいか。こうして目の前に復活してくれたことは兄として嬉しい。
「一緒に行動できるんだな?」
「んや。肉体が戻ったとはいえ、動けぬ」
「なんだって?」
「まだ完全ではないのだ。歩行は困難だ」
そんなことって……。
お風呂は入れているのに、歩けないというのか。
まあいい、ハヴァマールはここに置いておくとして――。
【カファルジドマ大帝国】
到着だな。
眼前に広がる恐ろしく広い国。
どこまでも街並みが続き、建物が無数にあった。……これが貧困? 信じられねえ。
どう見ても経済力のありそうな国だけどな。
なんなら、俺のドヴォルザーク帝国と遜色ないレベルだ。
「おや」
国を見つめるルドミラは人差し指を街並みへ向ける。すると、直後。
『ピュ~~~ドォォォン!』
と、綺麗な花火が打ちあがっていた。一発だけ。
「なんだ、花火を打ち上げるだけの余裕はあるじゃないか」
「ラスティくん。カファルジドマ大帝国は未知の国ですから、団体行動は避けた方がよろしいかと」
「そうだな。今回は何人かアルケロンで待機してもらう」
と、俺が発言するとみんなが『え~!』と不満そうに声をあげた。
……みんな行きたいんだ。
「自分は常にラスティ様と」
エドゥは、ちょっと恥ずかしそうに俺の服を引っ張る。
「私もエドゥに同感でね。この目で大帝国の内部を確かめたい」
テオドールも恥ずかしそうに俺の服を引っ張る。――って、気持ち悪いわっ!
「わたくしもご同行させてください」
「ああ、今回はストレルカは一緒だ」
「まあ、嬉しいです! ありがとうございます」
レイナルド伯爵の要請で、エチェナグシアの民たちを島国ラルゴへ避難させた。その任務で随分とがんばってくれたようだし、お礼もしたいと思っていた。
だから、ストレルカは連れていく。
「俺は単独行動しようと思う」
「ナハト、だが……」
「ちょっと気になることもあってな」
そうだな、アイファを一番に見つけたいのはナハトだ。俺が行動を制限できることではない。
「分かった。気をつけてな」
「いざとなったら合流するさ」
「了解。じゃあ、エドゥに転移してもらえ」
「そうする」
エドゥの転移スキルでナハトは、直ぐに地上へ降りた。一足先にカファルジドマ大帝国内部へ進んだ。
さて、俺たちも向かうか。
「私も行きますよ」
ルドミラはアイテム整理をしながら、そう言った。
となると、留守番はハヴァマールだけか。
「余のことなら気にするな。どうせ動けん」
「って、ハヴァマールさん。いつの間に!?」
「おう、スコル。さきほどからいたぞ」
ニッカリ笑うハヴァマールは、ドラム缶風呂に浸かりながらピースしていた。お気楽なヤツめ。
「あの、ラスティくん」
困惑気味にルドミラは俺にたずねてきた。
「ん?」
「ハヴァマールさんは……消えたのでは?」
「いやまあ、アイツは神様みたいなものだからな」
「……なるほど」
腑に落ちてなさそうだが、正直俺もそうだ。ハヴァマールは、俺が考えるよりも上位存在なんだろうな。ていうか、無人島開発スキルをくれたのも覚醒させてくれたのもハヴァマールなんだよな。
我が妹、大切にせねば。
「じゃあ、行ってくる」
「おう、兄上。ピンチになったら余を呼ぶがよい」
「ああ、頼りにしてるぜ!」
エドゥが指を鳴らす。
その瞬間にはカファルジドマ大帝国の街中にいた。
心の準備がまだだったが、あっさりと中へ入った。……ここが大帝国の街中。
ボロボロの服で、しかも裸足で闊歩する人々。
表情に生気も笑顔もない。
しかし、なにかを求めているような――かつて、俺が“泥水を啜ってでも生き残ってやる”と豪語した時のような、そんな人間の欲深さ、執念を感じる。
周囲の人間、十数名ほどが俺たちに集中する。
その目つきはまるで――獣のような。
草原や高原フィールドで散々感じた殺気と似ていた。
いや、そのものである。
ま、まさか!?




